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気管または気管支腫瘍 ●

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(現在、書きかけ中)

英名表記:Tumors of the trachea and bronchi

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気管腫瘍、中枢気道閉塞

Tracheal tumor, bronchial tumor, interventional bronchoscopy, large airway, central airway

病態

気管・気管支壁内に隆起したり、または壁外悪性腫瘍が気道内に浸潤したりした腫瘍のことをいう。管外性腫瘍が気道を圧迫する可能性があるがそれは含まない。限局的であったり、気道に広範に広がっている場合がある。犬や猫の気管原発性腫瘍はまれで、報告は散発的であり12、発症率、腫瘍のタイプ、臨床徴候、診断方法、治療、予後などはよく分かっていない。人の原発性気管腫瘍では、発症率は10万人に0.1人3、90%は悪性と言われている4,5。気管腫瘍は非特異徴候が先行し、病後期に至り急に致命的な気道閉塞を症状を呈する4。気管断面が85%以上閉塞すると呼吸困難が生じ始める6ので、早期発見と適切な診断処置が救命に不可欠となる。

原因と発症傾向

気管の壁内や隣接する組織が腫瘍起源となるので、様々な上皮系や中胚葉系腫瘍が認められる2。頸部気管に軟骨腫や軟骨肉腫が報告され7、アラスカンマラミュートやシベリアンハスキーで好発傾向がある7。猫で気管腺癌がときどき認められる2。若齢犬における気管骨軟骨腫は症候群としてほぼ確立しており、これら軟骨腫瘍は気管軟骨輪の異形成を示すようである8。その他、良性気管腫瘍にはオンコサイトーマや平滑筋腫が報告されている1。悪性気管腫瘍にはリンパ肉腫や扁平上皮癌がよく認められ、ついで、骨肉腫、肥満細胞腫、漿液粘液性腫瘍の報告がある1。多くの腫瘍は中〜高齢で生じ1、気管腫瘍の発症年齢中央値は犬猫とも10歳で、犬は5〜14歳、猫は7〜15歳であった1。ただし、横紋筋腫は若齢(1歳未満)で生じた1

気管支原発腫瘍の報告は犬や猫では皆無に等しい。9歳、避妊済メスの雑種猫で気管支原性の腺癌が気管分岐部に達し気道を閉塞した自験例がある9(図1)。良性腫瘍では人では気管支炎症性ポリープがよく報告されているが10、犬でも疑われる報告ある11

図1 雑種猫、9歳、メス。左主気管支にて膜性壁と対側に基部をもつ長径30mmの結節状の腺癌が気道を閉塞し、一部左前葉気管支に侵入していた。左肺後葉内は黄白色の粘稠分泌物で満たされ、暗赤色腫大硬結し、その肺胸膜面には小さな裂開部を多数伴った線維化性胸膜肥厚がみられた。粘稠分泌物は無菌で、変性した肺胞マクロファージを多く含んでいた。閉塞性肺炎の像を呈していた。肺門リンパ節は腫大していた。この症例は気管分岐部に突出した腫瘍先端部を気管支鏡下にスネアワイヤーにて切除し(上の鉗子の先端の下)、右気管支側を開通させ救命する処置を7ヶ月間続けた。

臨床徴候

腫瘍の大きさと位置により身体検査所見は異なる。運動不耐性、呼吸困難、両相性ストライダー(動画01)、咳、ギャギング、血痰などが、数ヶ月かけて次第に進行し、来院前数日前より急に臨床徴候が悪化している1。頸部触診にて触診可能な非対称性腫瘤を感じることがある。

 

動画01 雑種猫、20歳、オス。気管腺癌による呼吸困難(図5の症例)。持続性努力呼吸、両相性高調連続性異常呼吸音が認められた。

血液検査所見

特異所見は報告されていない。

動脈血ガス分析所見

まとまった情報はない。20092020年までの気管・気管支原発腫瘍の自験11例中(猫10:犬1)、来院時呼吸困難を示した7例(猫7:犬0)で高炭酸ガス血症(Paco2中央値49mmHg、範囲3173mmHg)が認められた。うち6例はAaDo230mmHgであった。

画像検査所見

頸部または胸部X線検査

ポリープ状や広基性の気管内隆起病変が認められる(図2, 4)。気管腫瘍の大きさと範囲と部位の初期評価をする。動物では頸部気管に発症が多いと報告されており1、頸部伸展したラテラル像を通常撮影に加える。頸部伸展しないと胸郭入口付近の肩関節や肩甲骨などに重複し気管腫瘍を認識できない場合がある(図3、4)。気管腹側面側に基部を有する場合は気管内部病変と考えられるが、背側の膜性壁側に表面が滑らかな広基性基部をもつ場合、リンパ腫などの管外病変による圧迫性狭窄のことがある。また、閉塞度合いによって肺過膨張、二次性に非心原性肺水腫ととしてびまん性間質影、原発または転移性を疑う結節陰影や浸潤影が認められたりする1

図2 動画01の症例の頸部X線写真。気管中央部に表面凹凸不整、気管全長の20%を超える長さの隆起病変あり(矢印)。最終診断は腺癌であった。

 

図3 ベンガル、10歳、オス。気管腫瘍の猫の胸部X線検査所見。気管に異常はみあたらない。

図4 同じ症例の同日の頸伸展側面像。頸部気管中央部に気管内にポリープ状陰影が認められた。図2の画像では肩甲骨に重複し識別できなかった。

胸部CT検査

縦隔条件にて気管内腫瘤状病変を確認できる。気管および気管支腫瘍の内部構造詳細と範囲、付属リンパ節や周囲構造との関連も調べる。しかし、腫瘤状病変の気管壁への浸潤や隣接する縦隔軟部組織からの浸潤を判別することはできない4

内視鏡検査

一見して気道粘膜から隆起する病変を識別できることが多いが(図5, 6)、異物との識別が必要な場合、生検鉗子などで軽く触れ可動性を確認する。気道内に隆起する病変の数、位置、閉塞度合い、色、表在血管、基部は膜性壁か気管軟骨輪側か、広基性かポリープ状かを確認する。

図5 図3と4の症例の気管・気管支鏡所見。気道断面の約90%を閉塞する隆起病変あり。気管腹側面に基部をもつ。この病変は高周波スネアで切除した。病理診断は髄外性形質細胞腫であった。

図6 雑種猫、6歳、メス。気管腫瘍。気管支鏡所見。太い矢印が気管腹側を示す。病理診断はB細胞型悪性リンパ腫であった。

診断

気管支鏡検査による気道内観察と生検による。しかしすでに画像検査から重度気道閉塞が認められる場合、観察と切除を含めた処置、もしくは救命的に気管内ステント留置も避けられない状況となりうるので、気管支鏡検査前に周到な計画と準備が必要となる。また、骨軟骨系の良性腫瘍は通常の生検鉗子では組織採取不能なのでホットバイオプシー鉗子を用意しておく。

1)単純頸部または胸部X線検査、CT検査で気管内に腫瘤状陰影あり

2)気管支鏡検査で腫瘤状病変を確認し、異物や管外性圧迫を鑑別する

3)気管支鏡下生検にて病理検査にて腫瘍を確認し、炎症性疾患を除外

診断のレベルは、確定(Definite): 1)〜3)全てを満たす、疑い(Probable):1)と2)を満たす、可能性あり(Possible):1)のみ

治療

初期対処

呼吸困難の初期対処には、100%酸素フローバイ投与、クーリング、鎮静(ブトルファノール2mg/kg IMなど)、ステロイド投与(プレドニゾロン1.0mg/kg IM)。高炭酸ガス血症の可能性ありフェイスマスク法による酸素投与は避ける。やや安定後、FIo2 0.25~0.30、温度20-23℃、湿度40%以下の設定でICU管理。喉頭直下の気管腫瘍で85%以上の気道閉塞なら緊急一時的気管切開チューブ設置。

内視鏡下緊急対処

限局性かつ50−70%以上の気道閉塞で呼吸困難ありただちに外科治療困難であれば、軟性気管支鏡または硬性気管支鏡をもちい気道インターベンションによる減容積(スネア切除9,12,13、レーザー14,15、アルゴンプラズマ凝固16、高周波処置17,16)にて気道開通と組織採取4(図7)。処置後気道不安定なら救命的に気管内ステント留置4,18

気管支鏡下エタノール注入療法(bronchofiberscopic etanol injection、BEI)9

2の内視鏡下緊急対処および診断ののち、外科非適応かつ容積の大きい腫瘍に対し内視鏡下に行う。

外科切除

切除可能範囲は、成犬なら気管全長の25%以下(約10軟骨輪分)、幼若犬では20%(約6軟骨輪分)以下が目安となり6、その範囲の限局性病変であれば適応。

アジュバント療法

減容積や外科切除後、補助的に化学療法や放射線療法4を行う。とくに生検にてリンパ腫と判明した場合、化学療法が有効1

 

図7 内視鏡下緊急対処の一例。11歳、雑種猫、オス。左上から右下に順に、気管分岐部を閉塞するポリープ状病変を、高周波スネア切除し、その後残った組織をホットバイオプシ-鉗子で凝固させながら減容積し、気管分岐部を開存させた。病理診断は扁平上皮癌であった。

予後

早期発見や良性腫瘍やリンパ肉腫では、予後要注意(Guarded)だが適切な処置で救命可能である。しかし、どのような腫瘍であれ呼吸困難重度で発見が遅れた場合は予後不良(Poor)である。米ペンシルバニア大学動物病院では、1999-2000年の10年間で気管腫瘍は10例あった。犬4例:猫6例で、うち3例は治療は成功、3例は未治療で安楽死、リンパ肉腫の1例は外科切除と化学療法を行い1年以上生存し、その他3例は経過不明であった1

未解決の問題、特記事項

既存成書では発症はまれというが、現在画像診断や内視鏡の技術が向上し、一方で化学療法や放射線療法などのアジュバント療法の選択肢も現れ、犬・猫で気管・気管支腫瘍を確定診断し治療する機会は次第に増加している。とくに猫は犬より発症が多いように思われる。本疾患は呼吸困難や執拗な咳の鑑別診断のひとつとして念頭にいれ、早期発見に努めるべきである。またもし気管内ステント留置にて救命できたとしても、その後気道衛生、管内増殖、ステント内粘液停滞などの術後合併症の問題とその対処や予後について十分な情報がないため、安易なステント設置による姑息的救命には術後の経過観察にも責任を果たさないと、むしろ問題を多く残してしまう。

引用文献

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4.           Diaz-Mendoza J, Debiane L, Peralta AR, et al. Tracheal tumors. Curr Opin Pulm Med2019;25:336-343.

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18.         城下幸仁. 最近話題の獣医療におけるステント療法 呼吸器分野(気管内ステント). 動物臨床医学会年次大会プロシーディング2014;35:333-337.

(犬・猫の呼吸器臨床研究会 犬・猫の呼吸器科 城下幸仁)

当院呼吸器科の見解と処置

臨床徴候と検査所見

上記記述と同様

当院呼吸器科診断基準

上記記述と同様

症例

確定診断症例数 16例(-200911)

症例① 雑種猫 メス 9歳

症例② 雑種猫 メス 9歳

症例③ 雑種猫 メス 11歳