相模が丘動物病院のホームページ|メール


ビデオセッション
気管分岐部を閉塞する猫のポリープ状腫瘍に対し気管支鏡下高周波スネア切除を行った1例

城下 幸仁1)、山本 洋史1)、森 拓也1)、秋吉 亮人2)
Yukihito SHIROSHITA, Hiroshi YAMAMOTO, Takuya MORI, Makoto AKIYOSHI

*Interventional bronchoscopy in the treatment of a cat with tracheal polypoid cancer that obstructed the main carina.

1) 相模が丘動物病院 呼吸器科、2)同 一般診療科:〒228-0001 神奈川県座間市相模が丘6-11-7
連絡先:Tel 046-256-4351 Fax 046-256-6974 E-mail shiroshita@sagamigaoka-ac.com

11歳11ヶ月齢、避妊済雌、雑種猫が2週間前から進行性の呼吸困難のため来院した。気管支鏡検査にて気管分岐部を閉塞するポリープ状の扁平上皮癌と診断した。気管内腫瘍を高周波スネアおよびホットバイオプシーにて切除し気道開存を得た。1カ月後残存病巣に気管支鏡下アルゴンプラズマ凝固を行った。NSAIDs内服継続およびカルボプラチン静脈内単回投与も行い、現在178日間局所再発なく良好に経過している。

キーワード:気管支鏡、気管内腫瘍、interventional bronchoscopy

はじめに
最近、猫の気管内腫瘍に対する気管支鏡下処置を行った症例が報告された1,2。今回、気管分岐部を閉塞する猫のポリープ状腫瘍に対し気管支鏡下高周波スネア切除を行った1例を経験したので報告する。

症例
雑種猫、避妊済雌、11歳10ヵ月齢。室内飼育、混合ワクチン毎年接種。2週間前より呼吸困難
が始まり次第に悪化し失神もあった。5日前より食欲消失。前医でCTにて気管分岐部気管内腫瘍と診断され(図1)、気管支鏡下切除および病理診断を希望し当院呼吸器科受診。
初診時一般身体検査所見:体重3.0 kg。呼吸数24/分。削痩。吸気努力。開口呼吸。喘鳴あり。
CBCおよび血液生化学所見:特異所見なし
動脈血ガス分析所見:pH 7.33, Pco2 49 mmHg, Po2 91 mmHg, AaDo2 2 mmHgと、肺胞低換気所見を示すが、肺機能に異常なし。
胸部X線写真所見:気管分岐部直前に気管を閉塞する塊陰影あり. 肺過膨張あり。

暫定診断:気管内腫瘍
気管支鏡検査および気管支鏡下処置:仰臥保定全身麻酔下、ラリンゲルマスク#1.5にて気道確保し、先ず細径軟性気管支鏡(MVE-2555, 町田製作所。先端部外径2.5mm, チャネル径1.2mm)にて気管分岐部直前に気道を90%以上塞ぐ塊病変を確認した。その結節病変を超えた左右の主気管支内に病変はなかった。次に、軟性気管支鏡(BF TYPE MP60, Olympus。先端部外径4.0mm, チャネル径2.0mm)にてさらに病変を詳細に観察した。表面は大小の凹凸不整隆起状を呈し、表在血管に乏しいポリープ状病変であった。膜性壁を6時方向とし9時から11時方向にやや広い基部を有した(図2)。そしてその基部に高周波スネアをかけ25Wの出力で3分程度かけて次第にしめつつ切除した(図3)。残存部はホットバイオプシー鉗子を用い25Wの出力で慎重に数回に分け摘除した。最後にLB2内に入り込んだ小切除断片を通電せずに全て回収し、気管分岐部の開存を得た(図4)。

病理組織診断:扁平上皮癌
治療および経過:翌日、吸気努力は消失。動脈血ガス分析にてpH 7.43, Pco2 35 mmHg, Po2 91 mmHg, AaDo2 17 mmHgと、炭酸ガス分圧は正常化し肺胞低換気所見は改善した。胸部X線でも肺容積は正常化した。第3病日には食欲改善し退院した。気管気管支形成術による根治術は技術的に困難でリスクが非常に高いと判断し、気管支鏡による継続観察と気道内処置、ピロキシカム0.3mg/kg PO q48h、および化学療法を組み合わせて行うことになった。第33病日、一般状態良好下に2回目の気管支鏡検査を行った。腫瘍基部がわずかに残存しており、それに対し気管支鏡下にアルゴンプラズマ凝固(出力20W)を行った(図5)。処置終了後、化学療法として、カルボプラチン150mg/m2 IVを行った。第35病日から化学療法の副作用のため食欲元気消失と嘔吐がみられたが、2ヶ月間近医で対症療法を続け一般状態は改善した。オーナーは化学療法継続を拒否した。第69病日からピロキシカムから、よりCOX選択性の高いメロキシカム0.025mg/kg PO q24hに変更した。第89、152病日、近医で胸部X線およびCT検査にて局所再発は検出されなかった。現在、内視鏡下腫瘍切除後178日間経過したが一般状態良好である。


図1 前医胸部CT水平断。気管分岐部を閉塞するポリープ状病変(←)がみられた。(画像提供:ファミリー動物病院 和田先生)


図2 初診時気管支鏡所見。気管分岐部直前に気道を90%以上塞ぐ塊病変を確認した。膜性壁を6時方向とし9時から11時方向にやや広い基部を有し、表面は大小の凹凸不整隆起状を呈し、表在血管に乏しいポリープ状病変であった。


図3 ポリープ状病変に高周波スネアをかけ通電して切除した。


図4 残存部をさらにホットバイオプシー鉗子で処理し、気管分岐部は開存した。


図5 1ヵ月後、残存腫瘍基部にアルゴンプラズマ凝固を行った。

考察
高周波気道内治療によって低侵襲かつ迅速に中枢気道内腫瘍による呼吸困難を改善できた猫の1例を経験した。最近、猫の気管内腫瘍に対する内視鏡処置がはじめて報告されたが、単純にスネア型ワイヤで気道内塊病変を挟み切ったに過ぎず、扁平上皮癌例は数週間で再発した2。今後本症例に対し全身および局所再発のfollowを継続していく予定である。

引用文献
1. 城下幸仁, 松田岳人, 柳田洋介他: 気管分岐部を閉塞する中枢気道内腫瘍に対しinterventional bronchoscopyにて管理した猫の1例, 第29回動物臨床医学会年次大会プロシーディング, No.2, 135-136 (2008)
2. Queen EV, Vaughan MA, Johnson LR: Bronchoscopic debulking of tracheal carcinoma in 3 cats using a wire snare. J Vet Intern Med, 24, 990-993 (2010)


相模が丘動物病院のホームページ|メール
Copyright (C) 2011 Sagamigaoka Animal Clinic All Rights Reserved.