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気管支鏡検査一覧

症例669

症例669動画】 ナツちゃん。Mダックス 避妊メス11歳、体重5.94kg。東京大学付属動物医療センターより当院呼吸器科を受診されました。来院20日前より急性呼吸困難、咳があるとのことでした。最終診断は、過敏性肺炎。

 

 

 

経過詳細

患者名:ナツ

プロフィール:Mダックス 、避妊メス、11歳

主訴:呼吸困難、咳

 

初診日:2017年8月21日

気管支鏡および鼻鏡検査日:2017年9月10日

退院日:2017年9月18日

診断:過敏性肺炎

除外された疾患:好酸球性気管支肺症、気道異物、亜急性気管気管支炎、BOOP、免疫介在性末梢気道疾患

既往歴:食物アレルギー(低分子プロテインを食べている)、椎間板ヘルニア(2012 鍼治療実施)、真菌症(2016 現在無治療)。

来院経緯:今年7月30日より急性呼吸困難、咳が認められた。種々の内科療法に反応乏しく、精査希望のため呼吸器科受診。

問診:5歳齢より時より咳がみられた。 昨年の夏に一過性にいびき(グレード**2/5)および努力呼吸がみられ、その頃より、動きが緩慢になった。今年7月17日に咳なく熱中症様症状がみられ、頻呼吸および血便を認めた。その後、努力呼吸がみられた。7月30日に飲水直後から急性に咳、呼吸困難をみとめ、在宅酸素療法(FiO2:≦30%)を開始した。8月5日より食欲低下あり、8月6日よりステロイド剤の追加を実施し、食欲の改善を認めた。8月8日、東京大学付属動物医療センターを受診し、循環器疾患は否定された。8月20日より咳の増加のため、舌下錠の膣内投与を実施した。現在も室内気で、頻呼吸、咳あり、安静時もチアノーゼが認められる。咳は連日/1日10-20イベント/1イベント30-60秒(咳スコア$10)で、安静時、睡眠時にみられ、terminal retchは必発。湿性咳から乾いた咳になった。1週間前より酸素室の外ではすぐに頻呼吸になり横になってしまう。飲水後ムセなし。gagging/retchingなし。くしゃみ/鼻汁なし。現在はいびきなし。嗄声などの発声異常もみられない。運動不耐性の飼い主の主観評価*はⅤ/Ⅴ。現在内服は気管支拡張剤、抗生剤、ステロイド剤、止血剤、整腸剤。同居犬なし、完全室内飼育、定期予防非実施。

身体検査:

体重5.94kg(BCS4/5)、T:38.2℃、P:132/分、R:160/分(室内気)。努力呼吸あり。肺音にて呼吸音増大あり、肺野にて閉口時にわずかにファインクラックルあり。カフテスト&陽性(3/5)。胸部タッピングでの咳誘発¥は陰性。来院時、安静時に呼吸数増加を伴った努力呼吸(40~48回/分)あり。軽い興奮で開口呼吸、舌色不良あり。SpO2:95-99%(100%酸素近接投与)、92-95%(2分間のルームエアー)。頻尿、血尿あり。

CBCおよび血液化学検査:肝酵素上昇(GPT 275U/l、ALP >3500U/l)、高タンパク血症(TP 9.2g/dl、ALB 4.8g/dl)CRP0.25mg/dl

動脈血ガス分析:pH7.45、Pco2 42mmHg, Po2 55mmHg, [HCO3-] 28.8mmol/L, Base Excess 4.7mmol/L, AaDo2 46 mmHg。重度な低酸素血症あり、高炭酸ガス血症あり、有意なAaDO2の開大あり、呼吸性アシドーシスおよび代謝性アルカローシスあり。

凝固系検査:PT8.3秒(参照値-犬、6.8-11.6秒)、APTT11.1秒(参照値-犬、9.7-17.6秒)、ACT94秒(参照値-犬、<120秒)。出血性素因なし。

頭部/胸部X線および透視検査:頭部にて口咽頭背壁の陥入あり。胸部にて肺野中間部および後肺野に気管支間質影あり、呼気時胸部気管虚脱あり、呼気時気管支虚脱あり、軽度の肺過膨張あり。

評価および飼い主へのインフォーメーション:現在、気流制限を伴う肺疾患があります。亜急性気管気管支炎(起炎菌あり)、器質化肺炎を伴った閉塞性細気管支炎(BOOP)、真菌吸入などによる過敏性肺炎、好酸球性気管支肺症、気道異物、何らかの免疫介在性末梢気道疾患が疑われます。治療確定には精査が必要です。現時点では肺機能低下のため、精査のための気管支鏡検査は非適応ですが、気管支拡張療法を行えば肺機能改善し精査可能となるかもしれません。入院治療にて経過観察となります。

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予後

様々な病態で気流制限を伴う肺疾患が生じますので、一概に現時点で予後を説明することは困難です。ただ、経験的には初診時Pao2 55mHg, Paco2 42mmHgの換気障害では、1-2週間の気管支拡張療法で気管支鏡検査可能なPao2 60mmHg以上に達すると考えております。発症より3週間の経過であり、病態としては亜急性レベルであり、可逆性気道疾患といえ、精査診断の価値は十分あります。

推奨される治療法

  1. 酸素療法(FiO2:25%)
  2. 気管支拡張剤吸入療法(サルタノール 1スプレー10呼吸 1日2回)
  3. 気管支拡張剤投与(ブリカニール 0.01mg/kg SC 1日2回、べラチン0.05mg/kg PO 1日2回)
  4. ステロイドの全身投与(プレドニゾロン0.5~1.0mg/kg SC 1日1回 肝酵素をモニタリングしながら)
  5. ネブライザー療法(生食20ml+メプチン0.5ml+ビソルボン0.5ml+ゲンタマイシン0.5ml/回、1日2回)
  6. ヘパリン投与(ステロイド投与後の血栓予防のため 100U/kg SC 1日2回)

経過

上記治療を継続し、呼吸状態安定していましたが、8/26午前に元気消失しました。血液検査にて問題なく、その日の午後には回復しました。8/28、9/4に経過観察のため動脈血ガス分析と胸部X線検査を行い、Pao2>60mmHg, Paco2<45mmHgを示し、胸部X線検査では肺過膨張が改善し、対症療法ではありますが、積極的な気管支拡張療法は効果がありました。入院経過中、血液混じりの軟便が問題となりましたが、前医からの処方薬にて9月4日の時点で回復しております。

9月10日に、気管支鏡検査実施

二次検査(9月10日)

Ⅰ 喉頭鏡検査

  1. 肉眼所見: 喉頭の発赤(+), 腫脹(-), 虚脱(-), 痙攣(-), 披裂外転(+), 結節病変(-), 閉塞(-)、粘液付着(-)

Ⅱ 喉頭および気管気管支鏡検査

  1. 肉眼所見:

喉頭 発赤(+), 腫脹(-), 虚脱(-), 痙攣(-), 披裂外転(+), 結節病変(-), 閉塞(-)、粘液付着(-)

気管気管支樹

  1. 粘膜の変化:異常なし
  2. 壁構造の変化:異常なし
  3. 管内要因:異常なし
  4. 管外要因:異常なし
  1. 気管支ブラッシング:RB4D1にて実施。細胞診にて上皮細胞塊(++)/独立細胞(++)、好中球(-)、好酸球(-)、リンパ球(+)、マクロファージ(+)、異型細胞(-)、細胞内細菌(-)。微生物検査にて細菌分離されず。
  2. 気管支肺胞洗浄液解析(BALF解析):RB4V1にて実施。10ml×3回。回収率51.3%(15.4/30ml)。にごり(+)、粘液(+)。総細胞数増加421/mm3 (正常 84-243/mm3、犬)、細胞分画;マクロファージ59.0%(正常92.5%)、リンパ球38.1%(正常4.0%)、好中球2.6%(正常2.0%)、好酸球0.3%(正常0.4%)、好塩基球0.0%(正常0%)。腫瘍細胞なし。泡沫状マクロファージ主体。リンパ球増加型。微生物検査にて細菌分離されず。

二次検査評価:可視範囲の気道内に異常所見はありませんでした。BALF細胞診にてリンパ球比率が著明に増加していました。微生物検査にて細菌は分離されませんでした。

麻酔管理概要:

前処置 ABPC20mg/kg+アトロピン0.05mg/kg SC

鎮静 ミダゾラム0.2mg/kg+ブトルファノール0.2mg/kg IV

導入 プロポフォール IV to effect (<5mg/kg)

維持 フォーレン0.5-1.0%、プロポフォール持続投与0.2-0.4mg/kg/min

気管支鏡検査中はラリンゲルマスク#1.5にて気道確保にて自発呼吸、それ以外は気管チューブID5.5mm使用。

気管支鏡検査14:35−14:46、人工呼吸管理14:48−15:08、抜管15:11

気管内挿管下カプノグラムは緩やかな閉塞性パターンを示した。

全体評価

BALF細胞診にてリンパ球増加型が認められました。気管内挿管下カプノグラムは末梢気道の気流制限を示します。犬のBALF細胞診でリンパ球比率が30%を超えることはなく、臨床経過や症状を考えると過敏性肺炎の疑いがあります。これまで当院呼吸器科での犬のBAL実施199例中、BALF中リンパ球比率が30%を超えた例は本例を含め3例のみであり、1例は68.2%で過敏性肺炎、1例は32.1%で壊死性唾液腺化生、そして1例が本例です。肺機能低下を示したのは、本例と過敏性肺炎症例のみです。ともにBALF中好中球比率が少ない(2.0%、2.6%)という共通点があり、リンパ球は小リンパ球が占め、リンパ球優位の炎症細胞浸潤が生じているようです。過敏性肺炎は、BALF中にリンパ球が圧倒的優勢を占める特徴があります。

予後

犬の過敏性肺炎の報告はなく診断基準は定められておりませんし、予後不明(Guarded prognosis)です。当院呼吸器科で経験した1例は、数十年使用していなかったベッドを整理したときに生じた粉塵を吸って発症したと考えています。特定の部屋で急性呼吸困難を発症するというものでした。転居することができなかったので、高用量のステロイド投与をつづけましたが、3年目の夏に激症を再発して亡くなりました。人では、過敏性肺炎は慢性化すると難治性肉芽腫性炎となり、さらに肺線維症を引き起こし、QOLが低下していくことが知られています。特定抗原を究明できなければ、発症しないよう十分なステロイドか免疫抑制剤の長期投与が必要とされます。

推奨される治療法

  1. できるだけ、生活環境を変える。
  2. プレドニゾロン2mg/kg PO 1日2回から始め、症状に応じ加減する
  3. 免疫抑制剤(シクロスポリン)を補助的に投与する

経過

9月11日~9月18日

プレドニゾロン0.5mg/kg SC 1日1回へ減量、ヘパリン投与中止、ルンワン粒1/2錠 PO 1日2回を追加し、半日ICU管理/半日一般室管理とした。元気・食欲ともに問題なし。術後再び下痢がみられたが、9月15日以降改善を認め、9月18日に退院。

9月18日 血液検査、X線・透視検査、動脈血ガス分析を実施し、肺機能の改善を確認した後、退院(9/4→9/18、Pao2:64mmHg→79mmHg, Paco2:37mmHg→35mmHg)。退院時処方は以下のとおり。

プレドニゾロン0.5mg/kg 1日1回

べラチン0.05mg/kg 1日2回

ルンワン粒1/2錠 1日2回

 

10月2日(退院14日後)

問診:2階では呼吸は落ち着いている(呼吸数20回/分)が、1階では呼吸数増加(40回/分)を伴う努力呼吸あり。Pao2:61mmHg、Paco2:35mmHgと低酸素血症あり。

帰宅誘発試験:陽性

プレドニゾロン2.0mg/kg 1日1回へ増量

シクロスポリン5mg/kg1日1回追加

その後、呼吸状態安定。

 

最終診断

過敏性肺炎

 

経過

かかりつけ医にて経過観察中。2018年2月16日現在(退院4ヵ月)、自宅にて経過良好。