気管支鏡検査一覧

症例472

VB#472−イトウチェリー150618BS-気管内粘稠粘液【症例472動画】 チェリーちゃん。ラブラドールレトリーバー 10歳 オス、体重25.4kg。来院経緯と主訴:かまくらげんき動物病院(鎌倉市)より診療依頼を受けました。かかりつけ医はゼファー動物病院(八王子市)です。1.5年前より痰産生性咳が続いており、10種類近くの抗菌剤治療を行ってきたが反応せず、2015年6月18日、精査希望のため呼吸器科受診。最終診断は慢性喉頭気管炎。主訴は難治性の慢性痰産生性咳。既往歴:季節性の皮膚炎(2011-)、脾臓に結節病変(脾摘実施。同時に胃固定術実施)、股関節炎(2015.4- 左後肢に股異形成あり)。 問診:咳は、連日、1日10-20回、安静時および睡眠時に突発し、散歩時に少ない。咳はのどに何かからまったような強い咳を5-6回続け最後に痰を吐き出すような仕草をする。黄緑色の喀痰を喀出することもあれば、喀出なく咳を繰り返すこともある。これまで数種類の抗菌剤を使用してきたが、症状消退せずCRPも3.0-4.0mg/dlを推移していた。2ヶ月前から股関節炎が悪化し、CRPが5.0-6.3mg/dlまで上昇した。1年前にかまくらげんき動物病院にて咽頭スワブに緑膿菌が分離され、感受性ある抗菌剤を投与して咳が緩和されてきたが、次第に耐性が獲得され使用できる抗菌剤がなくなってきた。末梢気道まで気道全体の状況を把握しなおすことを提案され、呼吸器科にて気管支鏡検査を希望することになった。1-2歳からとても大きないびき(5/5、床越しに聞こえる)があったが、2-3ヶ月前からいびきがなくなってきた。2-3ヶ月前に咳が続いたあとに咽頭液の喀出が認められ、1日1回続いている。嗄声なし、飲水後gaggingなし、興奮後ストライダーなし、食前などに流涎が多くなってきた。股関節炎のためか、歩行可能だが疲れるとすぐに横になってしまう。同居犬なし、完全室内飼育、定期予防実施。 診察時徴候:BCS3/5、努力性呼吸なし。右口角から流涎あり。左後肢負重を嫌がる。聴診にて正常呼吸音増大なし、呼吸副雑音なし。カフテスト陰性、胸部タッピングにて咳誘発あり。 臨床検査所見:T:37.7℃、P:72/分、R:16/分。血液ガス分析にて問題なし(pH7.40、Pco2 37mmHg, Po2 85mmHg, AaDo2 20 mmHg)。CBC/血液化学検査にて異常なし。CRP増加(3.25mg/dl)。X線および透視検査にて、頭部に構造的問題なく、透視で披裂軟骨外転が明瞭に認められた。胸部に肺野異常影認められず。 喉頭および気管気管支鏡検査所見:喉頭鏡にて喉頭の発赤腫脹、咽頭気道粘膜面はやや凹凸不整だが正常範囲内であった。咽頭スワブの微生物検査にてG群Streptococcus 2+を分離し、AMK, GMに対し十分な感受性を示さなかったが他の抗菌剤に感受性を示した。気管気管支鏡検査時には浅麻酔下では接触刺激に過敏に反応し喉頭痙攣があった。気管内は頸部気管を中心に広範囲に発赤し、壁面には気管全体わたり黄白色粘稠粘液が付着し、ブラッシングを大行ったが微生物検査にて起炎菌を分離しなかった。気管分岐部以降に肉眼的異常は認められなかった。気管支肺胞洗浄液解析(RB2、25ml×3回、回収率76%)にて、性状は白色透明。総細胞数は正常範囲内241/mm3 (正常 84-243/mm3)、細胞分画はマクロファージ89.5%(正常92.5%)、リンパ球5.5%(正常4.0%)、好中球4.5%(正常2.0%)、好酸球0.5%(正常0.4%)、好塩基球0.0%(正常0%)で腫瘍細胞なく泡沫状マクロファージ主体であり、慢性活動性炎症パターンを示し、微生物検査にて起炎菌を分離しなかった。気管支鏡下治療:気管内に付着した粘稠粘液をサクションチューブを用いてできるだけ吸引除去した。 確定診断:慢性喉頭気管炎。 最終治療:長期在宅ネブライザー療法(生理食塩液20ml+ クロロマイセチン局所用液5%+ボスミン外用液 0.1% 0.5ml+ビソルボン吸入液0.2% 0.5ml/回、1日2回)。 転帰:検査当日退院可能。退院後、かかりつけ医のゼファー動物病院(八王子市)にて大腿骨の骨肉腫が判明し、断脚を決断されたそうです。長期間のCRP増加は骨肉腫の進行が関係していたかもしれません。術後、経過良好で元気に3本足で歩いているとのことです。骨肉腫と慢性喉頭気管炎との関連は不明ですが、断脚後も痰産生咳は続いているようなので別疾患として考えています。