呼吸器 8-c 犬の気管虚脱GradeIVに自力拡張型金属ステントEasy WallstentTMの気管内留置を試みた1例

チワワ、去勢オス、7歳6ヶ月。体重6.95kg。昨夜砂肝ジャーキーを食べてから苦しそうな咳が続く。白い泡を吐く。
初診時胸部X線および気管支鏡所見。頚部気管尾側部から胸部気管の扁平化(矢印部分)。 第8病日胸部X線所見。シリコンステント(外径11 mm×長さ90mm)を留置した。 第147病日。気道ステントをEasy WallstentTM(外径12mm×長さ10mm)に交換した。 第259病日気管支鏡所見。右斜め下方部を残しステント内面の全域で上皮化が確認された。
経過:初診時身体検査所見にて、体温38.3(℃)、心拍数104(/min)、呼吸数60(/min)。持続性ストライダーを伴った急性呼吸困難、吐出およびRetchingがみられた。気管虚脱および食道内異物と暫定診断した。胸部X線および透視所見にて、頚部気管尾側部から胸部気管の扁平化(図)、食道造影で食道運動性低下が確認された。全身麻酔下で上部消化器内視鏡検査を行ったが食道および胃内異物はみられず、気管支鏡検査では第5頚椎前端から第7頚椎尾端レベルの気管で完全虚脱がみられた(図)。主気管支以降に虚脱はなかった。よって、気管虚脱GradeIVと診断した。緊急に完全虚脱部位にシリコンステント(外径9mm×長さ55mm)を可及的に留置し覚醒させたが、2時間後にステントは喀出され喘鳴が再開した。ステロイドと抗生剤を吸入療法と注射にて7日間投与を続け初期症状を安定化させた。第8病日、外径11mm×長さ90mmのシリコンステントを留置した(図)。4日後より咳は減少し活動性が増加した。第15病日に血液ガスで換気能と酸素化は正常を示し(それぞれPaco2 37 mmHg、Pao2 80 mmHg)退院とした。しかし次第に咳症状が悪化し、第112病日にはPao2 72 mmHgおよびA-aDo2 39 mmHgと肺機能低下を示し、気管支肺胞洗浄液(BALF)の解析では総細胞数3665/mm3と著増し好中球が71%と多数を占めた。有意な起炎菌は検出されず、排痰障害が示唆された。排痰障害改善のため第147病日シリコンステントを抜去し、外径12mm×長さ10mm[full open]の円筒型メッシュ状の自力拡張型金属ステントEasy WallstentTMを留置し気管の十分な拡張を得た(図)。翌日より咳は著明に減少し、4日後に全身状態が回復した。6日後には肺機能正常化し(Pao2 82 mmHgおよびA-aDo2 21 mmHg)退院となった。第259病日、血液ガスにてPao2 81 mmHg、A-aDo2 26 mmHgおよび気管支鏡検査にてBALF総細胞数255/m3を示し、再留置前の排痰障害による肺機能低下は改善されていた。また、ステント内面のほぼ全域にわたる上皮化も確認された(図)。全経過を通じて自宅で、排痰補助、気道内炎症抑制および肉芽形成防止のため、生食3 ml、ゲンタマイシンあるいはアミカシン 0.1 ml、およびデキサメタゾン0.1 mlを混じた薬液の吸入療法を1日2回行った。197病日より発咳予防ためブトルファノール0.05mg/kg q12h POを始めた。激しい運動は避け、なるべく吠えないように管理した。

コメント:Easy Wallstentは人の血管拡張で用いられています。内科療法に反応しない犬の重症気管虚脱の長期管理に有効であったとの報告が海外にあり、今回適用して良好な結果が得られました。シリコンは緊急処置には有用ですが、長期に及ぶと排痰障害が生じるかもしれません。犬気管虚脱に対する気道ステント療法は、外科療法に比べ迅速かつ非侵襲的であり、また胸部気管にも適用可能となるというメリットがあります。Easy Wallstentによる気道ステント療法は犬の重度気管虚脱治療に非常に有力な手段であると思われました。
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