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喉頭麻痺 ●

犬の症例紹介咳|犬呼吸が苦しそう(咳あり)|犬呼吸が苦しそう(咳なし)|犬呼吸が深く大きい|犬犬の喉頭の病気

英名表記:Laryngeal Paralysis

類義語・同義語・関連語・検索キーワード

片側披裂軟骨側方化術、嗄声、ストライダー、多発性神経筋障害、geriatric onset laryngeal paralysis polyneuropathy (GOLPP) 、acquired idiopathic laryngeal paralysis (AILP)

病態

喉頭麻痺とは、固有喉頭筋群を支配する反回喉頭神経の機能不全により、披裂軟骨、声帯ひだの正常運動が障害され、部分的気道閉塞が引き起こされた状態である(図1)。運動不耐性、興奮時の高調ストライダー(図2)を示し、病態進行により嗄声、咳嗽、レッチング/ギャギングを呈し、さらに続発的に誤嚥性肺炎や陰圧性肺水腫を引き起こした重症例においては吸気困難、高体温をみとめ、致死的な病態になりうる。先天性、後天性、後天性特発性に分類され、併発症状は異なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 喉頭の動き。A 正常安静時、B 吸気時に両側背側輪状披裂筋が収縮し披裂軟骨が外転し、声帯ひだが緊張している。このようにして喉頭で気道抵抗を最小限にしている。(文献1-p319、Figure 41-1より転載)

 

図2 喉頭麻痺と診断された12歳、オスのラブラドールレトリーバーのストライダー症状。X線検査中に興奮して発症。伏臥となり、開口し、肋骨が浮き上がるほどの吸気努力、吸気時高調連続性の異常呼吸音を示す(画像提供:犬・猫の呼吸器科)。

原因と発症傾向

先天性喉頭麻痺は、遺伝性要因である神経障害によるものと考えられている。1歳齢未満で生じ、ポリニューロパチーによる四肢の歩行障害や食道拡張症を伴い、進行性で予後不良である。ブービエ・デ・フランダース、シベリアン・ハスキー、ダルメシアン、ロットワイラー、イングリッシュ・ブル・テリア、ラブラドール・レトリーバー、イングリッシュ・セッターで好発すると報告されている1。後天性喉頭麻痺は、反回神経の経路である前胸部や頸部の外傷や外科手術侵襲に継発しての発症や、甲状腺機能低下症の一症状として現れることもある(図3)。後天性特発性喉頭麻痺は、二次性の要因がなく、中、高齢期に生じる。従来より、後天性特発性喉頭麻痺の犬では、中枢性や末梢性神経障害が同時にみられることが知られていたが、近年では緩徐進行性の全身性神経筋障害の一症状であると理解されている2-4。一般に高齢の大型もしくは超大型犬種で発生するとされているが、中型、小型、もしくは超小型犬種でも発生する。セント・バーナード、レトリーバー種、アフガン・ハウンド、セッターでよく発症する1。後天性特発性喉頭麻痺はもっとも発症頻度が高い1。雄で発症が多く、平均年齢は7から12歳齢である1。猫の喉頭疾患35例の報告では喉頭麻痺が最も多かった(14/35例)。次いで喉頭腫瘍(10/35例)、炎症性喉頭疾患(6/35例)の順でみられた5

図3 甲状腺機能低下症を伴い後天性喉頭麻痺と診断された11歳、オスのシェットランドシープドッグ。広範な膿皮症、傾眠も伴っていた(画像提供:犬・猫の呼吸器科)

診断

嗄声、興奮後高調ストライダー、運動不耐などの典型症状が認められた場合、喉頭麻痺を疑う必要がある。好発犬種、年齢などのシグルナルメントと典型症状から91.6%の特異性、98.5%の感度で診断がつくと報告されている6。同様の症状を示す閉塞性喉頭疾患に、炎症性喉頭疾患、喉頭腫瘍、喉頭虚脱、喉頭狭窄があり、確定診断は内視鏡で行う。

診断のレベルは、

確定(Definite):内視鏡検査にて喉頭腫瘍や喉頭狭窄を除外し、吸気時披裂軟骨の外転運動がなく、吸気時内転や接着がみとめられる。

疑い(Possible):好発犬種、好発年齢に嗄声、興奮後高調ストライダー、運動不耐などの症状あり。

可能性あり(Probable):嗄声、興奮後高調ストライダー、運動不耐などの症状あり。

臨床徴候

嗄声、興奮時ストライダー、吸気努力、運動不耐である。進行性で、気候により症状の重症度に変化があり、一般的には夏に悪化が見られることが多い。

血液検査

特異的所見を示さないことが多いが、誤嚥性肺炎を生じていれば、白血球数やCRPの増加がみられる。身体検査所見で、甲状腺機能低下症が疑われれば、甲状腺ホルモンの定量を行う。

血液ガス分析

動脈血ガス分析では、安静時には正常に近い値を示すこともあるが、ストライダー発症時には肺胞低換気による低酸素血症、高炭酸ガス血症、AaDo2の軽度開大(20から30mmHg)がみとめられる。ある報告によると、軽度、中程度、重度の喉頭麻痺の犬をそれぞれ鎮静下で血液ガス分析を行ったところ、動脈血酸素分圧(Pao2)値はそれぞれ85±7, 80±3, 51±7 mmHgであった。同一処置の健常犬のPao2値は91mmHgであった7。経過の長い重篤な喉頭麻痺症例ではたとえ安静状態であっても、肺機能低下を起こすことが分った。

画像検査

・X線検査および透視検査

後天性喉頭麻痺の二次性要因や他疾患との鑑別、巨大食道症、誤嚥性肺炎、陰圧性肺水腫などの予後不良性の合併症の確認のため、頸胸部X線検査を行う。また頭頸部透視検査にて、喉頭麻痺の場合、吸気時に口咽頭部の著明な拡張、喉頭の降下、頸部気管の動的虚脱がみられる。このような所見がなく、披裂軟骨の外転運動(呼吸に合わせて喉頭前端部に濃淡変化がみられる)が認められれば、喉頭麻痺は生じていない可能性が高い。

・超音波検査

非侵襲的に実施でき、炎症性疾患、腫瘤の評価、または治療後の効果判定に有用である。犬30症例において、喉頭超音波検査と喉頭鏡下観察とで、披裂軟骨の運動消失所見が全例で一致したという報告がある8。猫17症例においても、同様に喉頭の超音波検査が喉頭麻痺の診断に有用であったが、検査技術の習熟が必要であるとされている5

・CT検査

喉頭麻痺のおけるCT検査所見の典型例の記述は見当たらない。

内視鏡検査

最終診断は、浅麻酔下内視鏡検査により喉頭運動を観察し、確定する(図4,5)。正常喉頭運動では、吸気時に披裂軟骨が左右対称性に外転し、呼気時に一定の声門裂間隙を残して内側に戻る9,10(図4)。喉頭麻痺の場合、吸気時で披裂軟骨の外転が全くみられないか、引き込まれることによる内転や接着といった奇異性運動を示すこともある(図5)。麻酔薬の影響で喉頭運動が抑制され、声帯ヒダに動きがみられない場合があるため、顎反射を残す程度の最低限の浅麻酔下での観察、評価が推奨される11,12。導入麻酔薬の選択については、正常ビーグル犬の実験でチオペンタール7.5mg/kg、プロポフォール3mg/kg、アルファキサロン1.5mg/kgの静脈投与で披裂軟骨の動きに有意差がなかったが、検査可能時間中央値はそれぞれ14.1分、5.4分、8.5分となりプロポフォールで検査時間を短縮できたと報告されている10。ドキサプラムの静脈投与により、喉頭の奇異性運動を増強し、喉頭観察を行うことにより、診断精度を高められるという報告もある13。症例の呼吸状態によっては、検査のための麻酔からの覚醒が困難な場合もあるため、診断後、そのまま外科治療へ移行できる準備も必要である。

図4 浅麻酔下喉頭鏡検査所見。十分な自発呼吸を残した状態で観察する。助手に吸気と呼気を知らせてもらいながら観察する。下段は図01の症例の所見。検査後、左側披裂軟骨側方化術を実施。声門裂は開口固定された。症例では、声門裂の狭小化、吸気時披裂内転があることに注目(画像提供:犬・猫の呼吸器科)。

図5 喉頭麻痺と診断された11歳、オスのスタンダード・プードルの浅麻酔下喉頭鏡検査所見。上段は術前、下段は術後。術前、吸気時に強く披裂内転と声帯ひだの接着があることに注目(画像提供:犬・猫の呼吸器科)。

治療

(1)初期対処:上気道閉塞により呼吸困難を呈す重症例では、診断のための検査より状態の初期安定化を優先し、徹底したクーリング(冷たい床におく、風を当てるなど)、酸素投与、抗炎症量のステロイド剤や鎮静剤投与等の緊急治療が必要な場合がある。冷温可能なICU管理はとくに有効である(図6)。初期治療に反応が乏しい場合、気管内挿管や気管切開による気道確保が必要になる。

(2)内科療法:軽度な喉頭麻痺では内科治療に一定の反応を示すが、病態は進行性であるため、いずれは外科治療が必要になる。甲状腺機能低下症が認められれば、甲状腺ホルモン補充を行う。甲状腺ホルモン補充治療により、甲状腺機能低下症に起因する喉頭麻痺が良化したとする報告もある14。誤嚥性肺炎または原発性食道拡張症が認められれば、まず肺炎治療を十分に行う。ポリニューロパチーが認められた場合、ヒトでは有効性が示された薬物治療の報告はない15

(3)外科療法:外科治療として各種術式が報告されているが、片側披裂軟骨側方化術(Tie- back術)が最も報告が多く、一般的な術式として捉えられている1,12。披裂軟骨側方化術は両側に比べ、片側の側方化の方が生存期間、合併症発生率といった点で良好であるため、片側の側方化が推奨される16。近年の報告では合併症発症率は10から30%で、飼い主の96.6%はQOLが改善したと判断している17,18。合併症として最も問題となるのは誤嚥性肺炎であり、その周術期発生率は33%であったが、シサプリドの周術期定速静脈内投与にて発生率が7%になったという報告がある19。他術式としては、声帯部分切除術や喉頭部分切除術があり、声帯部分切除術は肉芽形成による再狭窄が術後平均19週でみられる等、再発率が高いと報告されている20。喉頭部分切除では、術後の重度誤嚥性肺炎による死亡率が高く、推奨されない21-23

図06 喉頭麻痺犬に対する初期治療。ストライダーを示した13歳、メスのボーダーコリー(上)。夏期に喉頭麻痺が疑われ受診。ICUケージにて23℃、酸素濃度25%にて管理、床には冷温ジェルマット、首周囲には保冷剤をまき、30分でストライダーは消失した(下)。この犬は喉頭鏡検査にて喉頭麻痺と確定診断された(画像提供:犬・猫の呼吸器科)。

予後

犬の予後は病因に依存する。先天性喉頭麻痺は2年以内に死亡するとされ、予後不良(Poor)である24。後天性喉頭麻痺のうち外傷性症例は予後良好(Good)だが、腫瘍関連性や、誤嚥性肺炎や原発性食道拡張症を伴った場合は予後要注意(Guarded)である。後天性特発性喉頭麻痺は予後要注意(Guarded)である。外科的治療後の一定期間はQOLを維持できるが、1年以内にほぼ全例が神経筋疾患、運動失調、筋萎縮、後肢麻痺、前庭障害などの進行性の全身性神経症状を呈し3、生存期間中央値は285日間と報告されている18。しかし近年では7年生存率75.2%と長期転帰良好の症例は多く25、ポリニューロパチーの進行の程度も差があることが示唆されている。猫の喉頭麻痺は予後要注意(Guarded)である。従来から難治性であるとされていたが、近年では、猫の喉頭麻痺に片側性披裂軟骨側方化術を実施し、14症例中、周術期合併症は3例で、報告時点の経過観察期間の生存期間中央値が11カ月、また10症例で生存期間中央値は150日間であったとする報告があり26,27、以前の報告と比較すると良い成績が得られている。

未解決の問題、特記事項

大規模調査から術後1年以内の誤嚥性肺炎発症率は18%ほどで、適切な処置をすれば致命的に至ることはほとんどないことわかってきた。一方、術後2週間以内に食道拡張を発症する確率がわずかだが3.8%あり、その場合誤嚥性肺炎発症と強く関連し、生存率も減少した25。しかし、術後早期に食道拡張症が発症する要因や予防策はまだ明らかとなっていない。術後2週間は経過観察を怠らないようにする必要がある。

引用文献
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(犬・猫の呼吸器臨床研究会 上大岡キルシェ動物病院 山下智之)

当院呼吸器科の見解と対処

臨床徴候と検査所見

  1.  固有喉頭筋群に分布する末梢神経の障害によって披裂軟骨と声帯ヒダの正常な外転や内転ができなくなっている状態のことをいう。とくに背側輪状披裂筋に分布する反回喉頭神経の変性によって声門裂が吸気時に外転して喉頭気道を広げることができなることが犬では問題となる。
  2. 先天性喉頭麻痺、後天性喉頭麻痺、後天性特発性喉頭麻痺の3つのタイプがあり、一般に「喉頭麻痺」と言われているのは、後天性特発性喉頭麻痺である。
  3. 後天性特発性喉頭麻痺は、ラブラドールレトリーバーおよびその他のレトリーバー種、セッター、アフガン・ハウンド、セントバーナードなどの大型犬の7-12歳齢で好発する。
  4. 症状は、嗄声、興奮時ストライダー(ゼーゼー、ヒーヒーいう)を伴った吸気努力、運動不耐を示す。運動や暑熱環境下に暴露されないかぎり重篤な臨床徴候は示さない。ギャギング(ゲーゲー言う症状)、レッチング(悪心を伴う空嘔吐)、単発性咳(喉に何かからまったような強い数回の咳)、咽頭液の喀出(白いトトロイモ状の濃厚な分泌物の吐き出す)などもみられることがある。一部の例で空気嚥下に伴い、嘔吐や吐出がみられる。ストライダー時には高率に高体温が生じ、熱中症の症状が現れる。
  5. 症状は進行性であり、とくに夏期に顕著となる。重症の喉頭麻痺ほど、ストライダー時に開口しなくなり、異常呼吸音は高音調(1000Hz以上)、音量は小さく(60dB以下)、1秒程度の長い持続時間を示す。
  6. 後天性喉頭麻痺は、反回神経の経路である前胸部や頚部の外傷や外科手術後に継発したり、甲状腺機能低下症の一症状として現れたりする。そのため、犬でも猫でも様々な種類で起こりうる。症状は後天性特発性喉頭麻痺と同様である。
  7. 先天性喉頭麻痺は、ブービエ・デ・フランダース、シベリアン・ハスキー、ダルメシアン、ロットワイラー、イングリッシュ・ブルテリア、ラブラドール・レトリーバー、イングリッシュ・セッターの幼齢期から1歳齢未満で生じ、ポリニューロパシーによる四肢の歩行障害や食道拡張症を伴い、2年以内に死亡すると言われている。
  8. 重度の喉頭麻痺症例では安静時でも動脈血酸素分圧が低下している。
  9. 浅麻酔下での内視鏡検査にて吸気時に披裂軟骨小角突起の外転がみられない、または、吸気時に声門裂が内転し呼気時に外転する奇異運動が認められる。
  10. 近年、後天性特発性喉頭麻痺は、緩徐に進行する全身性末梢神経障害の一症状であるということが証明された。そのため、喉頭麻痺に伴い、次第に神経筋疾患、運動失調、筋萎縮、後肢麻痺あるいは前庭障害などの神経症状が出現する。とくに食道機能不全は後天性特発性喉頭麻痺の発症時から潜在していると考えられている。特発性食道拡張症にまで至っている場合、喉頭麻痺との相互作用の結果、誤嚥性肺炎を生じやすい。これら全身性末梢神経障害の程度をよく把握することは、喉頭麻痺の外科療法とされている片側披裂軟骨側方化術後の効果や合併症やQOLへ与える影響を考える上で不可欠であり、全身症状も考慮して手術適応を慎重に検討しなければいけない。
  11. ストライダー発症時は、密閉した空間にいれば解放された場所に移動する、風にあてる、日陰や木陰など気温の低いところに移動する、水をかける、冷たい水をのませる、砕いた氷をたべさせる、など体温を急速に下げる処置をできる限り行う。肥満でなく、いびきがなければ、冷温処置と合わせ鎮静剤(アセプロマジン0.05-0.1mg/kg SC)と酸素投与(1-2L/分)を行うと有効である。

当院呼吸器科診断基準

  • 嗄声、興奮時ストライダー、興奮時チアノーゼや失神、熱中症歴などの症状がある(必須)
  • チオペンタール2.5-5.0mg/kgIVによる浅麻酔下(眼瞼反射かつ喉頭反射あり)の喉頭鏡検査にて喉頭にマス病変や虚脱などの器質的異常がみられず、吸気時に披裂軟骨小角突起の外転がみられない、または、吸気時に声門裂が内転し呼気時に外転する奇異運動が認める(必須)
  • 積極的治療の第一選択は片側披裂軟骨側方化術である。当院での本手術適応基準の考え方は以下のとおりである

 

  • グループA:片側披裂軟骨側方化術適応。以下条件を全て満たした場合、術後良好な症状改善と安定したQOL改善が見込まれる。
      1. 3ヶ月以内に興奮時に重度ストライダーやチアノーゼの経験がある。またはそのため救急受診が必要となった。
      2. 年齢10歳以下
      3. 階段の上り下りが自由に問題なく可能。診察台上にてしっかり起立することができる。
      4. 動脈血酸素分圧が85mmHg以上
      5. 胸部X線検査にて浸潤影や間質影が認められない。
      6. 吐出やgaggingなど食道機能低下所見が全く認められない。
  • グループB: 以下の場合は手術適応を個別に慎重に検討する必要がある。
      1. 3ヶ月以内に興奮時に重度ストライダーやチアノーゼの経験がある。またはそのため救急受診が必要となった。
      2. グループAの2-6の基準のうち該当しない項目が2つ以下
  • グループC: 以下の場合は手術は推奨されない。陰圧性肺水腫合併が疑われる場合は術後1-2週間ほど冷温(20-25度)、酸素濃度(25-30%)管理可能なICU管理を要する。
      1. 3ヶ月以内に興奮時に重度ストライダーやチアノーゼの経験がある。またはそのため救急受診が必要となった。
      2. グループAの2-6の基準のうち該当しない項目が3つある
  • グループD: 非適応。以下のうち4つ以上当てはまる場合は、術後起立不能や誤嚥性肺炎を引き起こす可能性が高く、術後QOL維持を保証できない。
      1. 半年以上前から興奮時に重度ストライダーやチアノーゼを毎月1回以上繰り返している。
      2. 年齢12歳以上
      3. 階段の上り下りや段差をスムーズに動けない。診察台上にて後肢がふるえ起立できない。
      4. 動脈血酸素分圧70mmHg未満
      5. 胸部X線検査にて浸潤影や間質影あり
      6. 吐出やgaggingが日常的にみられる
      7. 安静時も呼吸が早い
      8. 一日を通じて横になっている時間が多い
      9. 誤嚥性肺炎歴がある
  • 片側披裂軟骨側方化術の実施が好ましくない場合、第二選択治療として永久気管切開術を行う。以下のような場合になる。永久気管切開術後は完全室内管理が必要となる。

喉頭麻痺によるストライダーの症状を繰り返しており、

    1. 誤嚥性肺炎歴がある。
    2. 胸部X線所見にて食道拡張があり、吐出やgaggingが日常的にみられる。
    3. すでに歩行困難、横臥状態にある。
  • 後天性喉頭麻痺の場合
      •  - 喉頭麻痺診断+甲状腺機能低下症→手術選択ではなく、一時的気管切開+甲状腺ホルモン置換療法
      •  - 喉頭麻痺診断+外傷や経胸部外科手術後→まず温存対処。そして原因対処。
  • 先天性喉頭麻痺の場合
      •  - 末梢神経障害による食道機能不全がすでに合併している危険性が高いので永久気管切開術を選択する。

喉頭麻痺の詳細について

症例

確定診断症例数 27例(-150819)

症例① フラッドコーテッド・レトリーバー メス 6歳、片側披裂軟骨側方化術

症例②③④ ②Mダックスフンド オス 1歳、③ フラッドコーテッド・レトリーバー メス 6歳、 ④シェルティ オス 11歳

症例5 ラブラドール・レトリーバー メス 12歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例419)、片側披裂軟骨側方化術

症例6 雑種犬(体重17.40kg) オス 12歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例428)、甲状腺癌による後天性喉頭麻痺

症例7 ゴールデン・レトリーバー オス 10歳(気管支鏡検査アーカイブ 症例440)、片側披裂軟骨側方化術

症例8 ラブラドール・レトリーバー オス 12歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例443)、片側披裂軟骨側方化術

症例9 ラブラドール・レトリーバー メス 11歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例448)、片側披裂軟骨側方化術

症例10 スタンダード・プードル オス 11歳  (気管支鏡検査アーカイブ 症例452、 気管支鏡検査アーカイブ 症例473)、片側披裂軟骨側方化術

症例11 ゴールデン・レトリーバー オス 13歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例453 気管支鏡検査アーカイブ 症例408)、片側披裂軟骨側方化術

症例12 ラブラドール・レトリーバー メス 12歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例456)、片側披裂軟骨側方化術

症例13 ヨークシャーテリア メス 8歳  (気管支鏡検査アーカイブ 症例474気管支鏡検査アーカイブ 症例479)、片側披裂軟骨側方化術

症例14 ラブラドール・レトリーバー オス 12歳  (気管支鏡検査アーカイブ 症例481)、片側喉頭麻痺のため温存療法

症例15 ラブラドール・レトリーバー オス 15歳  (気管支鏡検査アーカイブ 症例482)、片側披裂軟骨側方化術

症例16 ボーダーコリー メス 13歳 (気管支鏡検査アーカイブ 症例541)、片側披裂軟骨側方化術