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ポスターセッション18


仰臥保定下での正常犬の気管支鏡所見


城下幸仁1) 松田岳人1)

Yukihito SHIROSHITA Taketo MATSUDA

*Endobronchial anatomy in normal dog in supine position

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伏臥保定下の犬での気管支鏡的分岐命名法に従って仰臥保定下にて正常犬の気管支鏡所見を再構築してみた。

キーワード:気管支鏡、犬、呼吸器

はじめに

気管支鏡は呼吸器診療に必須の診断toolである。正常犬の内視鏡所見は気管支鏡的分岐命名法の提唱とともにAmisら[1]によって記述されている。これは伏臥保定下のものであった。気管支肺胞洗浄を仰臥保定下に右中葉支で行えば安全かつ高い回収率で実施できる。今回、Amisらの命名法に従って仰臥保定下にて正常犬の気管支鏡所見を再構築してみた。

材料と方法

正常犬3頭(体重 9.18-22.60 kg)に対し仰臥保定で全身麻酔下にてビデオスコープ(オリンパス VQ-6292A)を用いて気道系を観察した。気管支の同定はAmisらの犬気管支樹の図譜[1]とセルロイド気管支樹鋳型標本[2]で確認しながら行った。気管支樹の解剖用語には、主気管支(I次分岐)、葉気管支(II次分岐)、区域気管支(III次分岐)、亜区域気管支(IV次分岐)の表記を用いた。

結果

末梢に向かって以下のように観察された(図1)。略語はAmisらの命名法[1]による。


図1 仰臥保定下での正常犬の気管支鏡所見。気管支鏡検査は番号順に行う。Amisらの命名法[1]は犬の主軸状(monopodial)分岐の解剖学特徴を生かし、気管支鏡医が利用しやすいように気管支樹を分岐順と走行方向の2つの要素によって単純化している。LPB, 左主気管支;RPB, 右主気管支。

1. 声門 ここを通過すると声門下腔が広がり気管に移行した。2.および3. 頚部および胸部気管 馬蹄形の軟骨輪が規則正しく配列していた。背側には膜様部が観察されたが、ヒトでみられるほど明らかな縦走襞はみられなかった。4. 気管分岐部 左右主気管支に分岐する部分で鋭い楔状にみえた。5. 右主気管支 右前葉気管支(RB1)が気管分岐部の対側にあった。先に右中葉気管支(RB2)、右副葉気管支(RB3)、右後葉気管支(RB4)の入口部がみえた。6. 右前葉気管支分岐部 すぐに大きな区域気管支(RB1D1)がRB1の背側壁に起きていた。7. RB1D1 この気管支は背尾方向に伸びていた。8. 中間幹 腹側にRB2、内側にRB3、中央にRB4がみえた。9. 右中葉気管支分岐部 RB2は鋭角をなし腹外側方に向かっていた。最初の区域気管支は外側壁から尾側方に分岐していた(RB2C1)。区域気管支群は前および尾側壁より生じていた。10. 右副葉気管支分岐部 RB3は腹内側方に伸びていた。すぐに尾側壁より大きな区域気管支が尾背側方に分岐していた(RB3D1)。区域気管支群は背および腹側面から出ていた。11. 右後葉気管支(1番目の区域気管支分岐部)RB4の最初の区域気管支はRB3とほぼ同じレベルで外側壁より背側方に向かい(RB4D1)、次は腹側壁より起こっていた(RB4V1)。12. 右後葉気管支(2番目の区域気管支分岐部)背腹の対の分岐口位置が1番目よりやや外側に旋回していた(RB4D2およびRB4V2)。以降の区域気管支分岐口も外旋していった。13. 気管分岐部戻る。14. 左主気管支 先ず外側面に左前葉気管支(LB1)が分岐し先に左後葉気管支(LB2)がみえた。15. 左前葉気管支分岐部 すぐに大きな区域気管支が尾腹側方に向かっていた(LB1V1)。隣接するようにLB1が前腹側方に向かい、区域気管支群は背側および腹側壁より生じていた。16. LB1V1 分岐後すぐに背側壁から亜区域支が起きていた(LB1v1a)。17. 左後葉気管支(1番目の区域気管支分岐部)LB2の最初の区域気管支は左前葉気管支の起始部のやや尾側の左後葉気管支の背外側壁より起き(LB2D1)、すぐ次に腹側壁に区域気管支が起こっていた(LB2V1)。18. 左後葉気管支(2番目の区域気管支分岐部)右後葉同様、2番目の区域気管支の分岐口の対がやや外側に旋回した位置にみえた。19. 気管分岐部に戻る

考察

今回、Amisらの命名法[1]に従って仰臥保定下で正常犬の気管支鏡所見を図示した。これら所見はAmisらのデータ[1]と背腹方向を逆にした以外ほぼ一致していた。Amisらは重力方向のまま観察可能なので伏臥保定にて気管支鏡検査することを推奨しているが、仰臥保定下で施行される方が気管支肺胞洗浄の安全性や効率性さらには換気抑制が少ないことから合理的であると考えられる。Amisらは、区域気管支は背腹2方向のみであると主張している[1]。しかし今回、左右後葉気管支でときに内側方(Medial)にも分岐がみられた(図1?)。したがって、背外腹内側の4分岐系が哺乳動物の気管支分岐の基本形としてあるとの説[2]が支持された。

引用文献

1. Amis TC, McKiernan BC : Systematic identification of endobronchial anatomy during bronchoscopy in the dog, Am J Vet Res, 47, 2649-2657 (1986)

2. Nakakuki S: The bronchial tree and lobular division of the dog lung, J Vet Med Sci, 56, 455-458 (1994).


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