呼吸器 16-g 特発性喉頭麻痺と診断したフラッドコーデッド・レトリーバーに対しtie-back術を実施し喘鳴症状が消失した1例

フラッドコーデッド・レトリーバー、メス、6歳3ヶ月。体重29.80kg。1年前の夏より興奮時喘鳴は始まり次第に悪化。最近は5分歩くと喘鳴始まり座り込んでしまうとのこと。近医で喉頭麻痺の疑いあると言われたが処置せず様子観察とされていた。大阪から来院。
初診時興奮時喘鳴。起立不能。胸郭を大きく膨らます吸気努力あり。 同。頚部ビデオ透視検査。吸気時口咽頭拡張と頚部気管狭窄。 同。喉頭鏡検査。吸気時にも両側ヒレツ軟骨の外転みられず、声門狭窄。 左側(画面左)tie-back術後6日目。喉頭鏡検査。声門は開口した。
経過:心拍数107/分、体温38.8℃。X線撮影時興奮してパンティング始まり、喘鳴となって呼吸困難。起立できなくなった。喉頭にて喘鳴音聴取。胸部X線検査および心エコー検査:異常なし。ビデオ透視検査:安静時には異常観察されなかったが、喘鳴時には吸気時に喉頭が尾側に大きく移動し、口咽頭内ガス貯留のため拡張、頚部気管は狭窄し、ヒレツ軟骨の動きはみられなかった。安静時の血液ガス分析所見(room air): pHa 7.43, Paco2 32 mmHg, Pao2 83 mmHg, [HCO3-] 20.9 mmol/L, BE -1.7 mmol/L, A-aDo2 28 mmHgとほぼ異常なし。カプノグラム(径マスク通常呼吸下):閉塞性パターンがみられた。鼻腔鏡検査:鼻咽頭に閉塞病変なし。喉頭鏡検査にて吸気時にも両側ヒレツ軟骨の外転みられず、特発性喉頭麻痺と診断した。3週間後、左側Tie-back術を行った。術後経過良好であり、散歩で20分以上歩いても喘鳴を起こすことはなかった。術後6日目の喉頭鏡検査にて声門の十分な開口がみられ、喉頭の状態も良好であった。2週間後の退院時に急性胃拡張を起こし突然嘔吐がみられたが、大阪にもどり治療を受け順調に回復した。長期入院における胃運動低下によるものと考えられた。喉頭麻痺に関連する症状ではなかった。術後、暑い日にも喘鳴は全く起こらなくなり、とても元気になったという。
コメント:レトリーバー種は特発性喉頭麻痺の好発犬種です。この犬種で毎夏、次第に呼吸症状が悪化していくような場合、この疾患の可能性があります。通常9歳齢程度で治療を必要とするような状態に進行するとされています。この症例では6歳とやや若齢発症でしたが、フラッドコーデッド・レトリーバーには免疫疾患などが比較的多いという背景と関係があるのかもしれません。
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