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小動物気管支鏡検査の基礎と実際I

相模が丘動物病院 城下 幸仁

小動物気管支鏡検査は呼吸器疾患への直接的なアプローチ法のひとつである。気道内腔観察、選択的な気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage, BAL)による肺末梢領域の微生物学的診断および細胞診、または直視下や透視下に病巣部位の生検を行なうことを目的とする。少なからず侵襲的検査であり、その意義、目的、リスクを理解し、慎重に適用する必要がある。今回、小動物気管支鏡検査について基本的な考え方と手技について概説する。

検査の意義:人と異なり動物では中枢気道内に腫瘍が存在することはごく稀であり1、気道内占拠病変診断の機会はほとんどない。BALによる感染性疾患や好酸球性炎症の診断および除外が検査前の主な目的となる。しかし、実際に呼吸器症例の気道内を観察してみると、疾患を反映した粘膜異常や、葉気管支の炎症性狭窄・粘液貯留・虚脱・管外圧迫などによる局所的な気流閉塞などの患者固有の状態が発見され慢性発咳や肺機能低下を説明できることが多い。このように、疾患名の確立とともにspecificな状況を把握し、そこにもfocusを合わせた治療方針を決定できるという点で意義があるように思える。また、病変部位の同定は外科切除部位の決定に役立つ。

気管支鏡的分岐命名法:犬の気管支樹は左右の主気管支を軸とする比較的単純な主軸状(monopodial)に分岐していく。この解剖学特徴を生かし犬の気管支鏡的分岐命名法が提案されている2。これは気管支鏡医が利用しやすいように気管支樹を分岐順と走行方向の2つの要素によって単純化されている。図1に仰臥保定下における犬の気管支樹および気管支鏡所見を示した3

適応:胸部異常影(びまん性間質影、限局性肺胞浸潤影、結節影など)、慢性発咳、または喀血を示す患者が適応となる。縦隔や肺門リンパ節などの肺外病変は適応外である。

合併症:肺拡張不全、不整脈の悪化、出血、および気胸がある。しかし、麻酔や検査手技の侵襲を理解すれば予防可能である。ほとんどの猫は検査後嘔吐するが翌日には消失する。

禁忌:全身状態の悪化や重度の心肥大を示す患者は全身麻酔自体にリスクがあり気管支鏡検査に供することはできない。Pao2<60 mm Hgの肺機能低下症例、抗凝固治療中や凝固時間の延長がみられる場合は、検査目的により実施を慎重に考慮すべきである。

術前検査:心電図、CBC・血液生化学、胸部X線、動脈血ガス分析、凝固時間測定を行い、患者のリスクを評価する。肺野の限局性陰影に対しては目的気管支を予定しておく4

麻酔とモニタ:症例に合わせた前処置を行うが、気道内分泌物抑制のためアトロピン0.05mg/kg皮下投与は常に行う。プロポフォールの持続投与(0.1-0.4mg/kg/min)で維持する。検査中は、Spo2、心電図、血圧、およびカプノグラムをモニタする。

手技:著者は透視下、全身麻酔下、仰臥保定で行っている。酸素投与と換気維持のためラリンゲルマスクにY型アダプターを装着したものを口咽頭に設置している。粘膜を擦らないように、左右はrotation、上下はup downで操作しながらスコープを進める。まず、図1に従い肉眼観察、次に肉眼所見部位にブラシ生検、最後に目的気管支またはRB2にスコープを楔入しBALを行う。Spo2が90%未満になれば一度スコープを抜く。全検査は15分程度で終了させる。肉眼観察では粘膜の色/襞/上皮下血管、中枢気道の虚脱/狭窄、分泌物、分岐部の鈍/鋭などをみる。ブラシ擦過は細胞診と微生物検査に供する。BALは滅菌生食水10ml×3回または25ml×3回注入し回収する。回収液を、総細胞数算定、細胞診、Gram染色、細菌培養に供する。細胞診は、急性好中球性炎症、慢性活動性炎症、慢性炎症、好酸球性炎症、出血、腫瘍に分類5して評価する。

図1 仰臥保定下における犬の気管支樹の模式図と正常な気管支鏡所見3。 番号順に観察する。

(引用文献一覧)

(1)  Dungworth DL, Hauser B, Hahn FF, et al. WHO Histological Classification of Tumors of the Respiratory System of Domestic Animals. Washington, D. C.: AFIP; 1999.

(2)  Amis TC, McKiernan BC. Systematic identification of endobronchial anatomy during bronchoscopy in the dog. Am J Vet Res 1986;47:2649-2657.

(3)  城下幸仁,松田岳人,佐藤陽子,柳田洋介 仰臥保定下における正常犬の気管支鏡所見-2003年発表図譜の修正-. 第26回動物臨床医学会年次大会プロシーディング, 大阪 2005;No.3, 194-195.

(4)  城下幸仁,松田岳人,佐藤陽子,柳田洋介 胸部X線像における犬の気管支樹の模式化. 第26回動物臨床医学会年次大会プロシーディング, 大阪 2005;No.3, 196-197.

(5)  Hawkins EC, DeNicola DB, Kuehn NF. Bronchoalveolar lavage in the evaluation of pulmonary disease in the dog and cat. State of the art. J Vet Intern Med 1990;4:267-274.


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