気管支鏡検査一覧

症例620

サワイコロエ170316-喉頭鏡検査-喉頭虚脱ステージ3

症例620動画】 ころえちゃん。パグ メス 6歳、体重5.98kg。飼主様のご希望で当院呼吸器科を受診されました。2歳齢時より大きないびきや睡眠時無呼吸が毎日あり、運動後や興奮や緊張時に重度な喘鳴があり、数ヶ月前から特に目立つようになってきたとのことでした。最終診断は、喉頭虚脱ステージ3。

 

 

 

経過詳細

患者名:ころえ

プロフィール:パグ、6歳、メス

主訴:運動時に吸気性ストライダー、大きないびき、睡眠時無呼吸

 

初診日:2017年3月6日

気管支鏡および鼻鏡検査日:2017年3月16日

手術日:2017年3月16日(気管切開、外鼻孔狭窄整復術、軟口蓋過長整復術、喉頭小嚢切除術)

退院日:2017年3月23日

診断:喉頭虚脱ステージ3、短頭種気道症候群代償不全期、慢性鼻咽頭炎

除外された疾患:気管虚脱、鼻腔狭窄、ラトケ囊胞

既往歴:慢性外耳炎

来院経緯:2歳齢時より大きないびきや睡眠時無呼吸が毎日あり、運動後や興奮や緊張時に重度な喘鳴があり、数ヶ月前から特に目立つようになってきた。精査加療希望のため呼吸器科受診。

問診:いびきの大きさは若齢時とほぼ変わらず(グレード*3/5)、睡眠時無呼吸は入眠時に多い。運動不耐性の飼い主の主観評価*はⅣ。場所が変わるとすぐに吸気性ストライダーあり。散歩であまり歩かず。食欲あり。同居犬なし、完全室内飼育、定期予防実施。運動不耐性の飼い主の主観評価*はⅣ/Ⅴ。

身体検査:体重5.98kg(BCS3/5)、体温:39.0℃、心拍数:184/分、呼吸数:120/分。診察台上で開口せずに著明な吸気性ストライダーあり(図症例1-01)。時折両相性ストライダーも認められた。安静時でも呼吸数は44/分。外鼻孔狭窄あり。聴診音にて、咽喉頭に強い両相性高調連続音あり。

CBCおよび血液化学検査:異常なし、CRP0.25mg/dl

動脈血ガス分析:pH7.37、Pco2 35mmHg, Po2 78mmHg, [HCO3-] 19.8mmol/L, Base Excess -4.3mmol/L, AaDo2 29 mmHg。軽度の低酸素血症、有意でないAaDo2の開大

頭部/胸部X線および透視検査:頭部にて、喉頭腹側に遊動性腫瘤状陰影あり、呼気時咽頭閉塞(図症例1-02)、透視検査で喉頭の著明な前後運動、喉頭後退とストライダーが同期。胸部にて肺野異常影なし。

評価および飼い主へのインフォーメーション:短頭種気道症候群代償不全期。喉頭虚脱ステージ3に至っている可能性がある。上述のとおり、周術期上気道閉塞事故発生のリスクは非常に高く、外科療法の術式には永久気管開口術が適応となる。しかし、X線検査にて咽頭気道は呼吸相通じてある程度確保されていたこと、血液ガス分析より高二酸化炭素血症が認められなかったこと、喉頭内に大きな反転喉頭小嚢が明らかにみとめられこの部分は切除可能なこと、を考慮すると、チャレンジだが、まず、一時的気管切開下にて外鼻腔狭窄整復術、軟口蓋過長整復術、喉頭小嚢切除術を行い、術後気管切開チューブ設置にて慎重に術後管理してみる価値はある。したがって、予後は不明であり、術後7日経過しても気管切開チューブが抜去できない状況なら、周術期内に永久気管開口術を実施する。しかし、同程度の喉頭虚脱ステージ3と診断したパグ5歳に、永久気管切開術を回避し上気道整復術にて上気道症状を改善できた例がある。

飼い主の選択

手術リスクと、永久気管切開術適応であるが上気道整復術を試行する余地があることは理解した。提言のとおり進めてみてほしい。現状より少しでも改善する方法があればチャレンジしてほしい。

二次検査

Ⅰ 喉頭鏡検査

1) 肉眼所見: 喉頭の発赤(-), 腫脹(+3), 虚脱(+3), 痙攣(-), 披裂外転(+1), 結節病変(-), 閉塞(+1)、粘液付着(-)。喉頭虚脱ステージ3と診断された。

Ⅱ 喉頭および気管気管支鏡検査

1) 肉眼所見:

喉頭 発赤(+), 腫脹(+3), 虚脱(+3), 痙攣(-), 披裂外転(+1), 結節病変(-), 閉塞(+2)、粘液付着(-)。喉頭虚脱ステージ3と診断された。

気管気管支樹

① 粘膜の変化:異常なし

② 壁構造の変化:左主気管支の狭窄

③ 管内要因:異常なし

④ 管外要因:異常なし

2) 気管支ブラッシング:実施せず

3) 気管支肺胞洗浄液解析(BALF解析):実施せず

二次検査評価:喉頭虚脱ステージ3 。鼻咽頭内に慢性炎症性ポリープ状病変あり。

 

一時的気管切開

内視鏡検査後、第2-第3気管軟骨輪間を切開し、らせん入り気管チューブ ID4.5mmを術中挿管。術後は気管切開チューブ複管外径6.0mmを設置。

上気道整復術

まず気管切開下、仰臥位にて外鼻孔狭窄整復術、次にさらに開口保定とし、咽喉頭外科手術用の長い器具を用い軟口蓋過長整復術、喉頭小嚢切除術を順に実施した。

 

麻酔管理概要:

前処置 ABPC20mg/kg+アトロピン0.05mg/kg SC

鎮静 ミダゾラム0.2mg/kg+ブトルファノール0.2mg/kg IV

導入 プロポフォール IV to effect (<5mg/kg)

維持 フォーレン0.5-1.0%、プロポフォール持続投与0.2-0.4mg/kg/min

気管支鏡検査中はラリンゲルマスク#1.5にて気道確保にて自発呼吸、それ以外は気管チューブID4.5mm、術中挿管はらせん入り気管チューブID4.5mm, 術後の気管切開チューブ複管外径6.0mm使用。

気管内挿管11:11、抜管16:38

 

全体評価

最終診断は喉頭虚脱ステージ3

 

予後

喉頭虚脱ステージ3が確認され、予後要注意(Guarded prognosis)です。術後3日以内に閉塞試験で問題なく気管切開チューブが抜去できれば永久気管切開術を回避できたと判断します。

経過

抜管後は、上気道症状なく静かに睡眠可であった。

術翌日覚醒状態良好であり、気管切開管理を続けたが閉塞試験も問題なく、術後27時間後に気管切開チューブを抜去した。吸気努力はみられるが、吸気性ストライダーを示さなかった。3月23日(術後1週間)に退院。バイトリル錠50mg 1日1回1錠14日分を処方。ネブライザー療法(生食20ml+ゲンタマイシン0.5ml+ボスミン外用液0.5ml+ビソルボン吸入液0.5ml/回、在宅にて1日2回)を指示。

4月3日(術後18日)に抜糸。いびき減少(3/5→1/5)、睡眠時無呼吸なし、散歩時ストライダーはほとんど改善(4/5)、横臥睡眠可/寝場所移動なし。よく鳴くようになり、活発に動くようになった。ベッドの上り下りも以前より多くできるようになった。退院時にくしゃみが多かったが、次第に改善してきた。診察台上でストライダーは減少した。

4月20日(術後約1ヵ月)、散歩でよく歩いても吸気性ストライダーなく、過度の興奮や緊張さえなければストライダーは生じなくなった。睡眠時無呼吸は認められなくなり、熟睡できるようになった。飼主の初期症状改善度評価は4/5(ほぼ改善)であった。頭部X線検査にて喉頭の前後運動が術前同様に認められたが、咽頭が十分開存し(図症例1-11)、同期するストライダーの音が減少した。在宅ネブライザー療法(生食20ml+ボスミン外用液0.5ml+ビソルボン吸入液0.5ml/回、1日2回)は終生実施を指示した。