受付時間
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火・水・年末年始を除く

診察の流れ

一次検査:麻酔をかけないで行う検査。*は初診時常に行います。

呼吸状態がよくない動物ではなるべく負担をかけずに迅速かつ的確に麻酔をかけずに行う必要があります。20年間にわたる呼吸器専門診療の経験と積み上げた診療データを参照し、無麻酔で行う当院の一次検査の所見でおおよその呼吸器の状態を把握できるようになりました。正確な診断のための不可欠な第一歩です。一次検査後に考えられる病気をあげ、今後の治療方針を説明いたします。

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    問診と身体検査*

    ご愛犬、ご愛猫の呼吸の様子が不安定の場合、来院時にすぐに酸素室にてお預かりいたします。
    その後、診察室にて飼い主様より、これまでの経緯、今までの病歴、現在の症状に関してよくお話を伺います。これを問診といいます。来院前数日間の自宅での1分間の安静時呼吸数睡眠時呼吸数についても伺いますので計数しておいてください。室内および室外環境についても詳しく教えてください。これまでの、咳、いびき、眠っているときの姿勢や呼吸の様子、苦しそうな時の呼吸の症状、の動画を撮っておいてください。診断の重要な手がかりになりますので問診時に拝見します。
    その後、呼吸状態の慎重な視診、聴診、触診を行います。 待合室から診察台までの呼吸の音や咳の様子も重要な診察項目です。呼吸症状に関しては今後の治療反応を評価するためビデオを撮らせていただくことがあります。 この時点で、考えられる病気の方向性についてご説明します。通常、問診と身体検査に要する時間は20〜30分ほどです。

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    血液検査(全血球計算および血液化学) *

    白血球数や貧血の有無や程度、肝臓や腎臓を始めとする腹部臓器の働きを調べ、呼吸器疾患に合併している病気の有無を確認します。
    すでに前の動物病院での検査結果があればそれを参考とさせていただきますが、2週間以上間隔があったり、検査結果がわからなければ行わせていただきます。項目は、白血球数および分画、赤血球数、血小板数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、TP、BUN, Cre, Glu, Alb, GPT/ALT, GOT/AST, ALP, 電解質(Na, K, Cl)です。

    検査項目

    • 白血球数および分画
    • 赤血球数
    • 血小板数
    • ヘモグロビン濃度
    • ヘマトクリット値
    • TP
    • BUN,
    • Cre,
    • Glu
    • Alb
    • GPT/ALT
    • GOT/AST
    • ALP
    • 電解質(Na, K, Cl)
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    CRP測定(犬)*、SAA測定(猫)*

    血液で気道、肺疾患の急性炎症の程度を評価します。犬のCRPの正常値は1.0 mg/dl未満、猫のSAAの正常値は0〜6.0μg/dlです。

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    動脈血ガス分析*

    肺機能を調べます。肺で酸素をどれだけ取り入れ、炭酸ガスを適切に排泄できているかについて正確に定量します。後足の内側から採血します(図1)。様々な呼吸器病の診断に不可欠です。

    図1 | 動脈血ガス分析のサンプル採取。大腿動脈穿刺しています。

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    頭頸部および胸部X線検査*

    頭頸部は特に咽頭気道と頚部気管について閉口時の吸気と呼気の2枚撮影します。胸部は気管・気管支、肺、心臓について主に調べます。側面像を吸気と呼気の2枚、背腹像を1枚撮影します。 以下の図2−6のように合計5枚となります。呼吸器診断をするために最も適切な、撮影ポジション、タイミング(吸気時と呼気時)、電圧やmAsなどの撮影条件を考慮して行います。

    図2 | 頭頸部ラテラル像、閉口時吸気。パグ 4歳 避妊メス。3ヶ月齢時より興奮時ストライダー、大きないびき、喉頭性咳あり。図3-6も同じ症例。

    図3 | 頭頸部ラテラル像、閉口時呼気

    図4 | 胸部ラテラル像、吸気

    図5 | 胸部ラテラル像、呼気

    図6 | 胸部DV像

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    透視検査*

    横臥位にて、気道の動きを弱いX線を当ててビデオ撮影します。
    咽頭気道、喉頭、気管、気管支、肺野の吸気相と呼気相の相間変化をリアルタイムで観察します。さらに透視検査撮影中、呼吸の音をリアルタイムで録音し、動きと音で呼吸の状態を正確に評価します。以下に症例を示します。

    動画 透視1 | 短頭種気道症候群。パグ 4歳 避妊メス。3ヶ月齢時より興奮時ストライダー、大きないびき、喉頭性咳あり(https://youtu.be/OZOywE_v1vw

    動画 透視2 | 原発性気管虚脱。トイ・プードル 5歳 去勢雄。4ヶ月前より興奮時ストライダーあり(https://youtu.be/qtbkfotPmkg

    動画 透視3 | 喉頭蓋の後傾。チワワ 10歳 避妊メス。数年前より散歩時に高調異常呼吸音あり。睡眠呼吸障害なし。電子音は呼気を示す(https://youtu.be/4W6DeeXuPTE

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    循環器評価

    必要に応じ、血圧測定、心臓超音波検査を行います。循環器科サポートスタッフ(関口、菅沼、飯野)が担当します。心臓の病気から呼吸器症状が生じているか、もしくは、呼吸器病が心臓の働きにどのような影響を与えているかを調べます。診断や治療方法を検討する際に重要です。

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    頚部または胸部超音波検査

    頚部や胸腔内に腫瘍などが疑われる場合に行います。喉頭の病気が疑われる場合にも行うことがあります。

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    無麻酔胸部スクリーニングCT検査

    図7 | 無麻酔CT検査。専用のカプセルにいれて実施します。写真は位置決めをしているところです。

    胸部X線検査では十分解析できない肺野の異常影を補う意味で行います。例えば、胸部X線検査にて、胸水があったり、肺野全体にまだら状に影が広がっていたりすると断面での肺の画像評価が必要になります。動物の状態が不安定であり、麻酔をかけられない場合に肺野状態をできるだけ詳しく解析したいときでも行います。小型犬や猫の場合、当院の64列CTなら1-2秒で胸部をスキャンできますので、おとなしい動物ならある程度は評価可能です(図7)。しかし、あくまでスクリーニング目的や胸部X線検査の補助のためですので、正確な診断をするためには全身麻酔下に呼吸を1-2秒間止めて(CT室外で操作しています)撮影する必要があります。詳細は、当院の取り組み-呼吸器のCT検査-無麻酔胸部スクリーニングCT検査、をご参照ください。

二次検査:全身麻酔で行う確定診断のための検査

頭部または胸部CT検査

当院呼吸器科では無麻酔撮影も実施できるよう64例のマルチスライスCT装置を使用しています(図8)。

図8 | 64列マルチスライスCT装置

呼吸器科では、頭部CT検査で主に鼻腔および副鼻腔、咽頭気道を評価します(図9)

図9 | 頭部造影CT検査。鼻腔後部の横断像。
左から、造影前、造影動脈相、同平衡相。鼻腔後部に軟部組織または鼻汁疑う高吸収像があったが(左)、強い造影効果あり、平衡相でも十分造影効果は持続していた。
雑種猫 12歳 避妊雌。6ヶ月前より発作性咳あり、2週間前より鼻汁・くしゃみが増加し鼻閉症状が強く、食欲低下あり。最終診断はB細胞型鼻腔内リンパ腫

胸部CT検査は呼吸器科検査の中では重要な検査で、最終診断のための気管支鏡検査での精査部位を決定するために必ず行います(図10)。 詳細は、当院の取り組み-呼吸器のCT検査、をご参照ください。

図10 | 胸部CT検査と気管支鏡検査の連携。雑種猫 6歳 去勢雄。9ヶ月前より発作性湿性咳とびまん性肺野異常影あり。胸部CT検査にて肺野異常影部分に到達する気管支を同定し(a, b)、気管支鏡検査時にその気管支に鉗子を誘導し(c)、透視ガイド下に経気管支肺生検を行い(d)、正確に肺の生検を実施しています。最終診断は猫のブロンコレア

鼻鏡検査について

鼻腔や咽頭鼻部(鼻咽頭腔)(図11)を内視鏡で観察します。外径3.0-5.0mmの軟性ビデオ内視鏡を口の中から挿入し180°反転して鼻咽頭腔をみたり(図11 P)、外径3.0mm程度の細径軟性ビデオ内視鏡を外鼻孔から直接挿入し(図11 A)、鼻腔内部の直接観察したりしています。病変が見つかれば組織の一部を採取し病理検査します。もし、異物がみつかればそのまま内視鏡で摘出します。
一次検査で、鼻腔および咽頭鼻部(鼻咽頭腔)に異常があると判断されたときに行います。鼻鏡検査に要する時間は鼻腔内の状況により様々で30〜120分ほどです。 詳細は、当院の取り組み-鼻鏡検査、をご参照ください。

図11 |鼻鏡検査。咽頭鼻部(鼻咽頭腔)を内視鏡を口から挿入し反転して観察したり(P: 後部鼻鏡検査)。細い内視鏡を外鼻孔から挿入して鼻腔を観察したり(A: 前部鼻鏡検査)して調べます

鼻鏡検査

喉頭および気管・気管支鏡検査

喉頭、気管、気管支の内部を内視鏡で観察し、病変がみつかれば気管支鏡下でその一部をとり(生検といいます)詳しく調べます。 さらに気管支肺胞洗浄やブラッシングでさらに奥の気管支や肺胞領域の検査を行います。当院では、正確に内視鏡を誘導したり、まれですが気胸などの緊急事態に即対応できたりするように安全のため透視ガイド下に検査を行なっています(図12)。

図12 | 気管支鏡検査室。常に透視ガイド下およびX線撮影可能な状況下で気管支鏡検査を行なっています。

図13 | スコープとキャビネット-軟性ビデオスコープと硬性気管支鏡

内視鏡は外径3.0mm, 4.1mm, 5.4mmの3本があり、1kg未満の超小型犬や猫から体重50kg程度の大型犬でも実施可能です。気道異物摘出用の硬性気管支鏡も準備しています。各スコープは専用のステンレス性キャビネットに衛生的に管理しています(図13)。一次検査で、気管支鏡検査が、診断・治療のために有用かつ安全に実施可能と判断された場合に行います。 1回の正味の検査時間は平均20分位です。

気管支鏡検査

気管支鏡検査は多くの呼吸器疾患の最終診断検査となります。当院呼吸器科では、より安全、確実、迅速に気管支鏡検査を行えるように日々研究を行い、2023.12.31まで1250例実施してきました。下の図14−16は検査および処置例です。詳細は、当院の取り組み-気管支鏡検査、をご参照ください。

図14 | 気管分岐部の隆起病変(左)。雑種猫、11歳、オス、体重3.3kg。2週間前より喘鳴が出現し、失神数回あり。前医CT検査にて気管分岐部ポリープ型腫瘍と診断された。当院呼吸器科にて、気管支鏡下高周波スネア切除し(中央)、気道を開存させ(右)、呼吸状態は著明に改善した。生検にて扁平上皮癌と診断された。

図15 | 気道異物。シェパード、6ヶ月齢、メス、体重25kg。前日にナツメの実を誤飲後、呼吸困難となり意識消失した。気道異物が疑われ呼吸器科に緊急受診。気管支鏡検査にて右主気管支に異物が嵌入していた(左)。キュレットで掻き出し、気管内に移動後、バスケット鉗子で把持して回収した(右)。処置後、呼吸状態は著明に改善した。異物は直径約3.0cmのナツメの実であった。

図16 | 気管支拡張症。アメリカン・コッカースパニエル、9歳、避妊雌。1ヶ月前より湿性咳。気管支鏡検査にて乾酪様塊状物の閉塞を伴った左右肺前葉の気管支拡張症と診断し、7ヶ月で6回に分け内視鏡下に塊状物を除去しその後左右肺前葉切除術にて根治を得た。