犬・猫の呼吸器臨床研究会

犬・猫の呼吸器臨床研究会VeRMS Study Groupについて

2021年8月1日より犬・猫の呼吸器臨床研究会 VeRMS Study Groupのホームページは独立いたしました。本ページは、2021年7月31日までの情報となります。それ以降の情報は、www.verms.or.jp で更新しております。

この度、21名の有志発起人から、犬・猫の呼吸器臨床研究会を立ち上げました。対象は、犬・猫の鼻から肺までの気道の疾患です。呼吸器臨床の基本と基礎から見直し、臨床初学者からベテラン先生まで、呼吸器をよく理解し親しんでいただき、「呼吸器症状を呈した動物が来院したら、どう考え、どうしたらよいのか」ということを会内で共有していきたいと思います。一方で、人と動物で共有する呼吸器難病の解明や治療にも臨床獣医師の立場で取り組んでいきます。特に、

短頭種気道症候群(ヒトの睡眠時無呼吸症候群や乳幼児突然死症候群と関連)

猫のびまん性肺疾患(ヒトの特発性間質性肺炎と関連)

気管支鏡を用いた診断と治療(ヒトの気管支鏡治療手技と関連)

の3つについて深く探求し、より新しい情報を勉強会で報告したり、臨床研究を学会報告や論文投稿します。学生や動物看護師の入会も歓迎しております。ぜひ新しい視点で一緒に犬・猫の呼吸器を勉強していきましょう。隔月の勉強会の対象は獣医師、動物看護師、動物医療に関する企業、医師になります。当日会員でない方の参加もOKです。

犬・猫の呼吸器科 院長 城下 幸仁

当研究会の主な開催

1)犬・猫の呼吸器勉強会 隔月

2)年次大会 年1回開催

研究班活動

研究会発起人メンバーにて、上記3テーマに関してそれぞれ研究班を構成しました。重要かつ関心のある文献を随時研究会に報告し、当研究会のサイトに公開しております。

入会のご案内

入会費 3000円

年会費

一般会員(獣医師) 12000円 (2020.10.1より変更)

学生・動物看護師 3000円

団体会員(大学研究室単位)15000円

賛助会員(関連企業) 30000円

入会希望の方は、研究会事務局(jimu@verms.jp)までご連絡ください。

会費納入のご案内を連絡いたします。


 


お知らせ

皆様のご理解とご支援のおかげで、当研究会は2020年10月1日に任意団体から一般社団法人となりました。これからは、公認の公益法人となりました。国内外の呼吸器関連知見の収集と会内情報交換を密にし、正しく判別し責任ある声明を発信して参ります。それが可能な組織作りや広報活動も展開していきます。まず、基本となる診療基準の提唱や基準書の発刊、研究成果の国内外への発表や定期セミナー開催による知識・技術の認知や普及に努め、犬・猫の呼吸器臨床の土台作りに貢献したいと考えております。

特に、本研究会では研究活動を通じて人医分野への貢献も考えており、医学の将来にもかかわる分野との共同活動にも関与していきたいと思っております。

今後なお一層の研究会活動へのご参加とご支援をよろしくお願いします。

今後、研究会窓口は以下となります。

一般社団法人 犬・猫の呼吸器臨床研究会 事務局

〒252-0001 神奈川県座間市相模が丘6-11-7

Tel 046-256-4351  Fax 046-256-6974  E-mail jimu@verms.jp

連絡はなるべくEメールにてお願いします。

活動状況はホームページや事務局からのEメールアドレスを通じて報告や連絡いたしますので、ご多忙かと思いますが、ご確認お願いします。

令和2年11月1日

一般社団法人 犬・猫の呼吸器臨床研究会 代表

犬・猫の呼吸器科 院長 城下幸仁


第2回年次大会2021の開催予定

日時:令和3年8月17日(火)9:00−17:00 (1日開催)

開催方法:オンライン開催、開催後オンデマンド配信 3ヶ月

参加登録方法:7月31日以降に研究会HP(http://www.verms.or.jp)よりお申込みください。開催当日視聴参加の場合は8月10日までに手続完了をお願いします。Web上で24時間受付可能です。

※7月20日〜8月10日まではメール(jimu@vems.jp)でも参加登録を受け付ています。

参加登録期間:7月31日〜8月31日 (メールでの登録は7月20日から受付開始)

参加費(本会は事前登録のみ)

会員5000円、非会員7000円

年次大会へのご質問は、当研究会事務局(jimu@verms.jp)まで

9:00−12:00 Ⅰ 総論 犬・猫の呼吸器の代表的な疾患 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)40分講義(ライブ)+10分質疑応答(ライブ)X3コマ 座長:飯野亮太(いいのペットクリニック)

今年秋に、犬・猫の呼吸器臨床研究会編「一般医のための犬・猫の呼吸器疾患」が発刊予定となりました。日頃臨床医が困る飼い主への正確なインフォメーションを行うために重要な情報を簡潔にまとめたソフトカバーの本です。図や動画も豊富に取り入れました。今後、標準書となるように、文献情報に基づき記述し昨今の重要な情報をとりいれました。この一冊に本邦で日々遭遇しうる犬・猫の呼吸器疾患をカバーいたしました。今回の講義は、発刊に先立ち、その書籍の内容に即したものとしました。呼吸器疾患は単独で生じることは少なく、常に上気道、中枢気道、末梢気道・肺実質疾患を系統的に関連付けて考察して治療にとりかからないと治療効果は得られません。それには鼻から肺までの主要な疾患を知る必要があります。第1回年次大会で定義し、書籍で取り上げた鑑別疾患リストの計83疾患の中から、各区分の代表疾患について概説します。

13:00−13:50 Ⅱ 研究会業績報告 喉頭蓋の後傾の病態と治療 稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)40分講義(録画)+10分質疑応答(ライブ)X1コマ 座長:飯野亮太(いいのペットクリニック)

喉頭蓋の後傾とは、本来吸気時に前屈し喉頭口を広げるはずの喉頭蓋が、何らかの原因により後屈してしまい喉頭口を閉塞することで呼吸困難を生じる疾患である。現在のところその原因は解明されていない。これまであまり認識されていない疾患であったが、呼吸器診療では比較的遭遇することが多く、実際には見逃されている可能性がある。喉頭蓋の後傾の症状や診断法を解説するとともに、これまでの報告と当院呼吸器科で経験した29例から喉頭蓋の後傾の病態を整理する。また、喉頭蓋の後傾の治療として呼吸困難が持続する場合には病態に応じて喉頭蓋に対する外科的治療を検討する必要がある。これまで喉頭蓋の後傾に対して喉頭蓋の固定術や亜全摘出術、部分切除術などの術式が報告されているが、どのような術式が最善かは結論が出ていない。当院では喉頭蓋V字状部分切除術を実施し良好な経過が得られており、その術式を紹介する。

 

14:00−15:00 Ⅲ 症例報告 2題 1時間 各演題15分発表(録画)+10分質疑応答(ライブ)

座長:城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1 気管支鏡検査にて犬の肺虫症と診断し、フェンベンダゾールとプレドニゾロン投与にて良好な経過を示した1例

上田一徳(横浜山手犬猫医療センター)

症例は、ビーグル犬、オス、12歳。1年半前に沖縄から横浜へ移住。2週間前より咳、スターター、いびき、膿性鼻汁、くしゃみの主訴で当院を来院した。犬・猫の呼吸器科にて、鼻鏡、喉頭鏡、気管・気管支鏡検査を実施した。複数の気管支が管外性圧迫にて狭窄、左鼻腔に根尖膿瘍あり。BALF細胞診にて慢性活動性炎症パターンとともに、線虫類を疑う虫体が散見され、形態学的に犬肺虫症と診断した(Filaroides hirthi) 。治療は、1) フェンベンダゾール内服投与、2) プレドニゾロン内服投与、3) ネブライザー療法(生食、GM、ボスミン, ビソルボン)、4)ビクタス内服投与を14日間投与した。治療後経過は良好で、治療終了後約1年間咳の症状はほぼ無い。犬肺虫症の確定診断は気管支鏡にて可能であった。西日本に多い疾患であるが、今回横浜で確認された。犬肺虫症は流行地域外でも鑑別疾患から除外できないことを示した。

 

2 アロマ吸入後に呼吸困難を呈し濾胞性性細気管支炎と診断した猫の1例

城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

猫のアロマ吸入による呼吸器毒性については逸話的情報に限られている。今回、アロマ吸入後に呼吸困難を発症し、外科的肺生検にて濾胞性細気管支炎と診断した猫の1例を経験したので報告する。7歳、去勢済みオスの雑種猫が、アロマ噴霧吸入開始1週間後に努力呼吸を示した。噴霧は中止されていたが、1週間後偶然猫がその部屋に入ったときに呼吸促迫となり夜間救急病院受診した。びまん性肺疾患と診断されステロイドに部分的に反応した。その後3ヶ月経過しても小康状態のため当院呼吸器科受診となり、気管支鏡検査にて気道異物、感染、好酸球性肺疾患を除外、組織検査にて腫瘍を除外し、濾胞性細気管支炎に相当する所見を認めた。その後、在宅酸素療法、プレドニゾロン1.25mg/kg PO BIDにて、第143病日以降、呼吸症状は安定した。第372病日にプレドニゾロンを0.7mg/kg PO SIDまで漸減すると再発し、同1.0mg/kg PO SIDで回復した。現在第502病日、同用量で維持し再発はない。アロマ成分はtea tree oilであった。

 

16:00−17:00 Ⅳ 症例相談 3題 1時間 各演題10分発表(録画)+質問回答(ライブ)10分

城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

症例相談回答担当—呼吸器:山谷吉樹(日大)、城下幸仁(犬・猫の呼吸器科);循環器:青木卓磨(麻布大);病理:三井一鬼(岡山理科大)

1 肺高血圧症を認めた犬の間質性肺炎2例

平川篤(ペットクリニックハレルヤ粕屋病院)

症例1は、15歳、未去勢のミニチュアダックスフント、症例2は、13歳、未避妊のミニチュアダックスフントで急性呼吸困難にて来院した。2例とも胸部X線検査にて、びまん性の不透過性亢進像が認められたため、肺炎あるいは肺水腫を疑った。心エコー検査にて、心室中隔の扁平化、三尖弁逆流(症例1:4.64m/sec、症例2:5.31m/sec)を認めたため、肺疾患に伴う重度肺高血圧症と仮診断した。治療は、ICU下にて、ドブタミン+ミルリノン、フロセミドの持続点滴、デキサメサゾンの皮下注射を実施した。症例1には、シルデナフィルの経口投与、症例2には、シベレスタットの持続点滴も併用した。症例1は5日間のICU管理にて回復したが、第72病日に再び呼吸困難を呈し、第81病日に死亡した。症例2は、第5病日にICU下にて死亡した。病理検査にて、症例1は亜急性〜慢性、症例2は急性ないし亜急性間質性肺炎と診断された。

 

 

 

2 難治性咳を示した肺葉硬化の犬の1例

新実誠矢(麻布大学)

症例は14歳6ヵ月齢,体重6.5 kg(BCS 3/5),雑種の避妊雌で,来院する4ヵ月前から間欠的に生じていた咳の悪化を主訴に来院した。副雑音は聴取されず,血液ガスも正常範囲内であった。超音波検査で1.2×1.0 cmの腫瘤性病変と気管支内の液体貯留を認め,肺葉硬化と診断した。細胞診の所見は慢性炎症であった。咳が悪化し,かつ胸水貯留が生じたため第26病日にCTおよび気管支鏡検査を実施した。CT検査で右前葉主気管支に充実性病変を認め,気管支鏡検査においては同部位に気道を閉塞する白色の塊状病変を認めた。粘性が高い喀痰を伴っており,鉗子および吸引を行ったところ,最大で5mm程度の消しゴム程度の硬さの喀痰が摘出された。細菌は検出されず,細胞診では少数の異型細胞を含む慢性炎症との診断であり,内科的治療に反応しなかったことから肺葉切除を勧めたが,年齢を理由に選択されなかった。本症例での鑑別診断,診断法,治療法をご相談したい。

 

3 免疫介在性間質性肺疾患によって生じた縦隔気腫を疑いステロイドおよびシクロスポリン投与によって管理した犬の1例

谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)

症例は雑種犬、避妊雌、14歳で4カ月前からの食欲不振と体重減少、3日前からの運動後のチアノーゼと開口呼吸を主訴に来院した。初診時、胸部X線検査で縦隔気腫を認め、初期安定化により第6病日に縦隔気腫は消失した。しかし第15病日に再び縦隔気腫を認めたため、精査を行った。動脈血ガス分析では低酸素血症と高炭酸ガス血症を認め、リウマチ因子は陽性であった。胸部CT検査では胸膜肥厚像、胸膜直下のHoneycomb、胸膜下間質性肥厚および肺野に局所的なすりガラス様陰影と硬化像を認めた。免疫介在性間質性肺疾患を疑いプレドニゾロン(2 mg/kg, SC, SID)、シクロスポリン(5 mg/kg, PO, SID)、運動制限および酸素投与を行い縦隔気腫は消失し、臨床徴候に改善を認めた。現在172病日で軽度の運動不耐性と努力呼吸を認めるが、縦隔気腫は再発していない。本症例の検討項目として①縦隔気腫に至った原因、②治療後も運動不耐性と努力呼吸を認める点について議論できればと思う。

*開催中質問受付コーナーをつくり終日チャットで対応

開催後17:30−18:30 自由参加で別会場にて、症例相談、質疑応答、討論会など

1)症例報告:来院経緯、症状の動画データ、身体検査・血液検査・X線検査・透視検査・動脈血ガス分析などの一次検査所見、鑑別疾患リスト、CT検査、気管支鏡検査、鼻鏡検査、BALF解析や病理診断、確定診断、内科治療または外科治療、治療転帰(治療後少なくとも2ヶ月経過、できれば6ヶ月以上の経過観察あり)、などの詳細データが全て揃っているもの。2)症例相談:確定診断には至っていないが、本研究会で相談したい症例。用語や基準は第1回年次大会での以下の講義に従ってください。

犬猫の呼吸器疾患へのアプローチ-問診からX線検査までの診療指針  動画は*診療指針Ⅰ診療指針Ⅱ診療指針Ⅲ

演題締切りは、5月31日(月)です。応募後、内容概要を伺いし審査を行います。審査は終了しました(6月16日)。審査が通りましたら、400字以内の抄録を6月30日まで、演題概要(ppt配布資料PDF)は7月15日までに提出をお願いします。演題発表者には参加費全額免除とし、研究会より症例報告には表彰状、症例相談には感謝状を贈呈いたします。

参加申し込み方法:詳細決定次第お知らせいたします。

参加費(本会は事前登録のみ

事前登録
会員 5000円
非会員 7000円

参加申し込み方法は、決定次第当HPで連絡いたします。

今後、随時当サイトにて最新情報をアナウンスいたします。

年次大会へのご質問は、当研究会事務局(jimu@verms.jpまで。

2021年7月30日(最終更新日)


次回勉強会開催のお知らせ

第12回 犬・猫の呼吸器勉強会は年次大会準備のため10月に延期となりました(2020.6.8)。

第12回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時: 令和3年6月14日(月)19:00−21:00

会場: オンライン開催

内容

開会のあいさつ 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診)

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。

2 研究班報告

演題未定

3 症例報告・臨床研究

演題未定。症例報告・臨床研究の演題締め切りは5月14日となります。応募をお待ちしております。

閉会のあいさつ 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

症例報告・臨床研究の演題締め切りは5月14日となります。次回の応募をお待ちしております。

演題名、発表者名、所属を勉強会担当(稲葉 inaba@verms.jp)に連絡ください。発表者は会員である必要がありますが、共同発表者はその限りではありません。募集要項は以下の通りです。

1)症例報告:来院経緯、症状の動画データ、身体検査・血液検査・X線検査・透視検査・動脈血ガス分析などの一次検査所見、鑑別疾患リスト、CT検査、気管支鏡検査、鼻鏡検査、BALF解析や病理診断、確定診断、内科治療または外科治療、治療転帰、などの詳細データが全て揃っているもの。用語や基準は第1回年次大会 「犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ-問診からX線検査までの診療指針」に従います。 2)臨床研究:呼吸器学に関する知見。体裁は自由。他の学会で発表したものでもよいです。 1)2)とも発表10分、議論10分。1回開催につき、1〜2演題とさせていただきます。演題やスライド資料は当サイトで公開いたします。

参加費: 研究会会員は無料。非会員は事前登録・事前振込3,000円(開催4日前までに振込完了)。非会員の方はオンラインミーティングの招待メールを事前に送信します。

連絡事項

  1. 非会員参加の場合、原則として事前申し込みをお願いします。6月7日までに研究会事務局(jimu@verms.jp)にご連絡ください
  2. 開場は18:30となります。入室許可手続きがありますので入室自体はお早めにお願いします。
  3. 待機室入室後、3分以上たっても承認されない場合、お手数ですが事務局046-256-4351までお電話ください。電話にて承認手続きを行わせていただきます。
  4. 各講演内容は研究会会員にYou Tubeにて限定公開いたします。その中のコメントを介し質疑応答可能です。
  5. 開催中、参加者はビデオオンでお願いします。とくに質問者は円滑な議論のためかならずビデオオンでお願いします。
  6. 閉会後、別会場にて21:15から歓談や飲食しながら討論会を60分程度設けます。参加や退出のタイミング自由です。症例相談があればデータ提示をお願いします。

次次回勉強会開催のお知らせ

第13回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時: 令和3年10月11日(月)19:00−21:00

会場: オンライン開催

内容

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診)

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回は、睡眠呼吸障害を引き起こす代表疾患を示す症例を示す。

2 研究班報告

演題未定

3 症例報告・臨床研究

演題未定。症例報告・臨床研究の演題締め切りは9月11日となります。応募をお待ちしております。


これまでの開催


第11回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時: 令和3年4月12日(月)19:00−21:00

会場: オンライン開催

内容

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):猪首、睡眠時無呼吸

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回、特徴的な身体検査所見、とくに猪首、睡眠時無呼吸について解説する。

2 研究班報告

短頭種気道症候群Update

飯野 亮太(いいのペットクリニック)

短頭種気道症候群(BAS)は外鼻孔狭窄、軟口蓋過長・肥厚、異常鼻甲介、気管低形成、喉頭小嚢反転、喉頭虚脱、扁桃腺脱出など様々な構造的な異常により上部気道閉塞を引き起こし、呼吸困難、運動不耐、チアノーゼ、失神など様々な臨床症状を示す。治療計画を立てる上で、構造的な異常とともに病態生理の側面からもその病状を把握することが重要となる。今回、近年の文献報告のレビューを元に臨床グレード評価、BAS整復術の近年の知見、周術期合併症について考察を加えるとともに、既存の臨床的グレーディングに対して当研究会内での解釈および適用方法について紹介する。

3 症例報告・臨床研究

若齢時から運動後チアノーゼを繰り返し、気管支肺炎様陰影とBALF中に多数の不定形粒状無構造物質を認めた犬の一例

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

6歳、未避妊メスのボーダーコリーが、若齢時から運動後チアノーゼを反復し次第に悪化、胸部CT検査にて右背側肺野に気管支肺炎様陰影が確認され、精査加療のため当院呼吸器科受診。初診時、中等度低酸素血症(Pao2 68 mmHg)、気管支鏡検査にて、気管支ブラッシングにStaphylococcus intermediusを分離、TBLBにて腫瘍病変なく、BALFは血性で多数の不定形粒状無構造物質を認めた。間質性肺疾患と気管支肺炎と臨床診断し、抗菌剤療法を開始し、その後経過良好も、第18病日に急性下痢嘔吐発症後、翌日急性呼吸困難発症し急逝した。剖検肺に肺間質の多巣性の線維化、びまん性肺胞傷害、血管腔内に細菌コロニーが認められた。肺胞腔内にPAS陽性かつPTAH陰性の粒状物が確認された。敗血症を誘因とした急性呼吸窮迫症候群と考えられた。本症例は肺胞蛋白症が背景にあると疑ったが確定診断は得られなかった。

 

参加者、敬称略:山谷吉樹(日本大学)、三井一鬼(岡山理科大)、青木卓磨(麻布大学小動物外科学研究室)、大菅辰幸(宮崎大学農学部獣医学科)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター)、菅沼鉄平(ほさか動物病院)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院)、飯野亮太(いいのペットクリニック)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)、明石依里子(Ve.cジャパン動物病院グループ 自由が丘医療センター)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院)、侭田和也(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター)、松田岳人(くりの木動物病院)、中島ちひろ(アニマルクリニックこばやし)、杉村肇(どうぶつ耳科専門クリニック主の枝)、田内昭成(させ犬猫の病院)、椿瑞穂(はやし動病院)、平川篤(ペットクリニックハレルヤ粕屋病院)、福田大介(くりの木動物病院)、大崎一朗(おおさき動物病院)、吉田健二(ファミリー動物病院)、草刈雄登,篠崎来希,高田優樹,田中大輝,陳寅淳,土屋優希哉,並川朋矢,星野彩菜, 若林駿 (麻布大学小動物外科学研究室)、丸田菜央(日本大学 獣医学科)、二平泰典(クローバー動物病院)、山﨑裕之(やまさきペットクリニック)、北中千昭(セナ動物病院 洛北アニマルウェルネスセンター)、西尾行司(西尾どうぶつ病院)、城下幸仁/稲葉健一/稲葉里紗(犬・猫の呼吸器科)   合計44名。

賛助会員:テルコム株式会社


第10回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時: 令和3年2月15日(月)19:00−21:00

会場: オンライン開催

内容

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):咳

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回、特徴的な身体検査所見、とくに咳ついて解説する。

2 研究班報告

犬・猫の気管支肺胞洗浄液解析-方法、参照値、臨床意義、合併症に関する文献レビュー

菅沼 鉄平(ほさか動物病院)

気管支鏡検査における気管支肺胞洗浄(BAL)は、肺の一部に滅菌生理食塩水を注入回収し、細胞学的、生化学的および微生物学的などを調べることで、肺胞および間質で発生している変化を確認する手技である。今回、BAL分析の方法、犬猫の参照値、臨床意義、合併症における過去の文献や獣医呼吸器テキストから15報をまとめたものを報告する。今回のレビューにてその手技を見直し改善点を議論する契機にしたい。

3 症例報告・臨床研究

1. 鼻腔内に発生した歯原性嚢胞により睡眠呼吸障害を呈した犬の1例

谷口 哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)

歯原性嚢胞は鼻腔内に浸潤し、鼻汁や鼻閉といった臨床徴候を認めることがまれにある。今 回、睡眠呼吸障害を呈した犬の鼻腔内に歯原性嚢胞を認め、嚢胞切除後に臨床徴候が消失した犬に遭 遇したのでその概要を報告する。 症例は6歳11ヶ月齢のチワワで、睡眠呼吸障害を主訴に来院した。頭部CT検査で左上顎第3切歯と左 上顎犬歯の歯根部に鼻腔内を占拠する嚢胞性病変と上顎骨の破壊を認めた。CT所見から歯原性嚢胞と診断し、嚢胞切除を実施したところ睡眠呼吸障害は消失した。 歯原性嚢胞により睡眠呼吸障害を呈した症例の報告はない。睡眠呼吸障害を認めた場合に上気道疾患の精 査とともに口腔内疾患を鑑別に加える必要があると考える。また本症例の歯原性嚢胞は病理学的 には歯根嚢胞であり、歯根嚢胞の予後は外科切除により良好で、本症例でも再発は認めていない。

2. びまん性肺疾患を呈し開胸肺生検にて特発性多発性細気管支炎と診断し、ステロイド全身投与にて良好な経過を示した猫の1例

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7歳、去勢済みオスの雑種猫が、3ヶ月前に呼吸困難のため夜間救急病院受診、びまん性肺疾患を呈しステロイドに部分的に反応し1週間の入院を経て退院、自宅看護で維持していたが、精査加療のため当院呼吸器科受診。初診時、呼吸数増加を伴った努力呼吸を示し、全肺野に斑状浸潤影、重度低酸素血症(Pao2  53 mmHg)を認めた。初期安定化にてPao2 72 mmHgに改善後、第9病日に気管支鏡検査実施するも確定診断に至らず、第21病日に外科的肺生検にて特発性多発性細気管支炎と診断し、第31病日退院。在宅酸素療法、プレドニロン1.25mg/kg PO BID、2〜4週毎のIPV療法にて、第143病日以降、飼い主評価は「完全に改善(5/5)」となり安定した。現在、第356病日を経過し日常生活を問題なく送っている。猫のびまん性肺疾患の診断と治療は当研究会のテーマのひとつであり、とくに細気管支疾患について議論と考察したい。

参加者、敬称略:山谷吉樹(日本大学)、三井一鬼(岡山理科大)、青木卓磨(麻布大学小動物外科学研究室)、大菅辰幸(宮崎大学農学部獣医学科)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター)、菅沼鉄平(ほさか動物病院)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院)、飯野亮太(いいのペットクリニック)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)、明石依里子(Ve.cジャパン動物病院グループ 自由が丘医療センター)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター)、侭田和也(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター)、中野秀哉(北摂津夜間救急動物病院)、松田岳人(くりの木動物病院)、中島ちひろ(アニマルクリニックこばやし)、杉村肇(どうぶつ耳科専門クリニック主の枝)、田内昭成(させ犬猫の病院)、田中啓之(武井動物病院)、椿瑞穂(はやし動病院)、福田大介(くりの木動物病院)、阿美古健(だて動物病院)、荒蒔義隆(ベイ動物病院)、海老澤崇史(世田谷通り動物病院)、大崎一朗(おおさき動物病院)、上村利也(かみむら動物病院)、草場翔央(Sho Animal Clinic)、越川史子(日本大学)、佐藤典子(たま動物病院)、杉井太市郎(アポロどうぶつ病院)、鈴木由衣(荻窪ツイン動物病院)、鈴木麻結,高田優樹,田中大輝,星野彩菜,村上愛歩,宮田千華(麻布大学小動物外科研究室)、常盤啓太(日本大学 獣医麻酔・呼吸器学研究室)、二平泰典(クローバー動物病院)、宮本英巨(NANAペットクリニック)、山﨑裕之(やまさきペットクリニック)、横川靖之(さくら動物クリニック)、城下幸仁/稲葉健一/稲葉里紗(犬・猫の呼吸器科)   合計45名。

賛助会員:テルコム株式会社、(株)ジェイエスピー、イングメディカル株式会社


第9回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時: 令和2年12月14日(月)19:00−21:00

会場: オンライン開催

内容

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):聴診の疾患別解説2

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回も引き続き、聴診について疾患ごとに解説する。

2 研究班報告

独自の咳スコアを用いた犬の咳に関する単施設横断調査

稲葉 里紗(犬・猫の呼吸器科)

呼吸器診療において咳を主訴として来院する犬は多く、咳の評価法の確立が望まれている。演者らは独自の咳スコアを考案し、咳を主訴とする犬の疾患分布、咳スコアを用いた咳の程度、治療転帰について単施設横断調査を行った。調査対象の42.4%が咳を主訴としており、疾患分布は咽頭気道閉塞症候群、慢性喉頭炎、喉頭虚脱、急性/亜急性気管気管支炎の順に多かった。咳スコアは気管支軟化症で最も高く、ついで、急性喉頭炎、急性/亜急性気管気管支であった。治療前後における咳スコアの変動と飼い主評価は有意に相関した。急性疾患群は慢性疾患群よりも有意に咳スコアが高く、治療前後での咳スコアの変動は慢性疾患群に比べ有意に増加した。結果として、咳スコアは様々な疾患に共通して適用でき、咳の程度や治療転帰を大まかに表現できた。咳スコアを用いる事によって、多施設間でも咳の程度を共有できるため、多くの施設で適用されることが望まれる。

3 症例報告・臨床研究

若齢猫に認められた右完全無気肺を根治できた2例

稲葉 健一(犬・猫の呼吸器科)

【症例1】2ヶ月齢のノルウェージャン・フォレスト・キャットが、3週間前より呼吸促迫を示し、胸部X線検査にて右完全無気肺、動脈血ガス分析にて重篤な低酸素血症を認めた。約1.5ヶ月間IPV療法を継続し、無気肺および動脈血ガスは正常化した。第222病日、胸部X線検査およびBALF解析で問題なくその後順調に成長した。【症例2】8ヶ月齢のマンチカン、生後4ヶ月齢時より咳および運動不耐性があった。胸部X線検査にて右完全無気肺あり。初診日に気管支鏡検査にて下気道感染症と診断し、抗菌療法、IPV療法を実施するも臨床症状および右無気肺は改善しなかった。そこで第253病日に第7肋間開胸にて右肺全葉切除術を実施した。その後咳は消失、運動不耐性も改善し、現在第739病日だが良好に経過している。病理組織検査では気管支軟骨の異常が認められた。若齢猫における無気肺の発症原因や治療法について考察する。

参加者、敬称略:山谷吉樹(日本大学)、三井一鬼(岡山理科大)、青木卓磨(麻布大学小動物外科学研究室)、大菅辰幸(宮崎大学農学部獣医学科)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター)、菅沼鉄平(ほさか動物病院)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院)、近藤絵里子(品川WAFどうぶつ病院)、飯野亮太(いいのペットクリニック)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)、明石依里子(Ve.cジャパン動物病院グループ 自由が丘医療センター)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター)、侭田和也(どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター)、中野秀哉(北摂津夜間救急動物病院)、松田岳人(くりの木動物病院)、中島ちひろ(アニマルクリニックこばやし)、橋本大輝(麻布大学小動物外科学研究室)、井上知佳(兵庫ペット医療センター)、杉村肇(どうぶつ耳科専門クリニック主の枝)、田内昭成(させ犬猫の病院)、田中啓之(武井動物病院)、椿瑞穂(はやし動物病院)、平川篤(ペットクリニックハレルヤ粕屋病院)、福田大介(くりの木動物病院)、高橋美樹(みき動物病院)、城下幸仁/稲葉健一/稲葉里紗(犬・猫の呼吸器科)   合計30名。

賛助会員:テルコム株式会社、(株)ジェイエスピー、イングメディカル株式会社


第8回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時: 令和2年10月12日(月)19:00−21:00

会場: オンライン開催

内容

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):聴診の疾患別解説

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回は、聴診について疾患ごとに解説する。

2 研究班報告

犬・猫の呼吸器疾患における生活の質(QOL)の評価法について

谷口 哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)

QOL (Quality Of Life) は慢性疾患に対してよく用いるワードである。医療の進歩に伴い慢性疾患が多く なったことで、QOLに対する関心が高まっている。しかし獣医療において過去に報告されているQOL評価 法は妥当性の証明がされていないものが多く、疾患固有のQOL評価法がいくつか報告されているだけであ る。今回、呼吸器疾患におけるQOLの評価法について文献収集を行なったのでその概要を報告する。QOL 評価法には主観的評価法と客観的評価法が存在する。主観的評価法はオーナーあるいは獣医師にアンケート を実施することでQOLを評価する方法である。アンケートの内容は一般的なQOLと疾患固有のQOLについ てである。客観的評価法はデバイスを用いてQOLを評価する方法である。動物の呼吸器疾患においてQOL を治療成績に取り入れた報告は少ないが、いくつか報告があるのでその概要についても報告する。

3 症例報告・臨床研究

右肺後葉と左肺後葉の2葉切除にて良好な経過を示した猫のブロンコレアの1例

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

10歳、去勢済みオスのスコティッシュ・フォールドが3ヶ月前よりゴロゴロ音、慢性呼吸困難、慢性発作性咳を示し、初診時に胸部X線検査にて左右後肺野に斑状浸潤影、血液ガス分析にて低酸素血症(Pao73mmHg)を認め、気管支鏡検査により猫のブロンコレアと診断した。ステロイド全身投与、サルタノール吸入、肺内パーカッション療法にて呼吸徴候を安定化しながら、第44病日および第118病日に2期的にそれぞれ右および左肺後葉切除術を行なった。病理診断は猫の特発性肺線維症様疾患であった。第133病日には肺野浸潤影は著明に減少、Pao291mmHgに改善した。現在、第621日を経過し日常生活を問題なく送っている。外科適応について考察する。

第1回 年次大会2020

日時

令和2年8月11日(火)、18(火)、25日(火) 21:00−22:30

開催方法: 講義の事前動画配信と3回のオンライン分割ライブ開催(1回90分)

内容:

講義の事前動画配信(参加者のみへの3ヶ月間限定公開) 7月28日より配信開始

Ⅰ 犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ-問診からX線検査までの診療指針 50分× 3部   城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

呼吸器系を上気道、中枢気道、末梢気道・肺実質の3区分に分け、鑑別疾患リスト(計83疾患)を提示します。さらに、7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて、問診および身体検査、血液検査、動脈血ガス分析、X線および透視検査にて麻酔をかけない一次検査のアプローチ手順について具体例を示しながら当研究会での呼吸器診療の実践的な診療基準を提案いたします。動画配信ではこの内容を3部に分けます。

Ⅱ 咽頭気道閉塞症候群とは?〜新しい上気道疾患 50分   稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)

「咽頭気道閉塞症候群」は2018年に動物臨床医学年次大会で報告/学会長賞を受賞し、2019年に当研究会が動物臨床医学に報告した新しい疾患概念です。非短頭種でありながら上気道症状を呈する症例に遭遇し、診断や治療法に悩まれた経験をお持ちではないでしょうか。本疾患は非短頭種に生じる上気道疾患のひとつであり、頭部X線検査により診断する分かりやすい疾患です。その診断基準・発症傾向・治療法・予後など実際の症例を提示しながら詳しく解説します。

遠隔ミーティングシステムによるライブ開催

8月11日(火)21:00−22:30

1 犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ 第1部に対する質疑応答/討論(担当 城下) 30分

休憩 10分

2 咽頭気道閉塞症候群とは? に対する質疑応答/討論(担当 稲葉) 30分

3 全体討論や一般質問(担当 城下) 20分

 

8月18日(火)21:00−22:30

1 犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ第2部に対する質疑応答/討論(担当 城下) 15分

休憩 5分

2 症例報告1:片側被裂軟骨側方化術後に呼吸困難を示し、腹側声帯切除術によって改善が認められた喉頭麻痺の犬の1例 布川智範(ぬのかわ犬猫病院) 30分

3 症例報告2:喉頭扁平上皮癌に対して喉頭全摘出術を実施し良好な長期経過が得られた犬の1例 稲葉健一(犬・猫の呼吸器科) 30分

 

8月25日(火)21:00−22:30

1 犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ第3部に対する質疑応答/討論(担当 城下) 15分

休憩 5分

2 症例相談1:減感作療法で症状が改善した猫の気管支疾患/喘息の1例

上田一徳(横浜山手犬猫医療センター) 20分

3 症例相談2:慢性低酸素血症によって肺高血圧症を示した犬の2例

菅沼鉄平(ほさか動物病院) 20分

4 症例相談3:フェノバルビタールが反応した逆くしゃみ症候群の犬の1例

新実誠矢(麻布大学) 20分

 

注意事項

  • ライブ開催では原則議論のみで講義は行いません。事前配信視聴をお願いします
  • 症例報告と症例相談は、ライブ発表と質疑応答を含めた時間となります
  • 非会員で、すでに懇親会費5000円や昼食代1000円をお支払いの方は、研究会にて手数料を負担の上、振込みにて6月下旬以降に返金いたします
  • 会員で、懇親会費や昼食代をお支払いの方は、次年度の年会費の一部に繰り越させていただきます
  • 新規参加申込受付は行いません
  • 症例報告や症例相談の演題は、開催終了後オンデマンド配信(見逃し配信)を3ヶ月間YouTube動画配信にて限定公開いたします
  • 遠隔ミーティングはZoomにて行います。事前にインストールとサインアップが必要です。慣れてない方でも、Zoom遠隔ミーティング参加法の手順は別途わかりやすくご案内しますのでご安心ください。開催中、参加者はカメラをオフにしてください。
  • 先の年次大会で予定していた城下執筆の別刷配布は郵送にて対応いたします。

 

プレ開催について

本開催参加手続きや流れを確認し、ライブ開催にて円滑に参加いただけるよう分割開催前に以下の3回予行的に開催いたしました。

7月7日(火) 21:00−22:30

  • 呼吸器疾患におけるステロイドの使用法・施設毎の報告(45分) 城下幸仁

(第15回 日本獣医内科学アカデミー学術大会 2019年大会(横浜)にて2019.2.17講演)

  • 症例相談・一般質問

7月21日(火) 21:00−22:30

  • 呼吸器疾患のエマージェンシー:やるべき事、やってはいけない事(70分) 城下幸仁

(第18回日本獣医学フォーラム年次大会2016(東京) にて2016.9.23講演)

  • 一般質問

8月4日(火) 21:00−22:30

  • 肺音の聴診(40分)城下幸仁

(第104回 日本獣医循環器学会(大宮)にて2016.6.18講演)

  • 犬・猫の呼吸器勉強会研究班報告から-猫の肺の画像所見と病理との連絡についての文献レビュー 明石依里子(代官山動物病院)

プレ開催についてはオンデマンド配信(見逃し配信)は行いません。

 

参加費(本会は事前登録のみ

事前登録 当日参加
会員 10000円 12000円
準会員 3000円 5000円
団体会員(研究室所属の学生、教官全て―括) 12000円 15000円
非会員 12000円 15000円
非会員学生・動物看護師 5000円 7000円

令和2年6月1日

犬・猫の呼吸器臨床研究会 代表 城下幸仁

2020年年次大会 質疑応答や討論内容

プレ開催1-質疑応答

呼吸器疾患におけるステロイドの使用法

Q1.    特発性間質肺炎でステロイド投与による急性呼吸悪化の原因は?

A1.   (城下) 原因不明だが、血栓塞栓症の可能性もある

組織のびまん性線維化している状況に間質浮腫を急激に起こした可能性もある

 

Q2.    特発性間質肺炎へのステロイド投与量により作用、副作用発現に変化はあるのか?

A2.    (城下)不明です。良好に反応する症例もあれば、逆に増悪する場合もあるので必要に迫られれば、極少量(0.25mg/kg程度)から始めるのが無難と思います。

 

Q3.    咽頭浮腫に対し、ステロイドを使用したくなるが?

A3.    (城下)急性病変では炎症性浮腫でステロイド適応かもしれませんが、スライドの症例は慢性病変による浮腫です。ステロイド使用により間質に浮腫が起こるので減量で良化がみられると考えられる

慢性心不全により咽頭背壁の浮腫を経験するので、咽頭は浮腫を起こしやすい部位と考えられる

 

Q4.    急性緊急呼吸困難に対し、シベレスタットを使用するが、適応についての考えは?

A4.    (城下)シベレスタットは敗血症性ARDSに対しての承認された薬品であり、末梢血の白血球増加があり、それに起因する呼吸障害があるのであれば適応と考えるが、ステロイドの代用になるかは不明

使用においての注意点は2日ほど使用すると黄疸がでるときがあるので肝障害がある場合使用を控える

 

Q5.    ステロイドを中止するときの漸減ぺースは?

A5.     (城下)1から2週かけて中止する

 

Q6.    呼吸器症状症例に対し、気管支鏡、肺胞洗浄を行うことへのハードルがあるので、治療的診断として、より安全にステロイドを使用する方法は?

A6.   ステロイドの利点欠点を考慮し、オーナーとの相談の中で決定する

 

Q7.    咳嗽疾患における呼吸器専門医療機関への紹介のタイミングは?

A7.    遷延性咳嗽に入った時に、すなわち急性発症から咳が2〜4週間経過しても咳が緩和しないときが、気管支鏡診断を検討するタイミングである

急性咳嗽ほとんどが急性感染症によるので、抗菌剤や支持療法を初期対応で行うべきです。急性炎症性滲出期にステロイドや鎮咳剤投与は効果は暫定的で、むしろ数日後には病状は当初より悪化し、治癒は遷延化します。少なくとも1週間で自然治癒の方向がみえてくるので、それまでは抗菌剤や支持療法で対処する方が、結局は早く、安定して治癒します。そのように対処しても2週以上続く抗生剤非反応性の咳嗽や数ヶ月に及ぶ慢性咳嗽症例が適応と考えます。

 

Q8.    猫のブロンコレア症例で免疫抑制剤の効果があるのか?

A8.    気道分泌過剰をコントロールできるエビデンスは、ステロイド投与による気管支腺分泌を抑えるというin vitro報告がある

免疫抑制剤は不明。吸入薬では効果がないと考える 気管支腺は末梢領域なので全身投与でないと届かない

外科摘出は臨床経験として効果を感じている

 

作成:上大岡キルシェ動物病院 山下智之

 

第1回討論

城下先生 呼吸器診療の系統的アプローチ

Q1. 誤嚥性肺炎の治療(山口先生)

A1. エンロフロキサシンの2時間ごと投与ではなく24時間ごと投与の間違い

 

Q2. 酸素室の濃度(山口先生、吉見先生)

A2.    酸素濃度を30%にする

高炭酸ガス血症では高濃度酸素吸入により意識障害や失神、呼吸停止をきたす可能性がある

しかし緊急状態では35%以上の酸素濃度が必要なケースもあるが、緊急時を脱した場合は30%に下げることが理想的である

I型呼吸不全(低炭酸ガス、低酸素血症)でもII型呼吸不全(高炭酸ガス、低酸素血症)でも酸素濃度が30%であれば、危険性は低い

間質性肺疾患のようなI型呼吸不全であれば30%ではじめ、治療反応によっては増やしていくとよいが、50%以上では酸素中毒を起こす可能性もあるので注意が必要

I型、II型の鑑別が不能なケースも多いので、まずは呼吸状態を緩和させたあとに呼吸様式によって鑑別を進めるほうがよい

 

Q3.    高酸素吸入下にて呼吸停止するメカニズム (吉見先生)

A3. 延髄の呼吸中枢が呼吸を司っている

中枢化学受容体が炭酸ガス濃度により呼吸反応を調節している

末梢化学受容体は頸動脈小体と大動脈小体に存在し、炭酸ガスだけではなく、酸素濃度やPHにも反応する

II型呼吸不全のような低酸素分圧条件下では酸素分圧による呼吸調節が優位になっているが、高濃度酸素吸入を行うと、急激に酸素分圧が上昇し、呼吸停止してしまう

 

Q4. 咳スコアについて終日の咳とは (飯野先生)

A4. 終日の咳とは、朝方、夜間、日中の3つの時間帯に断続的に咳があり、かつ日に20回以上かどうかで判定している

 

Q5. 縦抱きをすることで咳が治る (飯野先生)

A5. 肥満などにより腹腔内容積が増えると胸腔を圧迫しており、それが重力方向が変わることにより緩和することに起因する変化と考えられる

 

Q6. カフテスト、タッピングテスト (飯野先生)

A6. カフテストは喉頭から上部気管、タッピングテストは気管分岐部の異常を対象としている

誘発される咳刺激の重症度評価として行なっている

責任病変の評価ではなく、重症度評価に使用する

 

Q7. 無呼吸による発作の診断 (飯野先生)

A7. 気道閉塞の所見がありきの診断である

気道確保後にも発作が起こるという症例で、後からMRI撮影により脳腫瘍が検出されたことも経験している

 

稲葉先生 咽頭気道閉塞症候群

Q1. 減量治療の具体的な方法(東之薗先生)

A1. (稲葉)食餌療法 摂取カロリーを調整する、ご家族みなさまに協力してもらう

 

Q2. 構造的な問題に対しては外科療法が適応になるのか (東之薗先生)

A2. (稲葉)重度な症状が出る状況で、減量治療により上気道閉塞が緩和しない場合は外科療法(永久気管開口術)も選択肢ではあるかと考えているが、ネブライザー、温度管理、減量で咽頭気道の浮腫に対しての対症療法で緩和することが多い

高齢時で代償機能が低下した場合は外科(永久気管開口術)を検討することもある

 

Q3. クーリングを行なっても、X線撮影時に閉口ができない場合の対処法はあるのか (飯野先生)

A3. (稲葉)エリザベスカラーを装着し、そのカラー越しに下顎を閉じるようにして行う

頭部のX線撮影を先に行うほうが良い

強制閉口で誤嚥や呼吸困難を誘発することもあるので注意が必要

サーキュレーターを使用し、クーリングしながら、撮影するなど工夫も必要

 

Q4. 軟口蓋と咽頭背壁の一体化は透視と静止画撮影を行う必要があるのか (飯野先生)

A4. (稲葉)両方必要であると考えている

吸気時の動的な咽頭虚脱が起こることもあり、呼気時の評価が困難になることがあるので透視による連続観察にて同様所見があるのかを確認する

 

Q5. CRPと非心原性肺水腫の関連性 (飯野先生)

A5. (稲葉)ARDSではほぼ確実に炎症性マーカーは上昇しているが、

CRP2以上であっても心原性肺水腫を否定することはできない

他検査と総合的に判断する必要がある

治療反応で判断することもあり、非心原性肺水腫の場合、反応が遅い可能性が高い

X線画像、血液ガス検査所見が改善してくるまでにも時間がかかる

(城下)CRPは肺水腫と肺炎の鑑別のみに意義があるが、非心原性と心原性肺水腫を識別するものではない。

 

Q6. 喉頭降下の判定 呼気時に判定するとのことですが、吸気時と呼気時で動的な変化があるのでしょうか? 吸気時の方が喉頭がより降下しそうですが、呼気時に降下していることが重要なのでしょうか?(大田先生)

A6. (稲葉)呼気時のレントゲンで判定します。上気道閉塞症例では吸気時に喉頭が尾側に降下する喉頭の前後運動がよく認められます。吸気時には生理的にも喉頭が降下するので偽陽性が生じる可能性があり、呼気時の呼吸安静時の喉頭の位置を真の病態として把握すべき状態と考えます。慢性的な咽頭閉塞症例では呼気時でも喉頭の位置が正常よりも降下していることがあり、診断基準の一つとしています。

 

Q7. 軟口蓋と咽頭背壁の一体化 この現象は、短頭種気道症候群において軟口蓋と喉頭蓋が重なるのと同様な現象が、軟口蓋と余剰な咽頭背側で生じ、上部気道を閉塞するという現象なのでしょうか?(大田先生)

A7.  2の咽頭背壁と軟口蓋の一体化には、所見名を決める時は苦労しました。3次元的なイメージでは、咽頭内口は漏斗状に狭くなっていく状況です。初め私は、全周性軟口蓋過剰と言っていました。論文執筆時は、他の共同執筆者からはわかりにくい指摘あり、そもそもX線検査や透視検査所見の2次元化表現にすり替える必要もありました。先天的な構造異常と考えています。異常というのは、この状況になるといびき、スターター、興奮時チアノーゼが生じるからです。ですから、軟口蓋と喉頭蓋など異なる組織の接着ということでなく、そもそも連続している部分となります。

 

Q8. X線撮影時に頚部の角度を意識しているのか (上田先生)

A8. 頚部の角度よりは、喉頭がX線入射角に対し垂直になるように意識している

 

Q9. PAOS診断において立位でのX線撮影は可能か (上田先生)

A9. 現状検討できていない

 

作成:上大岡キルシェ動物病院 山下智之

 

総合討論

城下先生

上気道閉塞症例に対し、永久気管切開を行なった症例の多くが短頭種ではなく、非短頭種(シーズー、ヨーキー、チワワ、ポメラニアン)であり、短頭種気道症候群とは異なる病態として非短頭種における咽頭気道閉塞疾患があるのではと考えた

短頭種は上気道閉塞に対し、代償機能がある程度備わっているが、非短頭種の咽頭気道にはそれがないと考えている

咽頭背壁に沈着する脂肪は内臓脂肪であるため減量治療が有効かつ重要と考えている

人では舌根に沈着する脂肪が睡眠時無呼吸障害に関連すると報告されている

人には咽頭背壁という構造が存在せず、犬とは異なる

 

作成:上大岡キルシェ動物病院 山下智之

 

第2回討論

①犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ~問診からX線検査までの診療指針マニュアルⅡ

Q1:奇異呼吸と逆説性呼吸を区別した理由は何か?

A1:人の日本救急医学会の医学用語解説集では、奇異呼吸は1)左右が対照的な動きではない、2)胸部と腹部の動きが同調していない、3)胸郭の一部が他と逆の動きをする、と定義されているが、逆説性呼吸は2)に該当する。一方、英名であるPradoxical breathingという用語は、逆説性呼吸のみを指しているのか、奇異呼吸全体を指しているのかあいまいであるため、今回、用語を整理するために区別した。奇異呼吸の大きな枠組みの中に逆説性呼吸が含まれると理解していただきたい。

 

Q2:視診による逆説性呼吸と努力呼吸の呼吸様式は似ているのではないか?

A2:逆説性呼吸は、COPD末期に横隔膜の筋疲労によりみられ、吸気時に胸郭後部が陥凹し腹部が突出、呼気時にはその逆の動きが認められる。一方、努力呼吸では横隔膜の筋疲労ではなく、呼吸補助筋が過度に吸気も呼気も働いているため、シーソー呼吸のようにみえるのではないか。

 

Q3:動物では上気道閉塞によるシーソー呼吸はみられるのか?

A3:通常、上気道閉塞で明らかになる異常呼吸様式は吸気努力であり、吸気時に胸郭が外方に顕著に突出する。上気道閉塞によりシーソー呼吸を認めたことはない。

 

Q4:肺野の聴診部位は教科書的には数ヵ所で行うことが推奨されているが、そのように行うべきか?個人的には病変の部位に関係なく前肺野腹側が最も肺音・異常呼吸音共に聴取しやすく感じるがこの部位をルーチン聴診部位としてよいか?

A4:呼吸音の強さ(BSI)は必ず後肺野の肺胞呼吸音で評価する必要がある。元々、肺胞呼吸音は音を減衰させる様々な媒質が存在するため、わずかに吸気音のみしか聴取できないが、この部位にて聴こえやすくなること自体が異常であることを理解して欲しい。後肺野では末梢気道が多いため、病的な場合に副雑音が聴取しやすいこともメリットもある。また、異常呼吸音とは、あくまでも聴診上聴こえる音ではなく、耳で聴こえる音のことを指すため混同しないで欲しい。

 

②片側被裂軟骨側方化術後に呼吸困難を示し、腹側声帯切除術によって改善が認められた喉頭麻痺の犬の1例

Q1(会場より):片側披裂軟骨側方化術後、腹側声帯切除術に至るまでに一日時間が空いているのはなぜか。

A1(布川):手術を夜間に実施していたため、術後、呼吸困難に陥ってから飼主様との連絡がつかず、翌日まで鎮静下にて気管挿管したまま維持していた。(犬・猫の呼吸器科では、このような場合、まず一時的気管切開チューブ設置して気道を安定化させているが、)一時的気管切開も考えたが、管理に慣れていなかったため、今回のような処置になった。

 

Q2(会場より):声帯切除後にギャギングが止まらない、咳がひどい等の合併症はなかったのか。また、手術を実施するにあたって、気を付けることはあるか。

A2(布川):今回の症例ではそのような合併症は認められなかった。ただし、術後1~2日は、術創から粘弾性物質が分泌され、ゼロゼロ音が聴こえたため、ネブライザーを3日間ほど実施した。喉頭手術全般的に言えることだが、術後の誤嚥に気を付けるべきであり、術後管理としてネブライザー実施、酸素室の利用、ステロイド剤の投与を行った。

 

Q3(城下):鎮痛処置などはどのようにしたのか。

A3(布川):術後、疼痛により興奮したりすれば管理に大きく影響がでるため、しっかり鎮痛すべきである。文献的にも片側披裂軟骨側方化術において、オピオイドの使用と誤嚥性肺炎のリスクとの関連性はないという報告もあるため、今回はモルヒネを使用した。「Wilson2016の報告では、片側披裂軟骨側方化術232例の後向き研究にて、術後オピオイド投与は術後2週間以内での誤嚥性肺炎発症と有意な関連を示していました(城下)。 Wilson D, Monnet E. Risk factors for the development of aspiration pneumonia after unilateral arytenoid lateralization in dogs with laryngeal paralysis: 232 cases (1987-2012). J Am Vet Med Assoc2016;248:188-194.

 

Q4(会場より):吸気性高調ストライダーとされているが、両相性ではないのか。

A4:(城下先生より)両相性ストライダーである。喉頭麻痺では吸気に閉塞は起きるが、LPLCのタイプだと喉頭口が狭くなるため、呼気にも高調音がでる。

 

Q5(会場より):喉頭鏡の所見から披裂軟骨が比較的開いた状態でキープされていたため、声帯切除により気道が確保されたと考えてよいか。

A5(布川):そのように考えていただいてよいと思う。

(城下先生より)重症例では、披裂軟骨が吸気も呼気も常に閉鎖していて呼吸困難になるが、今回の症例では、喉頭麻痺で通常認められる披裂軟骨の接触がなく、呼吸相を通じて喉頭口が確保されていた。吸気の際には披裂軟骨及び声帯も接触すると思われるが、声帯切除により背側の喉頭口が確保されるため状況が維持されたのではないか。

 

Q6(会場より):片側披裂軟骨側方化術で軟骨が破綻することはよくあることなのか。

A6:(城下先生より)術前の内視鏡所見と喉頭狭窄の程度で判断しているが、軟骨が軟化している所見がみられことがあり(喉頭口全体が発赤腫脹し、喉頭口が吸気時に閉鎖すると同時に披裂軟骨が気道内に吸い込まれるように内方に入り込み、見た目に軟骨の剛性が減弱しているようにみえること)、特に小型犬では披裂軟骨が小さく、針を通すことによって破綻してしまうことはあり得る。そのような場合は、だいたい術前の状態として吸気性ストライダーは重度であるため、あらかじめ飼主様には永久気管切開の選択の可能性を術前インフォメーションしている。

 

Q7(会場より):腹側声帯切除術を第一選択とするケースはあるのか。

A7(布川):大規模な検討がなされている片側被裂軟骨側方化術に比べて、十分に検討されているとはいえない術式であるため、第一選択とは考えていない。

(城下先生より)喉頭軟化がかなり進行している場合、片側被裂軟骨側方化術ができないため、永久気管切開術を行う可能性があることを飼主様にインフォームするが、もし飼主様がそれに対して強い抵抗を示される場合に本術式を提示してみるのはよいのではないか。ただ予後があまりわかっていないため、飼主様に十分インフォームドコンセントを行った上で実施すべきである。

 

Q8(会場から):腹側声帯切除術が適応となるのであれば、片側被裂軟骨側方化術と比べて誤嚥性肺炎のリスクは減ると考えてよいか。

A8(布川):両術式を比較検討した研究はないため、どちらの方がリスクは低いのかは不明である。今回の症例でも誤嚥性肺炎を疑うような経過は認められたため、腹側声帯切除術において同様にリスクはあると思われる。

(城下先生より)片側被裂軟骨側方化術は、喉頭内部に針を通すことはないため、嚥下や発声機能への影響を考えた場合、喉頭内の粘膜への刺激は最小限で済むのではないか。そういった点において、腹側声帯切除術は侵襲度が高いと思われる。例えば、喉頭炎による誤嚥のリスクなども危惧されるが、最終的には術者の経験が術式の選択につながるのではないか。

 

⓷喉頭扁平上皮癌に対して喉頭全摘出術を実施し良好な長期経過が得られた犬の1例

Q1(会場から):高周波スネアでの生検について注意点やポイントについて教えて欲しい。

A1(城下):高周波スネアはポリープ病変に対して行うのがまず鉄則であるため、内視鏡検査等で腫瘤の裏側が推測できるような所見が必要である。なるべく基部にかけることが必要だが、透視ガイド下でスネアが確実にかかっていて緊縛できていることを確認しながら実施している。

 

Q2(会場より):猫でもこの術式は適応可能なのか。術後管理についても具体的に教えて欲しい。

A2(稲葉):適応可能だが、喉頭全摘をせずに永久気管切開のみを行って生活の質を保つという方法もある。手術侵襲が全く違うが、いずれにしても猫にとって永久気管切開を行うということ自体が問題となる。猫では永久気管切開後の予後は非常に悪く、終日室内気での管理では2週間程度で呼吸不全死する。対策として、加温加湿を十分行い、気道の乾燥を防いで管理することが大事である。飼主様が自宅にて24時間、湿度80~90%を保てる環境を準備できるようでなければ、手術適応は難しい。

 

Q3(会場より):気管切開チューブを入れたままCT検査を実施されているが、外注検査でも受け入れてもらえるのか。

A3(稲葉):今回の症例は、動物検診センター キャミックにて私(稲葉)が立ち会いのもとで検査を実施した。気管切開チューブは直接蛇管を接続することが可能だが、カフがなく全身麻酔下での陽圧換気ではリークしてしまうため、今回は自発呼吸を残して実施した。ただし、必要に応じて気管チューブを挿管して陽圧換気や補助換気を行うことも可能である。

 

Q4:(城下先生より谷口先生へご質問)大学機関では手術と合わせて放射線療法を選択することもあると思うが、経過や問題点について何か気が付かれた点はあるか。喉頭全摘出術のみと比較し、放射線療法を並行しておこなうメリット・デメリットはどのような点か。

A4:あまり放射線療法まで実施するケースがあまりないが、扁平上皮癌については多少の減容積はできても効果は低いと思われる。外科療法が基本と思われるが、扁平上皮癌の局所浸潤について画像診断で正確に読影するのは困難である。CT検査では特に喉頭の背側が分かりにくいため、例えば食道に綿花をかませて空気を入れることにより腫瘍の境界を評価するかもしれない。放射線療法単独では難しいが、外科手術後の補助療法としては効果的かもしれない。また、化学療法としてはブレオマイシン等の使用を考慮している。

作成:いいのペットクリニック 飯野亮太

第3回討論

城下「犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ-問診からX線検査までの診療指針マニュアル第3部」

スライド234 修正

「実験的に直径3mm未満の孤立肺野結節病変はX線写真上に投影されないことがわかっています。直径3mm以下の結節影は、境界明瞭なら肺血管のend-on像、境界不明瞭なら偽結節影か小さい多発結節の重複像と考えられます。」

Q1.咽頭虚脱と咽頭閉塞という語の使い分けに関して注意点はありますか?

A1.咽頭虚脱という語は動的要素を含んでいます。気道検査で言うなら、透視検査で用いることができます。ただし、咽頭虚脱という語自体がまだ一般にコンセンサスを得られていませんし、吸気時と呼気時のどちらで虚脱するかによって病態が異なり、能動的に虚脱するのか受動的に虚脱するのか、それもまだ一般には認識されていないように思われます。さらに、虚脱が構造的に脆弱部があって生じるのか、神経機能障害によって生じるのか、これら構造や神経機能に問題なくとも過度な吸気時陰圧によって生じるのか、咽頭周囲に軟部組織過剰になり呼気時に閉塞しやすくなるのか、など、「咽頭虚脱」という語には、様々な不明な要因が含まれており、このような要因を認識せずに安易に使用すべきではないと思います。

咽頭閉塞は静的または構造的な言葉です。X線検査で用いることができます。スライド197での咽頭閉塞は構造を述べています。スライド198−200は透視所見ですが、あえて「吸気時動的咽頭閉塞」「呼気時動的咽頭閉塞」という語を使用し、咽頭虚脱という語を使用していません。

このように、様々な誤解を招く恐れのある咽頭虚脱という語はなるべく使わずに、咽頭閉塞という語を使うようにしています。どうしても、「咽頭虚脱」という語を使用しないと説明が難しい状態の場合は、「呼気時咽頭閉塞を示す咽頭虚脱」とか「吸気時咽頭閉塞を示す咽頭虚脱」とか説明をつけるとよいと思います。近年、獣医学で報告された咽頭虚脱は、後者のことを言っているようです。

 

Q2.X線検査において「FCR画像処理」などのツールはどのように利用すべきとお考えでしょうか?

A2.画像処理したデジタルデータの是非については、放射線専門医に意見を聞くべきです。原則として呼吸器臨床医は、オリジナルの写真をできるだけ鮮明に撮る努力を怠ってはいけないと思います。ポジショニングと呼吸相の絶好のタイミングが、画像には絶対に必要な条件で、これらに関しては画像処理すれば解決できる問題ではありません。したがって、ポジショニングと呼吸相のタイミングさえ揃っていれば、条件を調整するための多少の画像処理はやむを得ないでしょう。

 

Q3.スライド176:動脈穿刺について

呼吸が悪い症例に対して、少なくとも3−4分横臥保定をしなければならないことに躊躇することがあり、実際に採血中に呼吸停止してしまった経験もあります。

動脈穿刺に耐えられる症例なのか、経験上のものでも構いませんので何か判定基準があれば教えて下さい。

A3. とにかく毎日行い、手技に慣れることが重要と思います。経験上の判定基準とは、あえて言えば、自分で「できない」「こわい」と思った場合は実施しないでください。呼吸の一番苦しい時に採取する必要はデータの正確性からもありません。まず、十分に酸素室で落ち着かせてから採取を試みて下さい。だいたい10−15秒ほどで肺内の空気は入れ替わりますので、その時点での動脈血の状態を評価することになります。横臥にすると急にチアノーゼになる場合は、咽頭閉塞が重度、過度な腹水や腹部膨満があるとき、びまん性肺疾患が特に中肺野に偏在している時です。

 

Q4.スライド183;AaDo2の解釈について

肺疾患は生じていない許容範囲内のAaDo2の開大として、対照群と上・中枢気道閉塞群の75%タイル値間とされた意味合いを教えて下さい。

A4. どこかでカットオフ値を設定する必要がありました。箱ひげ図を用いた場合の値の分布範囲は習慣として25%タイル〜75%タイル(=4分位範囲)を用いるので、対照群の分布からAaDo2正常範囲をその4分位範囲で推測することにしました。4分位範囲はサンプル全体の50%が分布した範囲を示します。そうすると、10−20mmHgとなりました。正規分布を示す連続変数では値はばらつき度合いの指標の標準偏差(SD)を用い平均値±SDで示し、これはサンプル全体のおよそ68%が分布する範囲です。したがって、4分位範囲では大まかにはなりますが、それより狭くなります。AaDo2の異常識別は低いことに意味はないので、AaDo2の正常範囲は臨床上<20mmHgと解して良いと思われます。同様に各群の分布域を4分位範囲で表し比較しました。上・中枢気道閉塞は理論的にはAaDo2は開大しないはずですが、対照群より有意に高値となりました。すなわち、上・中枢気道閉塞群では臨床的に認識できないシャント・拡散障害・換気血流比不均等が潜在する可能性があることを示します。上・中枢気道閉塞群の分布は4分位範囲でいえば、15−30mmHgで、正常範囲の<20mmHgと一部重複します。これは理論的に問題ありません。一方、理論的にも明らかにAaDo2開大を示す心原性肺水腫群の4分位範囲は45−65mmHgで、上・中枢気道閉塞群のものと重複がありません。したがって、AaDo2 20−30mmHgを「臨床的に許容範囲のAaDo2の開大」、AaDo2>30mmHgを「臨床的有意な開大」とおおまかな解釈基準を作りました。また未発表データとなりますが、ROC曲線でカットオフ値を検討しても、偶然にも30mmHgが有意となっています。また、このデータ解析後、すでに12年以上経過し検証していますが、AaDo2>30mmHgは臨床的有意な開大として矛盾ないことを実感しております。この検証については過去の臨床データ(AaDo2と最終診断)を利用すれば可能と思います。この件については私の課題と認識しています。

 

Q5.スライド250;片側の気胸について

気胸の場合、心尖部は胸骨から離れると思いますが、この症例では逆に胸骨に接してしまっている理由、また、後肺野が過膨張となり呼吸困難となっているメカニズムについて教えて下さい。

A5. スライド250は非典型所見を示した気胸です。治療は、鎮静下にすぐに左胸郭後部にトロッカーカテーテルを穿通設置して持続脱気にて救命しました。画像をよく観察すると、びまん性透過性亢進はあるも、左後肺野に肺葉萎縮像があり、臨床所見と合わせて左肺後葉からエアーリークによる気胸と判断しました。エアーリークの原因はわかりません。急に発症とのことでしたが、当院で胸部X線検査歴がなく、比較的若齢であるので、先天性にブラを形成しており破裂したのかもしれません。右肺野も透過性亢進がありますが、ラテラル像では心陰影は胸骨に接着しており、典型的な気胸所見ではありません。推測ですが、発症前より両側性多発性ブラがあり、たまたま左後肺野のブラが破裂し、残存肺はもともと過膨張を示し、肺コンプライアンスが低く頻呼吸にて気胸による圧迫より内部からの拡張力の方が勝り、結果として心臓の位置が保たれたと考えています。

呼吸困難感が生じる要因のひとつとして肺の圧受容体が関与していると言われています。右後肺野の代償性過膨張により、気道の内圧が上昇し、呼吸困難感が生じたと考えられます。また、本病態(左側気胸、右側肺気腫)により呼吸困難が生じた可能性もあるでしょう。

ちなみに、この犬の初診時の動脈血ガス分析では、pH 7.45, Pco2 29mmHg, Po2 52mmHg, AaDo2 64mmHgでした。

 

症例相談

1.減感作療法で症状が改善した猫の気管支疾患/喘息の1例

Q1.(発表者:上田)この症例は最終的に呼吸困難で死亡した。他に何かできる治療方法があったか?

A1.(城下)病状が進んでしまうと気道のリモデリングが生じ、これを修復することは困難です。ですから、アレルゲン特異的な治療は初期に行うとより効果的であった可能性があります。人ではステロイド吸入前の罹病期間が1年を超えると喘息症状の改善効果が低く、6ヶ月以内では著明な改善が見られたという臨床データがあります。経験的にも、発症してから3年経過した猫喘息は、最終的にはIPV療法などを施しましたが、治療への反応が悪かったです。

最近、猫の気管支疾患のタイプには好酸球型の他、非好酸球型、混合型などが存在することがわかってきました。非好酸球型は肺過膨張が改善せず、治療成績が良くありませんので、この症例が非好酸球型であった可能性もあると思います。

アレルギー性の炎症により、咳が出ることももちろん考えられますが、気道の粘液が蓄積すること自体が原因となって咳が出ることも考えられます。ですから、難治性の猫喘息に関してはIPV療法などで気道内に貯留した粘液を除去し、QOLを維持しています。

また、本症例の診断は画像によりなされていますが、気管支鏡検査で細菌感染の有無、炎症のタイプの同定、ブロンコレアの有無など、初期の段階で喘息とは違う病態が生じていなかったかどうかを確認する必要があったと思います。

 

Q2.(城下)減感作療法を行うことによって病態が悪化するのではないかと懸念してしまうのですが、やはり実施するなら初期に行う方が良いのでしょうか?

A2.(発表者:上田)人の減感作療法で最も反応が良いのは喘息の治療では、胸腺の残存する若齢期に行うとより効果的だと言われています。動物では、2−3歳までに治療を開始できると理想的かもしれません。

 

Q3.(会場より)猫喘息の治療にアトピカなど免疫抑制剤を使われたご経験はありますか?

A3.(城下)アトピカを使用した経験はあり、有効です。症例報告もあります。ただし、薬価が高いので長期使用は経済的な負担を強いることになるでしょう。(発表者:上田)理論的にもT細胞を抑制する効果があり、有効と思われます。

 

2.慢性低酸素血症によって肺高血圧症を示した犬の2例

Q1.(発表者:菅沼)肺高血圧症の診断に肺生検はどの程度必要または有用か?

A1.(城下)肺生検は侵襲的な方法ですので、肺高血圧や肺線維症を疑う症例には、獣医学領域では不明のリスクもあり明確な適応基準もないように思われます。

人医では、内視鏡ガイド下肺生検が積極的に実施されていますが、臨床所見やCT画像(明瞭な蜂巣肺など)から重度の肺線維症を疑う場合、肺生検は実施されません。これは、生検前にステロイド投与された肺線維症患者に肺生検を実施すると、血気胸が高率に発症し、致命的になることがあるためです。

肺高血圧が慢性低酸素血症を伴う肺疾患によって生じたと疑われるなら、気管支鏡検査、気管支肺胞洗浄にて細菌の分離や、炎症パターンの同定を行うことも可能ではないかと思います。ACVIM2020で発表したように、当院の基準では気管支鏡検査は酸素分圧が60mmHg以上あればある程度安全に実施することができます。それで不明であれば、肺生検を実施するという方法もあります。

 

Q2.(会場より)(血管疾患でなく肺疾患が疑われるような)このような症例にシルデナフィルがどの程度必要または有用ですか?肺疾患のある症例に対し、悪化させる危険はないのでしょうか?

A2.   (麻布大学循環器 青木先生)人では慢性肺疾患に続発する肺高血圧にはシルデナフィルは原則使用しないとされていますが、犬では多変量解析でもシルデナフィルが有効であったという報告があります。2020年のガイドラインでも同じようなケースにシルデナフィルを推奨するという記述があり、今回のケースにシルデナフィルの投与は適切であったと言えるでしょう。用量は5mg/kg BIDから始めて症状に応じ増量するという方法をとっています。

短絡性疾患や左心不全に初期から使用すると心不全を悪化させるということがあるかもしれませんが、慢性肺疾患に対し、シルデナフィルを使用してなんらかの副作用を経験したことはありません。

 

3.フェノバルビタールが反応した逆くしゃみ症候群の犬の1例

Q1.(発表者:新実)診断はフェノバルビタール反応性唾液腺症で問題ないのでしょうか?

A1.(城下)本症の一般的な症状に逆くしゃみという記述はないので、診断に苦慮されたと思います。内視鏡、CT検査で器質的な異常がないことに加え、フェノバルビタールに対し、劇的な改善がみられていますので、そう診断せざるを得ません。

 

Q2.(会場より)病理検査に供した軟口蓋は内視鏡下で鼻咽頭粘膜を採材したものでしょうか?炎症反応もなかったという結果ですね。

A2.(発表者:新実)はい。肉眼的に異常はありませんでしたが、組織学的に異常がある可能性を期待して採材しました。結果は小出血や軽度のリンパ球浸潤などで特筆すべき変化はありませんでした。

 

Q3.(会場より)本症例の症状は、強い咽喉頭炎を疑わせるものですが、ヒストリーや環境要因から咽喉頭炎の原因となるようなものは聴取されなかったのでしょうか?

A3.(発表者:新実)はい。逆くしゃみの症状は1年3ヶ月にも及び、急な環境の変化などはなかったようです。

 

Q4.(会場より)フェノバルビタールに対する反応が、やや短期的にも思えますが。

A4.(城下)本症例は現在もフェノバルビタールで症状をコントロールできているようです。本疾患のフェノバルビタールに対する反応は、1回投与のみでその後再発のないものから、継続投与が必要であったという報告まで様々です。したがって、投与を一度中断しても良いですが、必ず2−3日再発がないか確認する必要があります。

 

Q5.(発表者:新実)本症例は現在フェノバルビタールを2.7mg/kgで使用していますが、後肢のふらつきなどが見られており、漸減しながら経過を見る方向でよろしいでしょうか?

A5.(城下)来院前の症状持続期間が長く、診断後の経過も長く、フェノバルビタール反応性唾液腺症としては非定型な経過を取っているように思えます。薬が減量できないようですので、神経疾患などの関与があるかもしれません。

作成:品川WAFどうぶつ病院 近藤絵里子

 


第7回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時

令和元年12月9日(月)19:00−21:00

会場: スマートレンタルスペース 貸し会議室belle関内601

神奈川県横浜市中区蓬莱町1-1-3 belle関内601.  最寄り駅, JR根岸線『関内』駅より徒歩1分、市営地下鉄ブルーライン『関内』駅より徒歩3分

内容

開会のあいさつ 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ-身体検査4(視診、聴診、触診、打診):聴診の基本

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回は、聴診の基本について解説する。

2 研究班報告

猫の肺の画像所見と病理との連関についての文献レビュー

明石依里子(代官山動物病院)

猫の肺疾患で、病理組織学的所見と画像のデータを揃えた文献をもとに、今回は、「びまん性の間質影、浸潤影、気管支間質影」、もしくは「多発性結節陰影」に相当する画像所見を呈する症例に焦点を当てた。「Cat, lung, X-ray, pathology, veterinary」のキーワードにてPubMedで検出された93件のうち、今回の条件に合った文献は21文献であった。内容としては、肺線維症、感染性肺炎(細菌、寄生虫、原虫、ウイルス)、転移性肺腫瘍、原発性肺腫瘍、細気管支疾患、その他(肺胞蛋白症、内因性脂質性肺炎、原発性気管リンパ肉腫など)があった。今回は、それらの文献の中から、肺線維症、細気管支肺胞腺癌、肺胞蛋白症の症例報告、寄生虫感染症の研究報告、肺線維症と転移性肺腫瘍の後ろ向き解析報告をもとにレビューを行いたいと思う。

3 症例報告・臨床研究

座長:飯野亮太(いいのペットクリニック)

ストライダーを伴った声門下腔の炎症性ポリープに対し喉頭切開にて切除し良好な経過を示した犬の2例

山下智之(上大岡キルシェ動物病院)

[はじめに]犬における喉頭領域の非腫瘍性腫瘤疾患の報告は少なく、特にポリープについては発生原因、予後について十分に検討されていない。[症例]症例1はヨークシャテリア、13歳、未去勢雄で興奮時両相性ストライダーを主訴に来院した。症例2はジャックラッセルテリア、14歳、未去勢雄で三年前より嗄声、レッチングといった異常呼吸音があり、2日前から咳嗽、呼吸困難を呈したため来院した。2例とも一次検査にて喉頭内腫瘤を疑い、二次検査にて声門下腔に腫瘤を認め、喉頭切開により腫瘤を切除した。病理組織検査診断名は炎症性ポリープであり、良好な経過をおえている。[考察]症例2の腫瘤は肉眼所見から悪性腫瘍を疑ったが、症例1と同様に良好な予後をおえているため、喉頭領域の腫瘤性疾患では悪性腫瘍を疑うような肉眼所見が得られた場合、組織採材かつ気道開存を目的として、可能な限り減容積治療を行うことの有用性が示唆された。さらに喉頭領域の腫瘤性疾患に対し、積極的に二次検査による精査かつ治療を行い、情報を蓄積していく必要がある。

2)喉頭扁平上皮癌に対して喉頭全摘出術を実施し良好な長期経過が得られた犬の1例  稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)-演題持ち越し

閉会のあいさつ 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

開催状況:今回も多くの先生、学生にご参加いただきました。今回も(株)ジェイエスピーにWebミーティングの管理をご支援いただきました。遠方の会員ともPCやタブレット端末にてディスカッションできるシステムです。まだ思考錯誤の段階ですが、会を重ねる毎に方法が確立し、運営が安定してきました。できるだけ多くの会員の先生とリアルタイムで議論が交わせるよう今後もこのシステムを続けていきたいと考えています。

呼吸器総論では、城下より聴診の基本について、音の構成、肺音の構成、呼吸音と副雑音について用語整理と意義について講義しました。研究会の診療基準としようと考えております。研究班報告では、FDLD班から代官山動物病院の明石先生から猫のびまん性胸部異常影と病理組織の連関が確認されて文献のレビューを行なったいただきました。画像所見と病理組織についての文献記載は予想以上に少なく、現在の画像所見の解析はほとんど病理組織所見に基づいておらずそれが炎症だか、線維化だか、腫瘍だか、細胞貯留だか、粘液貯留だか、細胞浸潤だか、上皮細胞増生だか、実は全く知見としては確立されていないということであり、獣医学でのまだ画像診断はまだ根拠の確かでなく、画像所見では結論できないということが分かりました。数少ない文献からでも、同様画像所見でも病理組織像は異なり、最終的診断は生検が必要とされます。その中で、岡山理科大の三井先生からは、現在の獣医呼吸器の知見の範囲では生検鉗子程度のごく少量の検体量では病理像把握は困難であり、できるだけ肺葉単位での組織が必要であるとの指摘がありました。猫の肺野画像診断はX線検査だろうと、CT検査だろうと、まだまだ主観に基づく信頼度のないものであり、所見を述べることはできても診断をすることはできないということは臨床医は重々理解すべきです。 症例報告では、上大岡キルシェ動物病院の山下智之先生から、犬の喉頭由来の良性の炎症性ポリープ2例とのことでした。両例とも、受診時、誤嚥性肺炎と両相性異常呼吸音を伴い、救急患者でした。透視検査にて喉頭領域に可動性腫瘤状病変を認め、内視鏡検査を敢行し、有茎状病変を声門下から声帯ひだ領域に認め、喉頭切開にて切除したところ、病理検査にて良性の炎症性ポリープであったとのことです。犬の喉頭良性ポリープの報告は極めて稀で、どのような症状で来院し、どのように治療を実施するかの情報が不足しており、大変貴重な報告であったと思われます。後者2演題においては、会場から議論に暇なく、参加された皆さんには関心が深かったようでした。あまりに議論が白熱し、稲葉先生の最終演題は先送りになりました。

参加者、敬称略:山谷吉樹(日本大学)、三井一鬼(岡山理科大 愛媛県今治市、Web会議にて参加)、青木卓磨(麻布大学小動物外科学研究室)、大菅辰幸(北海道大学大学院獣医学研究院 付属動物病院 特任助教)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター)、菅沼鉄平(ほさか動物病院)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院)、近藤絵里子(ペット家族動物病院五反田店)、飯野亮太(いいのペットクリニック)、中森正也(乙訓どうぶつ病院)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)、明石依里子(代官山動物病院)、吉田健二(ファミリー動物病院)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター)、櫻井智敬(とも動物病院)、侭田和也(JASMINEどうぶつ循環器病センター)、中野秀哉(動物病院川越、Web会議にて参加)、小川浩子(小川犬猫病院)、草場翔央(Sho Animal Clinic)、横井慎仙(関水動物病院)、松田岳人(くりの木動物病院)、高安 淳(梨香台動物病院)、関 敬泰(ピジョン動物愛護病院わらび院)、杉井太市郎(アポロどうぶつ病院)、郭真太郎(南台動物病院)、中島ちひろ(アニマルクリニックこばやし)、津山 悠(品川WAFどうぶつ病院)、木嶋洋志(羽根木動物病院)、松村健太(杉田動物病院)、松永典子(ラーク動物病院、Web会議にて参加)、池田五月(アセンズ動物病院、Web会議にて参加)、片寄早紀恵(麻布大学小動物外科学研究室)、城下幸仁/稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)   合計35名。

賛助会員:テルコム株式会社、(株)ジェイエスピー

最終更新日:2019年12月11日(城下幸仁)


第6回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時

令和元年10月7日(月)19:00−21:00

会場: スマートレンタルスペース 貸し会議室belle関内601

神奈川県横浜市中区蓬莱町1-1-3 belle関内601.  最寄り駅, JR根岸線『関内』駅より徒歩1分、市営地下鉄ブルーライン『関内』駅より徒歩3分

内容

開会のあいさつ 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):努力呼吸

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回は、努力呼吸の身体検査から解説を始める。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

2 研究班報告

犬・猫におけるラリンジアルマスクを用いた仰臥位、喉頭および気管気管支鏡検査の臨床適用:16.5年間820施行の経験

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

従来、猫や小型犬の気管支鏡検査は伏臥位、非挿管下で実施され合併症率は30-40%と報告されている。ラリンジアルマスクを介した喉頭および気管気管支鏡検査(LTBS)は猫や小型犬でも気道確保と酸素投与しながら喉頭から観察可能となり、さらに仰臥位に行うと操作性が増すと考えられる。しかし、長期的な検証がない。今回、まず3頭の正常犬の仰臥位気管支鏡検査所見と2種類の標本から従来の伏臥位図譜を仰臥位に再構築し、さらに演者が16.5年間に施行した820回のLTBSの経験から、1)前述図譜を検証、2)猫や小型犬への適用、3LTBSの適応および合併症について記述した。再構築した図譜に矛盾なく、猫で212、体重5kg未満の小型犬で325、体重5kg以上の中・大型犬で283回施行され、それぞれ喉頭から肺疾患まで広く適用され合併症率は9.8%(80/820)であった。LTBSは猫や小型犬への有用性が高い。なお、本演題の一部は第162回日本獣医学会学術集会にて発表した。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

3 症例報告・臨床研究

今回は演題がありません。

開催状況:今回も多くの先生、学生にご参加いただきました。今回も(株)ジェイエスピーの支援でWebミーティングを導入しました。遠方の会員ともディスカッションできるシステムです。まだ思考錯誤の段階ですが、できるだけ多くの会員の先生とリアルタイムで議論が交わせるよう今後もこのシステムを続けていきたいと考えています。

質疑応答の様子

呼吸器総論では、私の方から努力呼吸について診療指針をお話ししました。「呼吸困難」という語は医学では患者の息苦しいという主観的意味があり、獣医療では使用すべきではないとの考えもありますが、所見として使用しても違和感はないのが現状です。調査したところ、獣医学では所見として使用してもよいことがわかりました。でも観察者の主観による語であり定量化したものではないのでやはり客観的な定義のある語を所見に用いた方がよいです。身体検査所見としては「呼吸困難」は努力呼吸というカテゴリ-としてまとめ、頻呼吸、呼吸促迫、吸気時開口呼吸、浅速呼吸、努力呼吸、吸気努力、呼気努力、奇異呼吸に分類し、それぞれの識別のポイントと意義について述べました。また、研究班報告では、今回は私の方からこれまでライフワークとして取り組んできた猫や小型犬における気管支鏡検査の安全かつ効果的な方法についてお話しさせていただきました。従来は気管チューブを一度抜いてその間に内視鏡検査を行う方法が取られてきましたが、リスクが高く適応が限られてしまいます。今回紹介した方法は、仰臥位にラリンジアルマスクを用いて行い、内視鏡検査や処置中の気道確保と酸素投与を持続でき、猫でも小型犬でも従来法の問題をクリアし安全性も適応範囲も向上させたことをこれまでの臨床経験にて示しました。LTBS班の会員からの報告のあった多くの文献データを参考に考察しました。議論もデータ吟味に深く迫る的を得た質問もあり、私も多いに刺激になりました。日本獣医学会発表時には全く議論がありませんでしたが、さすがに当研究会の会員は優秀です。今後も、若い先生から、遠慮ない自由な意見や反論を期待しています。私でも思いつかない柔軟な発想に期待しています。そして、演者と会場双方で充実した時間を過ごせるようにしたいものです。

参加者(順不同、敬称略): 山谷吉樹(日本大学)、三井一鬼(岡山理科大 愛媛県今治市、Web会議にて参加)、青木卓磨(麻布大学小動物外科学研究室)、新実誠矢(麻布大学小動物外科学研究室)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター)、菅沼鉄平(ほさか動物病院)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院)、近藤絵里子(ペット家族動物病院五反田店)、飯野亮太(いいのペットクリニック)、中森正也(乙訓どうぶつ病院)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)、明石依里子(代官山動物病院)、吉田健二(ファミリー動物病院)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター)、櫻井智敬(とも動物病院)、侭田和也(JASMINEどうぶつ循環器病センター)、中野秀哉(動物病院川越)、小川浩子(小川犬猫病院)、草場翔央(Sho Animal Clinic)、海老澤祟史(世田谷通り動物病院)、横井慎仙(関水動物病院)、松田岳人(くりの木動物病院)、大関怜央(梨香台動物病院)、黒河内健太郎(JASMINEどうぶつ循環器病センター)、杉井太市郎(アポロどうぶつ病院)、郭真太郎(南台動物病院)、木下涼(麻布大学小動物外科学研究室)、梅澤むつき(麻布大学小動物外科学研究室)、片寄早紀恵(麻布大学小動物外科学研究室)、原茉莉奈(麻布大学小動物外科学研究室)、高田優樹(麻布大学小動物外科学研究室)、小川晃朗(麻布大学小動物外科学研究室)、城下幸仁/稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)   合計35名。

賛助会員:テルコム株式会社、(株)ジェイエスピー

最終更新日:2019年10月17日(城下幸仁)


第5回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時

令和元年8月12日(月)19:00−21:00

会場: スマートレンタルスペース 貸し会議室belle関内601

神奈川県横浜市中区蓬莱町1-1-3 belle関内601.  最寄り駅, JR根岸線『関内』駅より徒歩1分、市営地下鉄ブルーライン『関内』駅より徒歩3分

内容

開会のあいさつ 城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):異常呼吸音、ストライダー

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。前回に引き続き、身体検査(視診、聴診、触診、打診)の手順について紹介する。今回は、異常呼吸音のストライダーから解説を始める。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

2 研究班報告

短頭種気道閉塞症候群の臨床評価-主観および客観評価の文献レビュー

布川智範(ぬのかわ犬猫病院)

短頭種気道閉塞症候群(BAOS)の最近の報告をレピューする。2015年に咽頭虚脱が短頭種で起こることが報告され、それ以降咽頭部の評価に関する報告が行われてきている。また咽頭部の閉塞と関連する睡眠時無呼吸症候群は獣医領域で疾患として認知されてこなかったが、その重要性が認識されてきている。最後に短頭種気道症候群の症状の重症度、治療反応の評価方法は主観的であり、文献により異なるため評価が難しい。BAOSのgrade分類を模索している最近の流れを紹介し、議論できればと考えている。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

3 症例報告・臨床研究

座長:城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

犬の原発性気管軟骨腫の1 例

稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)

前医のX線検査にて気管内腫瘤状陰影を認め、精査希望のため8歳齢の雄のチワワが当院呼吸器科に来院した。ストライダーや呼吸困難症状は認められなかった。X線および透視検査にて胸郭前口部気管に結節陰影を認め、気管気管支鏡検査にて気管腹側より発生する表面平滑な硬い多結節隆起病変を認めた。通常の生検鉗子では硬く組織採取不可能であったのでホットバイオプシー鉗子を用いた。わずかに得られた組織より病理検査にて軟骨様組織が確認され気管軟骨腫が疑われた。術後一過性に皮下気腫と喉頭麻痺が生じたが、支持療法にて改善した。術後35日の気管気管支鏡検査にて、十分に気管内径が確保されていることが確認されたため退院となった。犬の原発性気管腫瘍は稀であるが、そのうち気管軟骨腫はさらに稀であり文献的考察も含め報告する。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

閉会のあいさつ 城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

開催状況:休日にもかかわらず、たくさんの参加がありました。本日はWeb会議の技術を一部導入し岡山理科大病理研究室の三井先生を愛媛からアドバイザーとして勉強会にご参加いただきました。しばらく試行期間をおいて一般会員もこのシステムを用いて勉強会に参加できるように考えております。

勉強会議の様子

まず、城下から主に視診での呼吸器疾患へのアプローチで異常呼吸音のストライダーとゴロゴロ音について具体的な症例の画像や所見を紹介しつつ解説いたしました。

つづいて、ぬのかわ犬猫病院の布川智範先生から、最近の短頭種気道閉塞症候群(BAOS)の臨床評価に関する文献レビューを行なっていただきました。この分野は、近年の画像解析技術や全身プレチスモグラフィを用いた呼吸メカニクス解析技術の進歩に伴い獣医呼吸器学のトピックになっております。主に、咽頭気道の動的構造評価、運動不耐性評価、睡眠呼吸障害を客観化してグレード分類や重症度評価を試み、有用な指標を模索していたり、外科手術評価を行う流れになっています。まだ客観的指標はリサーチレベルで検討されていますが、それを照合する臨床評価基準は一律でなく、緻密な測定をしたり、運動負荷の前後の異常呼吸音や体温上昇の影響を試みるなど根気強い評価法が基本となっています。CTやMRIは鎮静や麻酔が咽頭気道を虚脱させるので、上気道評価にはバイアスが加わってしまいますが、軟口蓋の厚さが重症度と関連があるかもしれないという研究は評価されました。また、症例から切除した軟口蓋組織で末梢神経傷害が生じていることも分かっており、それも咽頭閉塞と関連があるかもしれないということでした。しかし、現段階では共通のBAOS臨床グレーディングのgold standardはなく、研究ごとに基準を設けていることが現状のようです。治療効果判定や病態解析の研究では客観的基準を設定することは必要条件とされており、当研究会でも、再現性の高い「臨床評価基準」を探してみたいと思います。

最後に、犬・猫の呼吸器科の稲葉先生から犬の原発性気管軟骨腫の1例について症例報告がありました。胸部X線検査にて気管胸郭前口部腹側に固定した結節陰影がみつかり精査を進めました。気管支鏡検査では明らかに気管狭窄を生じるほどの隆起病変を認めましたが、通常の生検鉗子では固くて全くつかむことができず、減容積による気道開存と病理組織検査目的を兼ね、高周波処置具のホットバイオプシーをもちい生検を行いました。切除するには十分な出力と通電時間が必要でそのため採取した標本の周囲のほとんどは熱変性を受けてしまいました。しかし、わずかに残った組織から、異型性が確認されず軟骨腫と判断しました。犬の原発性軟骨腫は報告が少なく稀です。気管管状切除と吻合が理想的治療でしたが、僧帽弁閉鎖不全と蛋白漏出性腸症の合併症があり周術期管理に不安あり、今回の気管支鏡下減容積のみにて経過観察となりました。幸い、気管狭窄の症状はその後生じませんでした。

参加者(順不同、敬称略): 三井一鬼(岡山理科大 愛媛県今治市、Web会議にて参加)、合屋征二郎(日本大学)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院 兵庫)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター 神奈川)、菅沼鉄平(ほさか動物病院 神奈川)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院 神奈川)、田畑達彦(ダクタリ動物病院東京医療センター 東京)、飯野亮太(いいのペットクリニック 北海道)、明石依里子(代官山動物病院 東京)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院 神奈川)、侭田和也(JASMINEどうぶつ循環器病センター 神奈川)、横井慎仙(関水動物病院 神奈川)、松田岳人(くりの木動物病院 神奈川)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター 東京)、田中啓之(武井動物病院 東京)、小川浩子(小川犬猫病院 神奈川)、草場翔央(Sho Animal Clinic 神奈川)、杉井太市郎(アポロどうぶつ病院)、佐藤浩(獣医総合診療サポート)、鏑木絵莉/片寄早紀恵(麻布大学小動物外科研究室)、城下幸仁/稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)。

合計24名。

賛助会員:テルコム株式会社、(株)ジェイエスピー

最終更新日:2019年8月14日(城下幸仁)


第4回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時

令和元年6月17日(月)19:00−21:00

開会のあいさつ 城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

会場: 相模原市立市民・大学交流センター(セミナールーム1)

内容

開会のあいさつ 城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

症例報告・臨床研究

座長:城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1. 若齢猫に発生した鼻腔内形質細胞腫の1例

◯谷口 哲也1)2), 藤原 亜紀1), 田村 恭一3), 浅田 李佳子1), 長谷川 大輔1), 藤田 道郎1)

1) 日本獣医生命科学大学獣医放射線学研究室、2) 兵庫ペット医療センター東灘病院、3) 日本獣医生命科学大学獣医臨床病理学研究室

[はじめに]猫の髄外性形質細胞腫(EMP)の発症は稀であり治療経過や予後についての報告は少ない。[症例]症例は雑種猫の避妊済み雌、3歳5ヶ月齢、漿液性鼻汁とくしゃみを主訴に来院。MRI検査で鼻腔内に軟部組織を認め、初回の病理組織検査ではリンパ形質細胞性鼻炎と診断され、2度目の病理組織検査でEMPと診断された。治療中に汎血球減少症を認めたため、骨髄穿刺を実施し、EMPに関連した血球貪食症候群が疑われた。症例は放射線療法で鼻腔内の腫瘤に退縮を認めたが、腎臓への転移を認め死亡した。[考察]本症例では2度の病理組織検査によってEMPの診断に至ったことから、リンパ形質細胞性炎症の鑑別としてEMPを考慮する必要がある。鼻腔内EMPは放射線療法がEMPを局所制御できる可能性が考えられたが、EMPは完全切除ができない場合、遠隔転移することが示唆された。また悪性腫瘍関連血球貪食症候群が生じたと考えられた。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

2. 爪床メラノーマの肺転移切除後に長期生存している犬の1例

◯布川智範 嶋田竜一 池田博和(ぬのかわ犬猫病院)

[はじめに]肺腫瘍は原発性腫瘍と転移性腫瘍に分類され、その多くは転移性である。その治療は、外科療法・化学療法・分子標的薬・吸入療法の報告はあるが、十分な検討はされていない。[症例]バーニーズ・マウンテン・ドック、15歳、避妊雌。爪床メラノーマのため右前肢第5指を摘出。マージン(−)、転移はなく、補助治療は行わずに胸部レントゲン検査で検診をしていった。手術後第1150病日に左後肺野領域に結節性陰影を認め、CTで左肺後葉に肺腫瘤が認められたため、外科的に左肺後葉部分切除を行った。副葉の胸膜に微小な結節が認められ、こちらも摘出した。病理検査は肺、胸膜ともにメラノーマの転移であった。肺転移切除後第485日の胸部レントゲン検査では新たな転移病変は認められていない。[考察]転移性肺腫瘍の外科的な治療効果を検討するのに、症例数を増やして検討していく必要があると考えられた。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

3. 喉頭蓋の後傾に対し喉頭蓋部分切除術を実施し良好な経過が得られた犬の1例

稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)

持続性ストライダーを呈した5歳の雌のポメラニアンが来院し、透視検査および喉頭鏡検査より喉頭蓋の後傾と診断した。まず喉頭蓋固定術を実施したが、第6病日に縫合糸の断裂が生じ再発したため、第9病日に喉頭蓋部分切除術(V字状)を実施した。術後よりストライダーは消失した。術後2か月後の喉頭鏡検査において喉頭蓋の切除面は良好に上皮化されていることが観察された。現在術後45ヶ月が経過しているが誤嚥や嚥下困難もなく、良好に経過している。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

4. 咳嗽と喀血を呈した猫の気管支疾患の1例

稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)

発作性咳嗽、喀血を呈する4歳齢の去勢雄の雑種猫が精査希望のため来院した。胸部X線検査にて右中肺野に境界不明瞭な浸潤影及び右後肺野に間質影、両側後肺野に気管支壁の肥厚像を認め、動脈血ガス分析は正常範囲であった。気管支鏡検査にてRB4V1に出血あり、吸引後に赤色の拍動性結節病変を認めた。これが喀血の原因と考えられたが出血が懸念され生検は実施しなかった。気管支肺胞洗浄液解析で好酸球増加(22.2%、正常10%)と好中球増加(59.7%、正常4.0%)を認め、培養では細菌陰性であった。好酸球/好中球性混合型の猫の気管支疾患と診断し、プレドニゾロンの全身投与、気管支拡張剤の吸入療法を開始した。咳嗽、喀血は速やかに消失し、肺野異常影も改善し、現在治療開始より6ヶ月間、良好に経過している。猫の気管支疾患に喀血を伴うことは稀であり、拍動性気管支結節病変の関与が示唆された。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

閉会のあいさつ 城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

 

開催状況

谷口先生

布川先生

稲葉先生

全体風景

今回は、症例報告4題について、参加者と議論いたしました。いずれの演者も本研究会にて積極的に活動されている先生方で、日頃呼吸器臨床に専心的に取り組まれております。

1題目は兵庫ペット医療センター東灘病院勤務で、日本獣医生命科学大学獣医放射線学研究室の研究生も兼務されている谷口先生から、猫の鼻腔内形質細胞腫の一例の報告がありました。形質細胞腫は、一般に予後不安定と言われておりますが、その全貌はよくわかっておりません。報告された症例は、画像、病理、血液内科学など集学的に特異的診断アプローチが進められ、悪性の性質をもつ腫瘍と判断され、化学療法と放射線療法を試みられ、一時は少し状態の改善がみられたのですが、貧血や腎臓転移なども生じ、残念ながら転機不良の経過をたどりました。会場からは、リンパ腫と本症例で診断された形質細胞腫との差異、検体採取法について質疑がありました。内科学や腫瘍学の分野が多いに関連しますが、「形質細胞腫」自体の診断や分類が明瞭になるにはまだ時間がかかるようです。

2題目は横浜のぬのかわ犬猫病院の布川先生から、15歳のバーニーズ犬にてメラノーマの孤立肺転移病巣を片肺換気下胸腔鏡補助下に最小限の肋間切開創にて肺部分切除にて摘出をおこなった報告でした。片肺換気の方法や、胸腔鏡所見など丁寧に詳しく提示され、また肺転移腫瘍病巣切除に対する根拠についても文献考察を十分にされていました。動物の領域でも、人のように転移病巣を早期発見し切除する時代が来るのかもしれません。すばらしい報告でした。会場からは、片肺換気の気道確保法について質問があり、これまでの経験から最善と考えられる、気管チューブをご紹介いただきました。

3題目は犬・猫の呼吸器科の稲葉先生から、執拗なストライダーを示した喉頭蓋の後傾への行なった喉頭蓋部分切除について報告がありました。喉頭蓋の後傾の病態、その術式を選んだ根拠、誤嚥が起こりにくい理由、予後について説明がありました。会場からは、これまでの第一選択術式と考えられてきた喉頭蓋固定術の是非、切除法、温存的対処法について質問がありました。演者経験から、従来法の喉頭蓋固定術は高確率で失敗し再発したり、誤嚥が起こりやすいと考えられると回答がありました。本術式は、簡便でかつ術後経過良好であり、基本的に咽喉頭運動において合理的であることが考えられることから、さらに例数を増やしその長所を検討すべきと思われました。

4題目も犬・猫の呼吸器科の稲葉先生から、喀血を伴った猫の気管支疾患の一例について報告がありました。主症状は慢性発作性咳でした。気管支鏡検査にて、気管支のある部位に拍動性の赤色結節病変が認めらましたが生検は大量出血のリスクが高いと考えられ、動脈瘤病変を疑いました。また、慢性発作性咳については、気管支肺胞洗浄液解析から好中球/好酸球混合型の気管支疾患と診断されました。気管支疾患の治療のみ行いましたが、幸い経過良好で喀血の再発は認められませんでした。会場からは、赤色結節病変は腫瘍性病変の可能性があるのでは、という指摘がありました。また、猫の気管支疾患という診断名に馴染みがないとの指摘がありました。本疾患名は、唯一の犬・猫の呼吸器疾患の教科書であるTextbook of Respiratory Diseases in Dogs and CatsのChapter53に、Feline Bronchieal Diseases/Athmaという記述があることを示し、なおかつ、この猫の気管支疾患は、BALF所見によって好酸球型、非好酸球型、混合型の3タイプがあり、これらは症状や治療反応が異なるので、予後が異なることを、城下より補助的に説明しました。猫喘息、Feline Asthmaは、好酸球型の猫の気管支疾患と同義となります。

参加者(順不同、敬称略):合屋征二郎(東京農工大学獣医外科学研究室 東京)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院 兵庫)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター 神奈川)、菅沼鉄平(ほさか動物病院 神奈川)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院 神奈川)、田畑達彦(ダクタリ動物病院東京医療センター 東京)、近藤絵里子(ペット家族動物病院西五反田店 東京)、飯野亮太(いいのペットクリニック 北海道)、明石依里子(代官山動物病院 東京)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院 神奈川)、侭田和也(JASMINEどうぶつ循環器病センター 神奈川)、横井慎仙(関水動物病院 神奈川)、松田岳人(くりの木動物病院 神奈川)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター 東京)、中野秀哉(動物病院川越、埼玉)、田中啓之(武井動物病院 東京)、小川浩子(小川犬猫病院 神奈川)、草場翔央(Sho Animal Clinic 神奈川)、関敬泰(ピジョン動物愛護病院わらび院 埼玉)、杉井太市郎(アポロどうぶつ病院 埼玉)

合計21名

賛助会員:(株)ジェイエスピー、フクダエムイー工業(株)

最終更新日:2019年6月19日(城下幸仁)


第3回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時

平成31年4月8日(月)19:00−21:00

会場:相模原市立市民・大学交流センター(セミナールーム1) 最寄駅:相模大野駅

内容

開会のあいさつ 城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅢ 身体検査(視診、聴診、触診、打診):異常呼吸音

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。今回より、身体検査(視診、聴診、触診)の手順について紹介する。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

2 研究班報告

犬・猫の気管支鏡検査−麻酔法、体位、気道確保、BALの手技、合併症に関する文献レビュー

菅沼 鉄平(ほさか動物病院)

犬と猫の気管支鏡検査について1985~2015年までの主要な報告や獣医呼吸器学テキストから11の資料の記載内容をまとめたものを報告する。今回は気管支鏡検査時の体位、気道確保の方法、麻酔法、BALの手技、合併症についてまとめ、現在の獣医療での傾向を確認した。気管支鏡検査は呼吸器疾患診断で重要な役割を担っているが、検査による循環や呼吸状態への変動をきたす可能性もあるため、今回のレビューにてその手技を見直し改善点を議論する契機にしたい。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

3 症例報告・臨床研究

口咽頭内の腺扁平上皮癌と診断された_キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの1例_

明石 依里子(昭島動物病院、現:代官山動物病院)

腺扁平上皮癌は、人において、はじめは高悪性度の粘表皮癌とされていたが、その浸潤性の高さと予後の悪さ、そして形態的な違いから、独立した腺癌と扁平上皮癌の組織学的な形態を持つものとして2004年から新たに「粘膜上皮から発生し、扁平上皮癌と真の腺癌の性質をもつ腫瘍」と定義され、WHOに分類された。その生物学的動態は悪く、リンパ節転移や遠隔転移の率が高く予後不良とされている。犬における腺扁平上皮癌の報告は少なく、特に口咽頭腫瘍としての発生は報告数が限られている。そのため、その生物学的動態は悪いとされているものの、特性や病態は不明な点が多く、認知度も低いのが現状である。今回、その口腔咽頭腫瘍としては稀な疾患である腺扁平上皮癌の犬の1症例を経験し、知見を得たのでその剖検による病理組織的結果を中心に報告する。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

閉会のごあいさつ  城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

開催状況

平成最後の勉強会となりました。年度が変わり、ご多忙の中多くの先生方にご参加いただきました。今回は、参助会員の企業の株式会社東京メニックス、株式会社ジェイエスピー、フクダエム・イー工業株式会社の方々もご参加あり、ICU装置や動物監視システムなどの呼吸器患者の診療にはとてもありがたい装置の紹介がありました。今後もぜひ研究会にご助力いただければと思います。

まず冒頭に、本研究会の監査役のテルコム株式会社の小林さんからNPO法人の説明があり、私からも研究会のNPO法人化を目指したい旨をみなさんにお伝えしました。NPO法人とは公認の社会貢献活動のための法人です。手続きは煩雑で活動目的は指定され、経理状況も公開が義務付けられ、規模は小さくても社会信用度が高い法人形態です。臨床獣医師として、動物のみならず医学にも貢献できるような活動や研究をアピールしてきたいと考えています。NPO法人化については、私と小林さんとで進め、折にふれ進捗状況を会員のみなさんにお伝えします。

今回は、まず城下が総論として、犬・猫の呼吸器疾患のアプローチとして、身体検査についての話題を始めました。呼吸数、BCS、カフテスト、胸部タッピングの意義と解釈について述べ、異常呼吸音のうちスターターについて動画を交えながら説明しました。

次に、ほさか動物病院の菅沼先生から犬・猫の気管支鏡検査の手技や合併症の文献レビューについて口演してもらいました。7Fr以下の気管チューブを使用するような猫や小型犬での適用に制限があり、より安全かつ効果的な方法を確立する必要性を述べました。議論では、各施設でこのサイズの動物への気管支鏡検査の適用の選択には慎重にならあるを得ないとの意見が多かったです。本邦では小型犬や猫が多く、この問題解決は不可欠と考えます。本研究会では、その解決法としてラリンゲルマスクの適用を上げており、今後その成果を報告していきます。

最後に、代官山動物病院の明石先生から、旧所属の昭島動物病院で経験したキャバリアの咽頭腫瘍について報告がありましした。結果としては、予後不良でその動態がよく知られていない珍しい腺扁平上皮癌と判明しましたが、術中の気管切開部への気管チューブの処置中に、急に徐脈になり、徐脈は急性進行性でアトロピンに反応せず、数10秒ののちに心停止となったとのことでした。死因解明のため、剖検が行われましたが、心肺に死因に結びつく原因はみつからなかったということでした。状況から単純に迷走神経刺激とは考えられないというのが大方の意見でした。術前の低栄養状態より術中低血糖の可能性や、空気塞栓が心臓冠動脈に流入したのかもしれないとの意見もありました。腺扁平上皮癌は、剖検によりリンパ節全体を採取し、深部まで免疫染色を含め詳細に病理組織学的に精査して診断にいたりました。通常キャバリアでみられる扁桃扁平上皮癌の一部は腺癌との合併があるのかもしれないと考察でした。咽頭腫瘍の対処、その病理学所見、術中事故など多くの問題を投げかける症例報告でした。いずれにしても、キャバリアの咽頭腫瘍は慎重なインフォメーションのもとで診療を行う必要がありそうです。

参加者(順不同、敬称略):

山谷吉樹(日本大学生物資源科学部獣医学科 神奈川)、青木卓磨(麻布大学外科学第一研究室 神奈川)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター 神奈川)、菅沼鉄平(ほさか動物病院 神奈川)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院 神奈川)、福田大介(まるふく動物病院 群馬)、田畑達彦(ダクタリ動物病院東京医療センター 東京)、近藤絵里子(ペット家族動物病院西五反田店 東京)、飯野亮太(いいのペットクリニック 北海道)、中森正也(乙訓どうぶつ病院 京都)、谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院 兵庫)、明石依里子(代官山動物病院 東京)、吉田健二(ファミリー動物病院 千葉)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院 神奈川)、櫻井智敬(とも動物病院 神奈川)、中野秀哉(動物病院川越 埼玉)、森本望美(相模原どうぶつ医療センター 神奈川)、小川浩子(小川犬猫病院 神奈川)、草場翔央(Sho Animal Clinic 神奈川)、小野和徳(花岡動物病院 神奈川)、横井慎仙(関水動物病院 神奈川)、松田岳人(くりの木動物病院 神奈川)、高安聡(麻布大学5年生 神奈川)、松田有梨(ドルフィンアニマルホスピタル 埼玉)、杉浦洋明(DVMsどうぶつ医療センター横浜 神奈川)、岩上慎哉(みかん動物病院 神奈川)、長谷川英公(相模原どうぶつ医療センター 神奈川)、赤沼康子(東京動物医療センター 東京)、中島ちひろ(アニマルクリニックこばやし 埼玉)

合計30名

賛助会員:(株)ジェイエスピー、(株)東京メニックス、フクダエムイー工業(株)

最終更新日:2019年4月11日(城下幸仁)


第2回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時

平成31年2月11日(月)19:00−21:00

会場:相模原市立市民・大学交流センター(セミナールーム1) 最寄駅:相模大野駅

内容

開会のあいさつ

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチⅡ 問診

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

小動物の呼吸器診療は観察に始まり観察に終わる。獣医領域では呼吸の動的評価を数値化し客観評価することがまだ困難であり、一定した系統的な手順で診療を進める必要がある。今回から、7年以上呼吸器専門診療を継続してきた経験に準じて作成した犬・猫の呼吸器科の診療データベースのシートを用い、麻酔を行わない一次検査の手順による診断アプローチを紹介し、今後当研究会での呼吸器診療の診療基準の試案を検討していく。今回は、診察の第一歩である問診の手順について紹介する。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

2 研究班報告

今回は演題がありません。

3 症例報告・臨床研究

死後検査における呼吸器

三井 一鬼(合同会社ノーバウンダリーズ動物病理)

緻密なネットワークによって生命を維持している臓器・器官・細胞に生じた変化を具体的かつ包括的に知り、死因追究や病態把握を通じて人と動物の科学や社会に貢献するのが死後検査である。当社にて6年間で201頭の動物(大半は犬と猫)の死後検査を行ったところ、135頭において肺に直接死因や主病変が存在し、他の臓器系を凌駕していた。診断名としては肺水腫(PE)が最多で、び漫性肺胞傷害(DAD)や各種肺炎がこれに続いた。本講演においては呼吸器の死後検査手技を説明し、実際に遭遇した肺病変について、病理発生機序、臨床情報、病理肉眼像、病理組織像を包含して紹介する。また、PEDADの概念と原因(長い鑑別診断リスト)を説明する。今後、臨床医と病理医が動物の呼吸器疾患の病態把握や診断のためにどのように協力できるか・すべきかのベースを提供するのが、本講演の最大の目的である。公開動画はこちら。ご意見やご質問をコメントください。

閉会のごあいさつ  城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

開催状況:

会員、非会員あわせて計27名のご参加がありました。ご多忙のところ、ご参加ありがとうございました。

まず、城下から呼吸器疾患へのアプローチの問診の手順の要点について、犬・猫の呼吸器科で現在運用している診療データベースを用いて、注目すべき重要な徴候とグレーディングを中心に解説しました。このような診療基準は、定型的なものがなく、まず当研究会にて提案し議論していきたいと思っております。

次に、豊富な動物の剖検経験をお持ちの合同会社ノーバウンダリーズ動物病理の三井先生から肺の病理について解説していただきました。三井先生は北大を卒業後、米国で病理学を勉強され、米国獣医病理学専門医となられました。これまで民間の病理医として活動されてきましたが、4月からは岡山理科大に大学教官として就任されます。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。講演では、統計的に死因には肺水腫とDADが関与することが多いので、呼吸器臨床医の連携をとりたいと強く主張されました。病理検討は呼吸器臨床には不可欠であり、三井先生は呼吸器病理にとても強い関心をお持ちで、研究会の強力なパートナーになってくれそうです。研究会としては、肺病理検査にはぜひ三井先生に依頼し、動物の肺疾患の実態調査をお願いしたいと思います。

犬・猫の呼吸器科 城下

参加者(順不同、敬称略):

谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院 兵庫)、山谷吉樹(日本大学生物資源科学部獣医学科 神奈川)、青木卓磨(麻布大学外科学第一研究室 神奈川)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター 神奈川)、菅沼鉄平(ほさか動物病院 神奈川)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院、神奈川)、田畑達彦(ダクタリ動物病院東京医療センター、東京)、近藤絵里子(ペット家族動物病院西五反田店、東京)、飯野亮太(いいのペットクリニック、北海道)、中森正也(乙訓どうぶつ病院 京都)、明石依里子(代官山動物病院 東京)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院、神奈川)、櫻井智敬(とも動物病院 神奈川)、侭田和也(JASMINEどうぶつ循環器病センター 神奈川)、二平泰典(クローバー動物病院 東京)、早部裕紀(東京動物医療センター 東京)、赤沼康子(東京動物医療センター 東京)、三井一鬼(ノーバウンダリーズ動物病理 東京)、横井慎仙(関水動物病院 神奈川)、吉田健二(ファミリー動物病院 千葉)、松田岳人(くりの木動物病院 神奈川)、高安聡(麻布大学4年生 神奈川)、岩上慎哉(みかん動物病院 神奈川)、吉川裕稀(相模原どうぶつ医療センター 神奈川)、中島ちひろ(アニマルクリニックこばやし 埼玉)、渡邊建(たてる動物病院 日野)、長谷川英公(相模原どうぶつ医療センター 神奈川)

計27名

最終更新日:2019年2月14日 (城下幸仁)


第1回 犬・猫の呼吸器勉強会

日時:平成30年12月10日(月)19:00−21:00

会場:相模原市立市民・大学交流センター(セミナールーム1) 最寄駅:相模大野駅

内容

開催のごあいさつ  城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

犬・猫の呼吸器臨床研究会発足の経緯と活動方針について説明いたしました。

1 呼吸器総論

犬・猫の呼吸器疾患へのアプローチ1 呼吸器臨床の体系と鑑別疾患リスト

城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

呼吸器疾患を体系的に理解するための基本的な知識について述べた。犬・猫の呼吸器を上気道、中枢気道、末梢気道・肺実質の3区分に分けた。末梢気道・肺実質疾患は、人の呼吸生理学で用いられている肺の模式図を用いて、さらに、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、肺水腫、肺塞栓症、気管支肺炎、誤嚥性肺炎にカテゴリー分類される。上気道疾患、中枢気道疾患、および末梢気道・肺実質疾患の6つのカテゴリーにおいて、その特性、病態、初期治療法について概説し、最後に、鑑別疾患リスト(計83疾患)を提示した。公開動画はこちら。ご意見や質問をコメントください。

2 研究班報告  座長: 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

獣医臨床における 咳のグレーディング評価

谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院)

咳嗽を呈する疾患はアレルギー/炎症、心血管系、感染症、腫瘍、外傷および身体異常にカテゴリー 分類できる。咳嗽は臨床経過(急性あるいは慢性)、咳嗽の性状(湿性、乾性、あるいは痰産生 性)、咳嗽の持続時間(単発性あるいは持続性)、発症契機(飲水、興奮、睡眠時など)および 環境要因(夜間、屋内、季節など)を聴取することで疾患のカテゴリー分類を容易にする。獣医 療において咳嗽を評価した報告はなく、人医療においては咳嗽の重症度は主観的評価法として VAS(Visual Analogue Scales), CSS(Cough Severity Score), CSD(Cough Severity Diary), HRQOL(Health Related Quality Of Life)が用いられ、客観的評価法として咳嗽感受性検査およ び咳モニターが用いられている。今回の報告で獣医療における咳嗽ガイドラインの作成に寄与で きればと思う。公開動画はこちら。ご意見や質問をコメントください。

3 症例報告・臨床研究  座長: 城下幸仁(犬・猫の呼吸器科)

無菌性化膿性肉芽腫により重度気管狭窄を生じた若齢犬の1例

稲葉健一(犬・猫の呼吸器科)

症例はポメラニアン、オス、7か月齢。来院1カ月前からの呼吸困難、胸部異常影、遷延性咳嗽を主訴に来院。初診時は沈鬱状態、呼気性喘鳴様の咳嗽あり。血液検査にて白血球およびCRPの増加あり、動脈血ガス分析にて問題なし。胸部X線・透視検査にて固定性の胸部気管狭窄、右前肺野無気肺あり。気管支鏡検査にて胸部気管の管外性圧迫あり(最狭窄部1mm以下)、気管ブラッシング標本にて細菌培養陰性。気管外腫瘤状病変の管外性圧迫による気管狭窄(化膿性または肉芽腫性病変、好酸球性疾患、リンパ増殖性疾患などを疑う)と暫定診断した。免疫抑制量のステロイド療法を実施するも治療反応乏しく、第14病日に自宅にて死亡した。死後の剖検にて、管外腫瘤は無菌性化膿性肉芽腫と判明した。通常、化膿性肉芽腫はステロイド療法や免疫抑制療法により改善が認められることが多いが、本症例では効果なく、救命のための手段を検討する必要がある。公開動画はこちらです。ご意見や質問をコメントください。

閉会のごあいさつ  城下 幸仁(犬・猫の呼吸器科)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開催状況:

ご多忙の中、会員28名、非会員7名、計35名のご参加がありました。犬・猫の呼吸器臨床研究会になって初めての勉強会でしたが、おかげさまで盛況に終わることができました。

まず、城下から呼吸器診療のゴールとなる83疾患名をあげました。今後、原則的にこれら各疾患リストに従って、鑑別疾患を考えていくシステムとなります。各疾患に対し、問診や身体検査からアプローチする方法を診療基準案として提案いたしますので、会員の皆さんと議論を進めて診療基準を完成していきたいと思います。

次に、兵庫ペット医療センター東灘病院で呼吸器診療を担当している谷口先生から、「咳」のグレーディングについて、咳の機序から文献レビューを行なっていただきました。獣医臨床では咳の程度の評価法や指標は確立していないとのことでした。咳の客観的定量検査は現段階では非現実的なので、問診での評価基準があると有意義と考えられます。

症例報告では、犬・猫の呼吸器科の稲葉先生から、若齢犬の犬の気管狭窄の1例について提示がありました。胸部気管の管外圧迫性狭窄は猫ではよく認められ、リンパ腫であることが多いのですが、この症例ではリンパ腫でなく、無菌性化膿性肉芽腫でした。非常に稀なケースです。臨床経過や発症機序ともいまだ不可解な点が多いのですが、難治性気管狭窄のひとつの鑑別疾患として念頭におくべきと考えられました。

開催後の懇親会でも20名ほどの参加があり、情報交換や親睦を深めることができました。今後、本研究会が、小動物の呼吸器診療の基盤作りに貢献できることを切に願っております。

犬・猫の呼吸器科 城下

参加者(順不同、敬称略):谷口哲也(兵庫ペット医療センター東灘病院 兵庫)、山谷吉樹(日本大学生物資源科学部獣医学科 神奈川)、青木卓磨(麻布大学外科学第一研究室 神奈川)、上田一徳(横浜山手犬猫医療センター 神奈川)、菅沼鉄平(ほさか動物病院 神奈川)、山下智之(上大岡キルシェ動物病院、神奈川)、山中一大(フェンネル動物病院 東京)、福田大介(まるふく動物病院 群馬)、田畑達彦(ダクタリ動物病院東京医療センター、東京)、近藤絵里子(ペット家族動物病院西五反田店、東京)、飯野亮太(いいのペットクリニック、北海道)、中森正也(乙訓どうぶつ病院 京都)、明石依里子(代官山動物病院 東京)、松永典子(ラーク動物病院 大阪)、布川智範(ぬのかわ犬猫病院、神奈川)、山下弘太(ダクタリ動物病院東京医療センター 東京)、櫻井智敬(とも動物病院 神奈川)、侭田和也(JASMINEどうぶつ循環器病センター 神奈川)、中野秀哉(動物病院川越 埼玉)、田中啓之(武井動物病院 東京)、森本望美(相模原どうぶつ医療センター 神奈川)、小川浩子(小川犬猫病院 神奈川)、草場翔央(Sho Animal Clinic 神奈川)、関敬泰(ピジョン動物愛護病院わらび院 埼玉)、海老澤崇史(世田谷通り動物病院 東京)、二平泰典(クローバー動物病院 東京)、早部裕紀(東京動物医療センター 東京)、赤沼康子(東京動物医療センター 東京)、大島綾華(日本大学動物病院 神奈川)、松田有梨(ドルフィンアニマルホスピタル 埼玉)、田中千賀((株)AVS 東京)、三井一鬼(ノーバウンダリーズ動物病理 東京)、合屋征二郎(東京農工大学獣医外科学研究室 東京)、横井慎仙(関水動物病院 神奈川)、池田彬人(第1種放射線取扱主任者、獣医腫瘍科認定医Ⅱ種)

最終更新日:2018年12月14日 (城下幸仁)