呼吸器 3-b 中枢気道内に末梢気道から喀出された多数の粘液栓を発見できた猫喘息の1例

ソマリ、メス、8歳10ヶ月。体重4.18kg。3ヶ月前より発作性発咳が毎日1-2回、20秒位続く。時間帯や興奮に関係なく突然始まる。咳のあとは元気になる。食欲元気あり。
初診時胸部X線写真。肺野および心陰影に異常を認めず。 気管支鏡所見。LB2D1より白色円柱状物が飛び出してきたようにみえた。 同。RB4内にも同様の白色円柱状物がみえた。 白色物の細胞診標本。線毛上皮細胞、好酸球、杯細胞を含む粘液であった。
経過:初診時、身体検査にて発熱なく、心音・肺音に異常なし。CBCにて好酸数増加(2332/μl)、胸部X線写真にて肺野および心陰影に異常を認めず、糞便検査にて虫卵(−)、血液ガス分析ではpHa 7.43, Paco2 25 mmHg, Pao2 115 mmHg、A-aDo2 7.1 mmHgを示し異常なし。猫喘息が疑われたが感染・腫瘍・免疫疾患の鑑別と確定診断のため気管支鏡検査を行った。肉眼所見にて左右主気管支内に白色円柱状物が多数みられた。これはブラッシング細胞診にて、気管支粘膜上皮細胞、好酸球、杯細胞を含む粘液塊であることが分かった。末梢気道で形成され喀出された小粘液塊と考えられた。気管支肺胞洗浄液(BAL)[RB2, 10ml×3, 回収率90%]にて総細胞数の軽度増加(421/μl)、好酸球数の増加(26.75%)がみられた。BAL液の培養にて細菌も真菌も検出されなかった。以上所見より、猫喘息と診断された。同時に行った特異的血清IgEアレルゲン検査(92種)にて、羽毛、ハウスダスト、牛肉、卵、大豆、コーン、米、穀草、ジャガイモ、ビール酵母、マグロ、イワシ、カツオ、コットン、カポック、蚊に陽性を示した。診断後、去痰薬のみ(ビソルボン錠 2mg PO q12h)投与開始した。第21病日より食餌を変更しアレルゲンを除去し、空気清浄機などの室内環境も改善した。1週間後、咳は3−4回/週に減少し、第116病日に咳は完全消失した。現在1年3ヶ月経過しているが再発はみられない。
コメント:猫喘息の病態を早期に正確に診断すれば、薬物による継続治療を避けられるかもしれないことを示す症例です。ヒトではステロイド吸入療法前の罹病期間が1年を過ぎると喘息症状の改善効果は低く、逆に6ヶ月以内では著明な改善がみられたという臨床研究データが示されています。気道リモデリングによる非可逆的気道粘膜の器質変化の進展がその理由であろうと考えられています。近年の研究により、猫喘息はヒトの気管支喘息と同様の慢性気道炎症性疾患であることが分かっております。早期診断により、気道リモデリングが可逆的状態のうちに進行を阻止できるかもしれません。この症例では、治療はアレルゲン除去のみでよく、ステロイドを必要としませんでした。猫喘息でのアレルゲンや非特異的気道内刺激物の役割はよく分かっていませんが、アレルギーとして症状が始まることもあることが示唆されました。特徴的な所見は、気管支鏡検査にて気道内に好酸球を含む円柱状小粘液栓が多数みられたことです。末梢気道内での粘液の粘稠化と増量と好酸球浸潤が示唆されました。同時に、この粘液栓の形成と排出が猫喘息の発作性発咳の直接の原因のひとつと考えられました。ヒトの気管支喘息患者でも同じような細気管支鋳型状粘液塊が痰の中に含まれ喘息の補助診断となっています。(本症例は学会講演の中でも取り上げられています。抄録スライドはこちらより)
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