外科 14 犬の肝細胞癌の1例

雑種犬、避妊済メス、12歳1ヶ月。体重23.85kg。クッシング症候群治療中、op'-DDD投与でACTH刺激試験にて比較的安定した結果が得られていたが、ALP値のみ高値(>3500U/L)を示し続け、腫瘍疾患鑑別のため上腹部X線検査施行したところ、肝後腹側部位にマスが発見された。最近、階段を上がらなくなってきたとのことだった。
上腹部X線所見。肝後腹側部位に大きなマスあり。肝または脾由来に思えた。 腹部エコー所見。内部均一、大きな血管なし。脾由来にみえた。 術中所見。肝内側左葉辺縁に直径8cmの腫瘤。脾臓に腫瘍なかった。 病理組織所見。肝細胞癌。正常肝細胞に類似した癌細胞が不規則に配列。
経過:副腎の評価を兼ね、腹部エコー検査を行った。副腎の両側性腫大と脾臓由来と思われるマスがみられた。マスはエコーの縦断面において長径44.5mm×短径26.9mmの内部均一の充実性病変で大きな血管構造はみられなかった。脾臓摘出の予定で開腹手術に臨んだが、マスは肝内側左葉辺縁から生じたものであった。脾臓にマスは存在しなかった。肝葉部分切除術に変更した。周辺の腹腔内リンパ節の肉眼的腫大はみられなかった。術翌日、腹部熱感あり食欲なかったが、2日目には食欲改善し、術後5日目経過良好のため退院となった。病理組織診断は肝細胞癌であった。核小体明瞭な、軽度に大小不同をみる円形不整核と、ビリルビン色素沈着の散見される好酸性ないし淡明で豊富な細胞質を有する正常肝細胞に類似した癌細胞が、不規則な索状配列や腺腔様配列傾向を有する小胞巣を形成して増生していた。退院後、ALP値は次第に減少し、1ヶ月半後には1443U/Lになった。退院後、再び階段を上がるようになったという。
コメント:腹部エコーではマスが胃の後方に存在していました。通常なら脾臓の位置ですが、後にエコー検査時のビデオをよく観察すると脾臓はさらに後方の左腹壁に帯状に存在しておりました。開腹時にもマスによって肝内側右葉辺縁が後尾側方に牽引されて伸び、脾臓の様に扁平になっておりました。マスに連続する組織のエコー原性や脾静脈の流出等をさらによく確認して、腹部エコーにて脾由来か肝由来か術前検査をもっと詳細に行う必要性を実感し、反省させられました。
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