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短頭種気道症候群 ●

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(現在、書きかけ中)

英名表記:Brachycephalic Airway Syndrome

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短頭種気道閉塞症候群、睡眠呼吸障害、睡眠時無呼吸

Brachycephalic obstructive airway syndrome, sleep-disordered breathing, sleep apnea

病態と定義

短頭犬種における外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管形成不全、鼻道の解剖学的構造などにより、スターター、ストライダー、いびき、努力呼吸、失神、睡眠呼吸障害などの上気道閉塞を示す症候群である1,2。持続的な気道抵抗が喉頭虚脱や喉頭小嚢反転などの二次的な変化を引き起こす。非短頭種に比べ咽頭気道が著しく狭くなっており(図1)、暑熱環境にてすぐに開口呼吸し、また呼気による効率的な熱放散ができないため熱中症に陥りやすい3。長期間上気道閉塞が持続すると、覚醒時でも低酸素血症、高炭酸ガス血症の進行、睡眠時無呼吸を呈するようになる1。これらは喉頭虚脱の重症化2,3、咽頭気道への軟部組織増加1、咽頭拡張筋群(胸骨舌骨筋やオトガイ舌筋など)の経年負荷による代償破綻1などが原因と考えられている。修復可能な時期に早期の治療介入が望まれる2

 

図1 短頭種(フレンチブル)は非短頭種(シベリアンハスキー)に比べ、咽頭気道が狭い。

<ブルドッグの睡眠時無呼吸の自然経過1

〜2週齢 睡眠時無呼吸なし
6〜12週齢 覚醒時も睡眠時も無呼吸症状あり
16週〜4歳齢 REM睡眠時のみに無呼吸症状あり
4 歳齢〜 運動不耐性や失神などの代償不全兆候あり
6〜7歳齢 non-REM睡眠時に低酸素血症、呼吸/循環不全あり
8歳齢〜 突然死の自然発症あり

 

原因と発症傾向

イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチブル・ドッグ、パグ、ボストン・テリア、ペキニーズ、ボクサーなどが主な対象犬種とする短頭犬種の先天的な解剖学的異常とそれに伴う二次的変化による。

臨床徴候

上記の短頭犬種において外鼻孔狭窄(図2)、軟口蓋過長、気管形成不全、鼻道の解剖学的構造などにより、低調スターター(動画1)や緊張や興奮時に耳障りな荒々しい音を伴うストライダー(動画2)を示す。暑熱環境や興奮で頻呼吸やチアノーゼを生じやすい。大きないびきなどの睡眠呼吸障害(動画3)もよく伴い、病状が悪化すると運動不耐性、努力呼吸、失神などの重度な上気道閉塞症状を示す。軟口蓋過長は短頭犬種全体の62-100%、同様に、外鼻孔狭窄は17-77%、喉頭小嚢外転は58.9%、喉頭虚脱は53%で認められたと報告されている2,4,5

図2 外鼻孔狭窄。外鼻孔がL(エル)字型であれば狭窄あり、’(コンマ)型であれば狭窄なし

 

動画1 低調スターター。フレンチブル、5歳。閉口しながら「ズーズー」といっている

動画2 ストライダー。パグ、7歳。開口しながら「ガーガー」いっている

動画3 睡眠呼吸障害。ブルドッグ、7ヶ月齢。胸郭は動くが上気道は閉塞しており音がなく、閉塞性無呼吸を呈している。それを代償するためスターターを伴い大きな呼吸をしている

血液検査

非短頭種に比べPCVが高値となることがある6

動脈血ガス分析

非短頭種に比べ酸素分圧は低く、炭酸ガス分圧は高い6。また、高齢になるほど炭酸ガス分圧は高くなる傾向がある1

画像検査所見

X線検査

頭頸部X線検査にて軟口蓋過長/肥厚を認める(図3)。透視検査では吸気時に咽頭閉塞が生じ、咽喉頭が接着しスターターやストライダーが生じることが明瞭に分かる(動画4)。胸部X線検査では気管形成不全を認める(図4)。

図3 軟口蓋過長/肥厚。短頭種気道症候群を示したブルドッグ、1歳の頭頸部X線検査所見(左)。枠部分を模式化して右に表示。正常犬では軟口蓋(黄色)は薄く咽頭気道は広いが、短頭種気道症候群では軟口蓋が肥厚し、喉頭蓋の背側から喉頭口に向けて伸びている

 

動画4 透視検査所見。吸気時に咽喉頭周辺組織が接着しスターターやストライダーが生じることがわかる

 

図4 左は気管形成不全のため呼吸困難を呈した4カ月齢のイングリッシュ・ブルドッグの頭頸部X線検査所見。右は同腹同年齢で呼吸症状を示さないイングリッシュ・ブルドッグの頭頸部X線検査所見。症状がある方では気管全体が、症状がない方より気管径が小さいことがわかる

CT検査

非短頭種によりも有意に軟口蓋が厚い7。また、鼻甲介異常が認められることが多い8,9

内視鏡検査

鼻鏡検査にて鼻甲介軟骨が密集したり、異常鼻甲介が認められる8(図5)。進行例では、喉頭鏡検査で著明な喉頭虚脱が認められるようになる(U25 喉頭虚脱参照)3

図5 左は異常鼻甲介(黄色矢印)をみとめたボストンテリア、メス、1歳の前部鼻鏡検査所見。右は同犬の術後所見。

診断

1)短頭犬種においてスターター、ストライダー、いびき、努力呼吸、睡眠呼吸障害などの上気道閉塞症状を認める

2)視診にて外鼻孔狭窄やX線検査や透視検査にて軟口蓋過長/肥厚、咽頭閉塞を認める

3)鼻鏡、喉頭鏡検査にて鼻腔の解剖学的異常、喉頭小嚢外転、喉頭虚脱を確認し、その他の上気道閉塞疾患(腫瘍性疾患など)を除外する

診断のレベルは、確定(Definite): 1)〜3)全てを満たす、疑い(Probable):1)と2)を満たす、可能性あり(Possible):1)のみ

治療

(1)初期対処

急性で持続する上気道閉塞を呈する症例に対しては酸素療法(酸素濃度25-30%)、徹底的なクーリング、必要に応じて抗炎症量のステロイド投与(プレドニゾロン1.0mg/kg SC)を実施する。上記治療を実施しても改善しない場合には気管挿管の準備をしておく。

(2)内科療法

セロトニン再取り込み阻害薬:睡眠呼吸障害を呈し外科リスクが非常に高い症例や外科手術までの状態改善を目的として、ミルナシプラン(トレドミン)1-2mg/kg  1日1-2回 PO、オンダンセトロン1-2mg/kg IVまたはIM 3

(3)外科療法

外鼻孔狭窄に対しては外鼻孔狭窄整復術(図6)、軟口蓋過長/肥厚に対しては軟口蓋整復術(図7)、喉頭小嚢外転に対しては喉頭小嚢切除術を実施する(図8)。

図6 外鼻孔狭窄整復術 の術前(左)および術後(右)所見。上が腹側、下が背側。

 

図7 軟口蓋過長整復術の術前(左)および術後(右)所見。上が腹側、下が背側。

 

図8 喉頭小嚢切除術の術前(左)および術後(右)所見。上が腹側、下が背側。

 

予後

外科療法にて89.1-94.2%の症例で改善が認められ予後良好(good)である5,10。外鼻孔狭窄整復術+軟口蓋整復術を実施した72頭の術後経過は良好で、88.5%の飼い主が改善したと回答した11。しかし、外鼻孔狭窄整復術+軟口蓋整復術を実施した96%で改善が認められたが、喉頭小嚢切除術+軟口蓋切除術では69%の改善であったとする報告や1、喉頭小嚢切除術を実施しなかった術後合併症は20.5%、喉頭小嚢切除術を実施した48.6%で術後合併症が認められたとする報告があり12、喉頭小嚢外転を認める場合には術後経過に注意が必要である。また外鼻孔狭窄整復術、軟口蓋整復術、喉頭小嚢切除術で改善しなかった重度喉頭虚脱に対する永久気管切開術でも良好な予後が得られた13

未解決の問題、特記事項

短頭種気道症候群に対し安易に鎮静・麻酔をかけてしまうと周術期に上気道閉塞による窒息事故が生じる可能性がある。術前の咽頭構造の把握や咽頭拡張筋群の代償能を推測することが重要である。現在、短頭種気道症候群の重症度や術後成果を客観的に評価する方法は統一されておらず、定量化できる指標の確立が期待される。

引用文献

  1. Hendricks JC. Brachycephalic Airway Syndrome In: King LG, ed. Textbook of Respiratory Diseases in Dogs and Cats. Philadelphia: Elsevier SAUNDERS, 2004;310-318.
  2. Meola SD. Brachycephalic airway syndrome. Top Companion Anim Med2013;28:91-96.
  3. 城下幸仁. 犬・猫の呼吸器科 第5回 上気道閉塞性疾患① 短頭種気道症候群. Info Vets2011;150:48-55.
  4. Fasanella FJ, Shivley JM, Wardlaw JL, et al. Brachycephalic airway obstructive syndrome in dogs: 90 cases (1991-2008). J Am Vet Med Assoc2010;237:1048-1051.
  5. Torrez CV, Hunt GB. Results of surgical correction of abnormalities associated with brachycephalic airway obstruction syndrome in dogs in Australia. Journal of Small Animal Practice2006;47:150-154.
  6. Hoareau GL, Jourdan G, Mellema M, et al. Evaluation of arterial blood gases and arterial blood pressures in brachycephalic dogs. J Vet Intern Med2012;26:897-904.
  7. Grand JG, Bureau S. Structural characteristics of the soft palate and meatus nasopharyngeus in brachycephalic and non-brachycephalic dogs analysed by CT. J Small Anim Pract2011;52:232-239.
  8. Oechtering GU, Pohl S, Schlueter C, et al. A Novel Approach to Brachycephalic Syndrome. 1. Evaluation of Anatomical Intranasal Airway Obstruction. Vet Surg2016;45:165-172.
  9. Vilaplana Grosso F, Haar GT, Boroffka SA. Gender, Weight, and Age Effects on Prevalence of Caudal Aberrant Nasal Turbinates in Clinically Healthy English Bulldogs: A Computed Tomographic Study and Classification. Vet Radiol Ultrasound2015;56:486-493.
  10. Riecks TW, Birchard SJ, Stephens JA. Surgical correction of brachycephalic syndrome in dogs: 62 cases (1991-2004). J Am Vet Med Assoc2007;230:1324-1328.
  11. Haimel G, Dupre G. Brachycephalic airway syndrome: a comparative study between pugs and French bulldogs. J Small Anim Pract2015;56:714-719.
  12. Hughes JR, Kaye BM, Beswick AR, et al. Complications following laryngeal sacculectomy in brachycephalic dogs. J Small Anim Pract2018;59:16-21.
  13. Gobbetti M, Romussi S, Buracco P, et al. Long-term outcome of permanent tracheostomy in 15 dogs with severe laryngeal collapse secondary to brachycephalic airway obstructive syndrome. Vet Surg2018;47:648-653.

(犬・猫の呼吸器臨床研究会 犬・猫の呼吸器科 稲葉健一)

当院呼吸器科の見解と処置

臨床徴候と検査所見
  1. パグ、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、ペキニーズ、狆、ボクサーに生じる慢性進行性上気道閉塞疾患
  2. いびき、スターター、興奮時や暑熱環境にてすぐにストライダーおよびチアノーゼなどの様々な上気道閉塞症状がみられる
  3. 外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、喉頭小嚢外転、気管低形成および鼻道の解剖学的異常がある
当院呼吸器科診断基準
  1. 上記臨床所見を示す。
  2. 当院では、咽頭虚脱を生じた場合は短頭種気道症候群代償不全期、重度喉頭虚脱を生じた場合は喉頭虚脱と分類し、これら所見を示さない場合を短頭種気道症候群に分類している。

短頭種気道症候群の詳細について

症例

確定診断症例数 62例 (-150820)

症例① パグ メス 7歳

症例② 重度の喘鳴症状と頻回のチアノーゼを示したフレンチブルに軟口蓋切除術を実施し著明な改善を得た1例

症例③ 誤嚥性肺炎を繰り返す若齢イングリッシュブルドッグに軟口蓋切除術と喉頭小嚢切除術を実施し良好な経過を示した1例

症例④ フレンチブルドッグ オス 3歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例483

症例⑤ フレンチブルドッグ オス 10ヶ月齢 (気管支鏡検査アーカイブ 症例436

症例⑥ ブルドッグ オス 8ヶ月齢 (喉頭および気管気管支鏡検査アーカイブ 症例603