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呼吸器のCT検査

獣医呼吸器臨床分野のCT検査について

CT検査は、X線検査では不明瞭な鼻腔や副鼻腔内、心臓周囲や横隔膜の前の肺野などの微細構造を評価できます。頭部および胸部の鮮鋭な画像を描出させるには通常、全身麻酔にて吸気を保持し、呼吸や体動を一定時間止めてスキャンする必要があります1 。近年、多列検出器型ヘリカルCT装置の技術革新にて胸部だけなら数秒で撮影が可能になりましたが、獣医臨床における固有の問題である安静でも呼吸数がある程度速いことや撮影中の体動には依然として十分に対応しきれてはいません。呼吸器疾患動物に安易に全身麻酔を施すこともできないことも、呼吸器診療への適用に障害となっていました。また獣医学領域では、画像データに対し、病理との対比や疾患転帰との関連の臨床研究の記述2,3 がまだ少なく、CT画像だけで正しい画像診断を得ることはまだ困難です。獣医呼吸器臨床におけるCT画像を臨床的に有意義にするためには、鼻鏡検査や気管支鏡検査を組み合わせ、さらに緻密な臨床経過データの積み重ねを必要とします。

当院で実施しているCT検査

1.CT装置

マルチスライス64列CT(日立(現,富士フィルム)全身用X線CT装置 Supria GRANDE FR)のハイスペックCTを2022年3月に導入しました。最小スライス幅0.625mmで高画質で微細構造まで把握できます。猫や小型犬の胸部のみなら一回のスキャン時間は2秒程度で、協力的な動物なら無麻酔でもある程度の撮影は可能です。呼吸器困難の動物では必ずしも全身麻酔で不動化することはできないので、さまざまな状況に対応できる装置を選択しました。同時に検査中の麻酔・呼吸管理装置、造影剤注入装置も備えています(図1)。

図1 | マルチスライス64列Superia Grande FR(富士フイルム社)と麻酔・呼吸管理機器(右)と造影剤注入装置(左)

麻酔モニタはCT室内と操作室で同時観察可能で、操作室でモニタを観察しながら数秒間の息どめができるようになっています。造影剤注入も操作室側でCT操作モニターを観察しながら行います(図2)。

図2 | 操作室。CT室内部監視モニタ(上)、麻酔モニタ監視(右中央)、息止め装置(右下)、造影剤注入操作装置(左)。

これまで20年以上にわたる呼吸器内視鏡診療の経験とこのハイスペックCT装置を組み合わせ、呼吸器の病気の診断の精度をさらに高めています。

2.無麻酔スクリーニング胸部CT検査

呼吸状態がとても不安定、心臓・腎臓・肝臓など多くの合併症を抱えていたり、飼い主様のご都合や要望により、無麻酔で胸部CT検査をおおまかに行います。
以下の図3のように専用のプラスチックケースにいれて行います。

図3 | 専用CTケースにいれて無麻酔スクリーニング胸部CT検査を実施しているところ。呼吸が不安定な動物の場合はケース内にチューブを接続し酸素を持続的投与します。

どうしても動物の姿勢や動きの影響を受けてしまうので、造影検査も実施できず、あくまでスクリーニング検査であり、この検査で確定診断はできませんので、十分ご理解が必要です。
この検査の実施条件は、

  • 猫、あるいは体重8.0以下の小型犬
  • ケース内であまり動かず検査に協力的な動物
  • 検査対象が胸部であること。頭頚部は無麻酔CT検査は困難です。

ただし、一次検査にて、軽い鎮静が可能と考えられた場合に限り、鎮静剤投与にて頭頚部の無麻酔CT検査が可能です。

3.胸部CT検査

主に肺・気管支やその他胸郭の中の問題を調べます(図4)。

図4 |胸部CT検査の実施例。雑種犬 9歳 避妊雌。CTにてRB4V2の気管支の区域に網状影あり。気管支鏡検査にてRB4V2にて気管支肺胞洗浄を実施し、洗浄液からStaphylococcus pseudintermediusとBordetella bronchisepticaを分離同定し、下気道感染症による急性/遷延性気管気管支炎と診断した。

全身麻酔下に呼吸の動きを調整して行います。麻酔中は気管チューブを挿管し、一次検査で把握した肺の状況に応じて酸素濃度を40−80%の間に調整、人工呼吸器で気道内圧を5〜15hPaに設定して、安全性を保持して実施します。肺の病気によって高い酸素濃度を吸入させると危険なことがあり、その場合は全身麻酔時には酸素濃度を40%程度に下げて維持する必要があります。人の場合と同じように、CTスキャン時の時だけ息を大きく吸ったところで息どめをしています。息どめの時間は、動物の体の大きさによりますが、1-5秒ほどです。また息をはいて呼吸が一瞬静止したタイミングでも撮影を行います。これは肺が吸気と呼気で正常な差があるどうかを確認します。例えば、肺気腫などではこの差があまりありません。正常なら明らかに吸気と呼気で画像が異なります。また、胸部の中の血管状態やリンパ節の大きさを評価するために造影も行います。肺の状態に合わせて酸素濃度や呼吸の動きの調整を行えるので、無麻酔で行うCT検査よりむしろ安全に行えるかもしれません。また、無麻酔で行う胸部CT検査では吸気、呼気時の差を確認できず、造影検査もできません。 1回の検査で以下4度のスキャンを行います。

  • 単純(造影なし)吸気時
  • 単純(造影なし)呼気時
  • 造影吸気時、動脈相(造影剤注入後約20秒)
  • 造影吸気時、平衡相(造影剤注入後約120秒)

4.頭部CT検査

主に鼻腔、咽頭鼻部、喉頭周辺の問題を調べます(図5)。
全身麻酔下に呼吸の動きを調整して行います。麻酔中は気管チューブを挿管し、一次検査で把握した肺の状況に応じて酸素濃度を40〜80%の間に調整、人工呼吸器で気道内圧を5〜15hPaに設定して、安全性を保持して実施します。胸部CT検査とは違う撮影条件となりますので、頭部CT検査と胸部CT検査を同時に行う場合は別に行います。頭部CT検査では、1回の検査で以下3度のスキャンを行います。

  • 単純(造影なし)
  • 造影、動脈相(造影剤注入後約20秒)
  • 造影、平衡相(造影剤注入後約120秒)

図5 | 頭部CT検査の実施例。柴犬 5歳 去勢雄。2ヶ月前より逆くしゃみ、粘液膿性鼻汁、鼻出血あり。スターターなし。
左:矢状断像、右:矢状断の点線部分の横断像。右鼻腔内に占拠病変あり造影効果がみとめられた。鼻鏡検査および口蓋からのFNAにて鼻腔内腫瘍(腺癌)と診断された。

5.画像診断

2段階の画像診断を行います。まず、CT検査当日、迅速診断は、当院呼吸器科の城下が行います。迅速診断は、同日引き続き全身麻酔下で行う内視鏡検査に必要な情報を把握します。例えば、肺のどの部分の観察が必要で、かつどの部位でブラッシングや生検や気管支肺胞洗浄を行えば、余計な侵襲なくピンポイントで診断できるかを把握します。詳細な画像診断は、その検査結果も踏まえ画像診断医*に依頼し約7-10日後に報告書が得られます。後者の診断は、肺野全体の評価、血管の状態、リンパ節評価などになります。この2段階画像診断にて、肺や鼻腔内の詳しい診断を得ています。

*画像診断医紹介

池田彬人先生

(公財) 日本小動物医療センター(JSAMC)画像診断科、東京大学附属動物医療センター画像診断部に所属。小動物CT研究会代表。

参考文献

  • Saunders HM, Keith D. Thoracic Imaging. In: King LG, ed. Textbook of Respiratory Disease in Dogs and Cats. St.Louis: SAUNDERS; 2004:72-93.
  • Groskin SA. Pattern recognition in pulmonary radiology. St Louis, MO: Mosby-Year Book, Inc.; 1993;70-105.
  • 河端美則, 清水禎彦, 晢 叶. 病理像+X線・CTで一目でわかる! 臨床医が知っておきたい呼吸器病理ん見かたのコツ. 東京: 羊土社; 2015.