呼吸器 16-e 若齢Mダックスに認められた特発性喉頭麻痺の1例

ミニチュアダックスフンド、オス、1歳4カ月齢。体重7.30kg。室内飼育。興奮時喘鳴を主訴に近医受診し心不全と暫定診断されたが次第に症状悪化。1ヶ月後麻布大学を受診したがただちに循環器疾患は否定され、当院呼吸器科診療依頼となった。問診にて、幼少時より運動不耐、数ヶ月前より嗄声、最近1週間ほぼ不眠とのことだった。

初診時。著しい喘鳴のため起立不能。喉頭部で喘鳴音聴取した。 同頚部ビデオ透視検査所見。吸気時にガス貯留による著しい咽頭拡張あり。 第4病日喉頭鏡検査所見。吸気時両側ヒレツ軟骨外転不全がみられた。 第80病日。tie-back術後経過不安定のため永久気管ろう設置。
経過:心拍数138/分、呼吸数36/分。安静時以外は喘鳴のため呼吸困難。呼気努力あり。喉頭にて高音調の喘鳴音は最強、咽頭側でわずかに減弱、頚部気管側に移行すると喘鳴音は減少。肺音にクラックルなし。頚部-胸部X線写真所見:肺野には軽度のびまん性間質陰影あり。他異常所見なし。CBCおよび血液生化学検査: PCV61.4%と多血傾向。血液ガス分析所見(room air): pHa 7.40, Paco2 50 mmHg, Pao2 58 mmHg, [HCO3-] 30.4 mmol/L, BE 5.0mmol/L, A-aDo2 34mmHg。低酸素血症を伴った代償された慢性呼吸性アシドーシス。慢性上気道閉塞による肺胞低換気と考えられた。ビデオ透視検査所見:吸気時、喉頭が尾側に大きく移動し、口咽頭にガスの異常貯留あり。頚部超音波検査所見:吸気時の両側ヒレツ軟骨外転不全あり。カプノグラム(径マスク通常呼吸下):閉塞性パターンがみられた。鼻腔鏡検査:鼻咽頭に閉塞病変なし。緊急処置:喉頭麻痺と暫定診断し気切チューブを設置。ただちに呼吸状態は安定化した。第4病日、内視鏡にて両側性喉頭麻痺を確認し、特発性喉頭麻痺と診断した。そのまま、Tチューブ設置(開放管理)を行った。しかしチューブ内に乾燥した分泌物が付着し管理困難となったため、第19病日左側Tie-back術+Tチューブ設置(閉鎖管理)を行った。それでも興奮時喘鳴症状がみられたので、第80病日、永久気管ろう造設術をおこなった。気管外周の約1/3、長さ4リングを切除し、幅1.5cm×長さ3cmの気管ろうを造設した。術後管理はネブライゼーションとろう孔洗浄のみできわめて経過良好であった。Paco2 36mmHg, Pao2 91mmHgと血液ガスは正常化し、第96病日退院となった。自宅では、ネブライゼーション1日2回、ろう孔洗浄1日3-4回、室内湿度維持、乾燥冷気時外出および全身浴の禁止を指示し、現在、術後6ヶ月間経過良好である。
コメント:特発性喉頭麻痺は、一般的に高齢の大型犬で好発する疾患です。片側tie-back術の経過が比較良好とされています。1歳未満で発症する先天性特発性喉頭麻痺は、ブービエ・デ・フランデル、ロットワイラーなどで起こり四肢不全麻痺を伴い予後不良とされています。1歳4ヶ月齢でMダックスのような小型犬で特発性喉頭麻痺が生じるのは大変まれです。四肢の麻痺症状はみられませんでしたが、喉頭麻痺による上気道閉塞症状は強く、tie-back術を行っても治療反応はよくありませんでした。しかし、気管ろう設置で救命でき自宅生活が可能となりました。若齢期の喉頭麻痺発生は予後要注意といえるかもしれません。
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