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症例検討

中枢気管支壁が組織崩壊し嚢胞状拡張に至り喀血を呈した猫の1例

Hemoptysis in a cat from phathological destruction of multiple large bronchi

城下 幸仁1)、松田 岳人1)、金井 孝夫2)

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4歳、雌、雑種猫が数ヶ月間続く喀血を主訴に来院した。右肺中葉および左肺前葉前部・後部に出血を伴った嚢胞病変が認められ左肺前葉を切除した。病理検査にて嚢胞部は、中枢気管支壁が限局的に組織崩壊し拡張したものであることが判明した。腫瘍、結核症、細菌・真菌かつ寄生虫感染、肉芽腫、好酸球、気道内異物の関与はなかった。

はじめに

喀血はさまざまな呼吸器疾患の一症状として現れる。人では結核症、気管支拡張症、気管内腫瘍、アスペルギルス症、肉芽腫などが主な原因とされる。犬では、フィラリア症、慢性細菌性気管支肺炎、腫瘍、凝固異常、肺化膿症などでみられ、気道内異物や寄生虫感染でも起こりうる。猫ではまれで、喘息と肺葉捻転に随伴した報告1例のみである1。今回、中枢気管支壁が限局的に組織崩壊し嚢胞状拡張に至り喀血を呈した猫の1例について報告する。本症例は上述のどの疾患にも該当しない。

症例

雑種猫、4歳、雌。室内飼育、3種混合ワクチン毎年接種、既往症なし。同年齢の1頭の同居猫は健常。数ヶ月前より間欠的に喀血があるとのことで来院。

初診時身体検査所見 体重6.40 kg。発熱なく一般状態良好。上気道症状なく呼吸異常なし。

糞便検査 虫卵検出せず

CBCおよび生化学 TP 9.0 g/dlで軽度増加

血清学的検査 FeLV, FIV, FCoV, Toxo陰性

胸部X線所見 肺門近くの実質内に3箇所の限界不明瞭の肥厚壁を有する嚢胞病変あり(図1左)

凝固時間 PT 11.4秒、APTT 25.0秒で正常

血液ガス分析 pHa 7.441, Paco2 26.0 mm Hg, Pao2 87.2 mm Hgで軽度の低酸素血症

気管支鏡検査所見 右中葉、左前葉前部・後部の気管支入口部に出血あり粘膜は凹凸不整、浮腫、発赤していた(図1右)。異物なし。

臨床診断 出血性嚢胞病変による喀血

第26病日、出血の多い左肺前葉を外科切除し病理検査に供した。

病理所見 肉眼:肺門部気管支領域2箇所に母指等大の軟凝血塊を入れた嚢胞状物あり(図2)。組織:嚢胞状部分の気管支壁には組織崩壊した出血性変化がみられ、壁粘膜から全層にわたり全周性に高度なリンパ球浸潤、また形質細胞も多数みられた(図3)。腫瘍細胞なく、好中球や好酸球の浸潤もなかった。同病変は中枢気管支にほぼ限局し、末梢の実質はほぼ正常に保たれていた。肉芽腫形成、虫体、感染による組織反応所見なく、また細菌・真菌検出のためのギムザ、PAS、結核菌染色でもいずれも陰性であった。

病理診断 高度なリンパ球浸潤を伴った中枢気管支壁の限局性組織崩壊

治療および経過 術後PaO2 108.7 mm Hgとなり正常化。組織所見よりプレドニゾロン1.25-2.0 mg/kg q24h PO、CAM 25mg q12h PO、アドナ?15 mg q12h POを投与し、喀血症状と胸部X線の右中葉嚢胞壁の肥厚は消退した。一方、左主気管支背側壁が虚脱し拡張していった(図4)。第324病日、気管支鏡で右中葉の嚢胞内を観察した。内面は凹凸不整かつ暗赤色であり内部に凝血塊がみられた(図5)。鼻出血が計3回あり内視鏡にて後鼻腔粘膜面の発赤と粥状凹凸不整が観察された。現在380病日を経過したが喀血の再発はない。

考察

今回、腫瘍、結核症、細菌・真菌かつ寄生虫感染、肉芽腫、好酸球、凝固障害、および気道内異物の関与もなく中枢気管支壁が限局的に組織崩壊し嚢胞状拡張に至り喀血を呈した猫の1例を報告した。気道壁の高度のリンパ球浸潤は自己免疫性もしくは何らかのアレルギー疾患の関与を示唆した。このような気道疾患は獣医学および医学領域にも報告がない。

参考文献

1. Dye TL, Teague HD, Poundstone ML. Lung lobe torsion in a cat with chronic feline asthma. J Am Anim Hosp Assoc 1998;34:493-495.


図1 初診時検査所見。左前葉(LB1)と右中葉(RB2)に出血性嚢胞あり。

図2 切除肺葉割面。気管支近位が拡張し嚢胞状となっていた。

図3 組織所見。気管支壁の一部が離開し、壁内に高度なリンパ球浸潤がみられた。

図4 左主気管支背側壁の拡張

図5 右中葉嚢胞内。凝血塊がみられた。


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