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気管支鏡検査一覧

症例514

BS画像-BS514-ナガオラピスラズリ151219BS-1【症例514動画】 ラピスラズリちゃん。ロシアンブルー オス 8歳、体重4.46kg。足立どうぶつ病院(小田原市)より診療依頼を受けました。2ヵ月前からの湿性咳、浅速呼吸、肺野異常陰影あり、ステロイドに反応するが、中断とともにすぐに再発したとのことだった。 最終診断は、肺腺癌(細気管支肺胞上皮癌)。

 

 

 

経過詳細

患者名:ラピスラズリ

プロフィール:ロシアンブルー、8歳、去勢オス

主訴:胸部異常陰影、咳

 

初診日:2015年12月19日

気管支鏡検査日:2015年12月19日

CT検査日:2016年1月17日

手術日:2016年2月12日(右肺後葉切除術)

最終診断:肺腺癌(細気管支肺胞上皮癌)

除外された疾患:気道異物、好酸球性肺疾患、細菌性気管支肺炎、閉塞性細気管支炎

既往歴:手術、入院治療、長期治療歴なし

来院経緯:10月初めより間欠的に咳が生じるようになり、11月に入り2日に1回のペースで、1回の咳イベントに7−8回持続するようになってきた。11月10日に努力呼吸もあり足立どうぶつ病院受診。胸部X線検査にて右後肺野に限局性浸潤影を指摘された。ステロイドを連日注射でその異常陰影は縮小したが、内服に切り替えるとすぐに再発した。精査希望のため呼吸器科受診。

胸部X線検査経過:初診時、肺過膨張を伴っていた。ステロイド投与にて浸潤陰影とともに肺過膨張も緩和していた。

現在の治療:プレドニゾロン注射、連日(12/15-18)

問診:はじめ咳は走ったあとなどに1週間に1回、1イベントに2-3回続いた程度であった。11月に入り咳が増加してきた。運動後、睡眠時などによくみられた。咳時は、頸伸展あり。今年春から、体重が10%減少した(5.0kg→4.5kg)。嘔吐なし、飲水後ムセなし。異物摂食壁なし。現在、食欲あり。同居猫2匹いるが接触なく健常、完全室内飼育、定期予防実施。飼い主の運動不耐性評価*はⅠ。

身体検査:体重4.46kg(BCS3/5)、T:39.7℃、P:212/分、R:56/分。努力性呼吸なし。聴診で異常なし。診察中rattle(のどをプツプツ、ゴロゴロ鳴らす症状)が数回認められた。

CBCおよび血液化学検査: WBC減少(3800/mm3)、BUN増加33.4mg/dl、末梢血好酸球数増加なし。

動脈血ガス分析:pH7.37、Pco2 30mmHg, Po2 68mmHg, [HCO3-] 16.9mmol/L, Base Excess -6.6mmol/L, AaDo2 48 mmHg。軽度の低酸素血症と中等度のAaDo2開大あり。

凝固系検査:PT7.7秒、APTT14.4秒。問題なし。

頭部/胸部X線および透視検査:頭部にて構造的および透視で確認できる咽喉頭協調運動に問題なし。胸部にて右後肺野に境界不明瞭な限局性肺胞浸潤影、肺過膨張なし。

評価および飼い主へのインフォーメーション:ロシアンブルーやアメリカンショートヘアーではこのような肺野に異常陰影を伴う慢性気管支炎をよく認めます。原因はまだよくわかっていませんが、気管支腺の増生が認められることが多いです。その他、閉塞性細気管支炎、原発性肺腫瘍、気道異物、細菌性気管支肺炎、好酸球性肺疾患、などが鑑別疾患です。これらは気管支鏡検査で鑑別可能です。幸い、肺機能は十分に維持されており、当院気管支鏡検査実施基準であるPao2>60mmHgを満たしており、検査自体は実施可能です。

 

飼い主の選択

気管支鏡検査を希望する。

 

二次検査

Ⅰ 気管支鏡検査

1)        肉眼所見: 浸潤影部を走行するRB4V1とRB4V2にて漿液性分泌物貯留と流出あり、右後葉気管支(RB4)内にその漿液性分泌物が多く認められた。LB2V1にも粘稠分泌物貯留あり。その他肉眼的異常なし。

2)       気管支ブラッシング:RB4V2にて実施。細胞診にて上皮細胞塊のみ。微生物検査にて細菌陰性。

3)       気管支肺胞洗浄液解析(BALF解析):RB3にて実施。5ml×3回。回収率50.7%(7.6/15ml)。白色粘液混在。総細胞数増加369/mm3 (正常 55-105/mm3)、細胞分画;マクロファージ95.8%(正常82%)、リンパ球3.6%(正常2.7%)、好中球0.6%(正常4.0%)、好酸球0.0%(正常10%)、好塩基球0.0%(正常0%)。腫瘍細胞なし。中型から大型の泡沫状マクロファージ主体。慢性炎症パターン。微生物検査にて細菌分離されず。

4)      経気管支肺生検:透視ガイド下に右後肺野浸潤影に向け、RB4V1またはRB4を介し実施。病理組織検査にて腺癌疑い。

二次検査評価:気道異物や好酸球性肺疾患は除外されました。微生物検査や病理検査結果待ちとなります。経気管支肺生検後、陽圧呼吸管理を30分継続し問題なく自発呼吸に移行しましたが、その後気胸を発症しました。速やかに胸腔穿刺し1時間持続脱気し状態安定しましたが、持続脱気を停止すると胸腔内空気漏出が継続したので念のため胸腔チューブを設置しました。チューブ設置後2時間脱気を続けましたが、それ以降は脱気できず気胸は速やかに回復しました。異常影部は陳旧化または慢性化病変かもしれません。

麻酔管理概要:

前処置 ABPC20mg/kg+アトロピン0.05mg/kg SC

鎮静 ミダゾラム0.2mg/kg+ブトルファノール0.2mg/kg IV

導入 プロポフォール IV to effect (<5mg/kg)

維持 フォーレン0.5-2.0%、プロポフォール持続投与0.1-0.4mg/kg/min

気管支鏡検査中はラリンゲルマスク#1.5にて気道確保にて自発呼吸、それ以外は気管チューブID4.0mm使用。

気管支鏡検査17:37−17:50、陽圧呼吸管理18:48−19:15、気胸発症19:20、気胸対処 19:20−23:40抜管23:42

 

経過

2015年12月24日 退院。今後もプレドニゾロン1mg/kg SC 1日1回を継続。

2016年1月17日 キャミック城南にて胸部CT検査。1)右肺後葉腹側に肺内層優位で一部胸膜直下に連結する直径25mmの限局性線状網状陰影、2)左肺後葉腹側に直径9mmの結節状高吸収域および同背側にスリガラス様陰影、3)左前葉気管支に沿って直径2.4mmと3.7mmの結節状の高吸収域あり。4)胸部リンパ節腫大なし。1)の病変は気管支鏡検査での生検領域と一致し、肺野病変中最大であった。

2月12日 右肺後葉切除術。術前Pao2 85mmHg。

2月18日 退院

5月15日 摘出した右肺後葉の病理組織検査にて「肺腺癌」と診断。標本内では直径3cm大の乳白色の硬い病変であった。

5月18日 連日から2日に1回継続していたプレドニゾロン0.5-1.0mg/kg SCを中断

5月28日 咳と浅速呼吸が再発したため、プレドニゾロン0.5mg/kg SC EODを再開。

6月5日 再診。一般状態良好とのこと。体重減少3.92kg。浅速呼吸なし(R:24)、Pao2 66mmHg、CXRにて左肺野の不整形斑状陰影あり。血糖値上昇(536mg/dl)、肝酵素上昇(GPT102U/L, ALP244U/L). 医原性の糖尿病と考えられた。プレドニゾロン投与中止。

6月12日 キャミック城南にて胸部CT検査。1)右肺は代償性拡張が十分、2)左肺後葉の網状陰影は境界不明瞭で36mmX3.4mmX2.6mmの浸潤影に拡大、3)左前葉気管支の結節影は2.4mmから6.0mmに拡大、4)胸部リンパ節腫大はやはりなし。

7月8日 胸部X線にて左肺異常影あり(足立どうぶつ病院)

7月13日  インスリン投与開始(足立どうぶつ病院)

8月17日 血糖値は良好に管理し、インスリン投与中止(足立どうぶつ病院)

8月27日 咳は少なく状態良好。血糖値は109mg/dlで安定。体重は4.6kgに回復(足立どうぶつ病院)。