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鼻鏡・喉頭鏡検査

症例161105

161105-左鼻腔より摘出した異物症例161105動画】 さくらちゃん。ボストンテリア メス 9歳、体重5.44kg。豪徳寺なみき動物診療所(東京都)より診療依頼を受けました。1年前より鼻汁、くしゃみがあり、5ヶ月前よりさらに執拗になった。鼻出血もあった。内科療法に反応しない。8月に頭部CT検査にて両側鼻腔内に炎症性肥厚病変が確認されたが、腫瘍性病変も否定できないとのことであった。精査希望のため呼吸器科受診。最終診断は、鼻腔内異物。

 

 

経過詳細

患者名:さくら

プロフィール:ボストンテリア、9歳、避妊メス

主訴:慢性くしゃみ、慢性鼻汁

 

初診日:2016年11月5日

鼻鏡検査日:2016年11月5日

診断:鼻腔内異物

合併疾患:短頭種気道症候群

除外された疾患:鼻腔内腫瘍、細菌性鼻炎、リンパ形質細胞性鼻炎

 

既往歴:1歳齢時に胃内異物(1円玉、内視鏡下摘出)。皮膚のかゆみ

来院経緯:1年前より鼻汁、くしゃみがあり、5ヶ月前よりさらに執拗になった。鼻出血もあった。内科療法に反応しない。8月に頭部CT検査にて両側鼻腔内に炎症性肥厚病変が確認されたが、腫瘍性病変も否定できないとのことであった。精査希望のため呼吸器科受診。

問診:3ヶ月齢時より大きないびきあり(グレード3/5)。睡眠時無呼吸なし、横臥睡眠可能、寝起き良好。

ストライダーなし。しかし、以前より散歩時に一過性に窒息様になり立ち止まることあり。嗄声なし。飲水後ムセあり。咳なし。暑いところを好むがすぐにクールダウンの姿勢になる。最近数日間、夜間苦しそうに鼻つまり症状を示し、開口し断眠がすることがよくある。8月以来、内科療法は一切行っていない。同居犬なし、完全室内飼育、定期予防実施。運動不耐性の飼い主の主観評価*Ⅰ。

身体検査:体重5.44kg(BCS3/5)、T:38.7℃、P:96/分、R:24/分。努力呼吸なし。顎下軟部組織過剰。咽喉頭音にて両相性高調連続音あり。斜視あり。

CBCおよび血液化学検査:異常なし、CRP2.20mg/dl

動脈血ガス分析:pH7.43、Pco2 41mmHg, Po2 87mmHg, [HCO3-] 26.8mmol/L, Base Excess 2.7mmol/L, AaDo2 14mmHg。軽度の高炭酸ガス血症および代償性代謝性アルカローシス

凝固系検査:PT7.7秒(参照値-犬、6.8-11.6秒)、APTT<15秒(参照値-犬、9.7-17.6秒)

頭部/胸部X線および透視検査:頭部にて軟口蓋過長・肥厚による構造的咽頭閉塞および吸気時動的咽頭虚脱。胸部にて問題なし。

評価:少なくとも5ヶ月以上も執拗なくしゃみが続くことは異常です。リンパ形質細胞性鼻炎が疑われますが、内科療法に反応不良とのことから鼻腔内腫瘍や鼻腔内異物の可能性もあります。鼻鏡検査が必要となりますが、同時に短頭種気道症候群による構造的咽頭閉塞も著明であり、鼻処置後の咽頭閉塞が気がかりです。犬の咽頭閉塞の周術期リスク評価では4/11項目該当し、すでに術後窒息リスクがあるので、鼻鏡検査後、一時的気管切開術を行っておいた方がよいと思います。そうすれば、術後の苦しさはありません。また、鼻鏡検査は犬の鼻にかなり負担がかかり症状が一時的に悪化することさえあります。検査は、確定診断と治療方針決定および正確な予後を知る上で不可欠ですが、検査後のネブライザー療法によるケアも1-2週間は行っていただきたいと思います。現在、肺機能は十分に維持されており、気管切開自体は適用可能です。

 

飼い主の選択

麻酔の危険性とその回避法と検査後ケアの必要性は理解した。長期間鼻症状が続き、確定診断を希望するので適切な周術期管理も含めて鼻鏡検査を実施してほしい。

二次検査

Ⅰ 喉頭鏡検査

1) 肉眼所見: 喉頭の発赤(+), 腫脹(-), 虚脱(-), 痙攣(-), 披裂外転(+), 結節病変(-), 閉塞(-)、軟口蓋過長(++)

Ⅱ 後部鼻鏡検査

1) 肉眼所見:ラトケ囊胞(-)。後鼻孔周囲粘膜は著しく発赤腫脹し後鼻孔自体をみることはできなかった。8Frカテーテル疎通試験は問題なく、異物は確認されなかった。

Ⅲ 前部鼻鏡検査

1) 肉眼所見:左鼻腔内にて後鼻孔やや吻側に黒く凹凸不整を示した部分あり、枯葉の破片(20mmX5mm)であることが判明した。その他周囲の粘膜は凹凸不整かつ易出血性であった。右鼻腔内にも種子の破片(5mm大)が見つかった。

2) 鼻腔ブラッシング:右鼻腔内の異物周辺を擦過した。細胞診にて、細胞診にて上皮細胞(++) 好酸球(-)、リンパ球(-)、好中球(-)、マクロファージ(++)。腫瘍細胞(-)。微生物検査にて起炎菌分離されず。

3) 鼻粘膜生検:慢性特発性鼻炎や腫瘍との鑑別のため、左鼻腔異物周辺の粘膜の生検を行った。病理組織検査にて非特異的慢性炎症所見のみで、悪性所見なし。

二次検査評価:鼻腔内異物が長期間存在していたと考えられます。感染、腫瘍性病変、特異的慢性炎症性病変は合併しておりませんでした。

 

鼻腔内異物内視鏡下摘出

1.2mm生検鉗子を用いて慎重に把持、牽引し左右鼻腔内異物を回収した。

 

一時的気管切開

術後、外径6mmの気管切開チューブを設置した。

麻酔管理概要:

前処置 ABPC20mg/kg+アトロピン0.05mg/kg SC

鎮静 ミダゾラム0.2mg/kg+ブトルファノール0.2mg/kg IV

導入 プロポフォール IV to effect (<5mg/kg)

維持 フォーレン0.5-1.5%、プロポフォール持続投与0.2-0.4mg/kg/min、

気管支鏡検査中はラリンゲルマスク#1.5にて気道確保にて自発呼吸、それ以外は気管チューブID4.0mm使用。

鼻鏡検査15:23−16:53、陽圧換気15:27−17:08、抜管17:55

 

全体評価

鼻腔内異物でした。長期間異物が鼻腔内に滞留していたことが推察され、それに応じ周囲の粘膜の発赤腫脹が著しく、異物摘出後も長期のネブライザー療法での支持療法が必要です。

 

予後

異物は完全に取り除けたので予後良好と考えられます。

 

推奨される治療法

1) ネブライザー療法。

生理食塩液20ml+ボスミン外用液0.5ml+ビソルボン吸入液0.5ml+ゲンタマイシン0.5ml

在宅で行う場合、1日2回、2-3週間継続する。

 

経過

術後翌日、気管切開チューブ抜去可能。術後2日目、状態良好のため退院。自宅にて上記ネブライザー療法を実施することになった。