呼吸器 8-b 慢性発咳を示した胸部気管虚脱に対しシリコン製気道ステントにて長期管理に成功したヨーキーの1例

ヨーキー、オス、11歳11ヶ月。体重2.75kg。「1ヶ月前より飲水後、興奮時、夜間に急に苦しそうな咳をする」とのことで鹿児島から来院。大学にて気管虚脱の診断は受けていたが積極治療は困難とのことだった。
初診時胸部X線所見。胸部気管前部の扁平化およびLB1に結節影あり。 初診時気管支鏡所見。胸部気管前部に気管虚脱(GradeIII)あり。 第21病日。ステント設置後のX線所見。気管は拡張した。食道チューブあり。 第116病日の気管支鏡所見。肉芽形成・菌コロニーなし。固定糸がみえる。
経過:初診時、身体検査にて発熱なく、元気なく、飲水時誤燕あり。CBCおよび生化学で白血球数24000/μl、BUN 80.0 mg/dlと上昇、胸部X線所見で胸部気管前部が扁平化およびLB1に結節影あり、血液ガス分析ではpHa 7.415, Paco2 34.1 mm Hg, Pao2 91.5 mm Hgで正常。第6病日の気管支鏡検査にて頚部気管後部から胸部気管前部にかけ気管虚脱みられ、GradeIIIと診断した。LB1のブラシ生検では有意な細菌は検出されず、細胞診でも炎症・腫瘍なかった。飲水困難を伴った胸部気管虚脱GradeIIIと臨床診断した。内科治療を始めたがやはり飲水ごとに強くむせる症状あり脱水症状が生じた。第21病日、シリコン製の気道ステントを作成し設置した。同時に食道造瘻チューブを設置した。その後、内科療法(抗生剤、去痰剤、気管支拡張剤、ステロイド間欠投与)、ネブライゼーション、径チューブ輸液を行い、口からの飲水を制限した。術後、軽い乾咳が残るも苦しそうな状況は全くなくなり全身状態は改善した。1ヶ月後、自宅でネブライザーと径チューブ輸液を中心とした治療を行い咳症状はさら軽快した。第90病日、第116病日に気管支鏡検査にて経過観察を行ったが、ステント内に肉芽形成・菌コロニーの形成なかった。現在、約1年が経過しているが間欠的に自宅療法を行うだけでほぼ支障なく通常の生活をしている。
コメント:シリコンステント治療で長期管理に成功した例です。気管虚脱に飲水障害も合併し管理が非常に難しい症例でした。ステント療法の外科療法に対するメリットは、気管にあたえる外科侵襲が非常に少ないことです。さらにシリコンは生体への刺激が少ないという特徴があります。ただ、排痰補助のためネブライゼーションを行う必要があります。この犬もネブライゼーションを行うと非常に心地よさそうにするそうです。飲水障害と気管虚脱の関係は以前より示唆されているものの、まだその原因はよくわかっておりません。いずれにしても、気管虚脱とむせる症状が同時に起きている場合、非常に治療が困難になると思います。本症例は学会発表されました。
home|メール
Copyright(c) 2006-2007 Sagamigaoka Animal Clinic. All rights reserved.