相模が丘動物病院のホームページ|メール


気管気管支軟化症を示す犬の胸部気管に自己拡張型金属ステントUltraflexTM Diamondの留置を試みた1例-会場での討論

Q1: 喉頭麻痺はなかったか?麻酔導入時に喉頭の動きに少しでも異常はなかったか?
A1: ステント設置後に気管支鏡検査を行い、喉頭麻痺所見はありませんでした。術前にも、上気道閉塞症状もみられませんでしたし、不全麻痺症状を示す飲水後のgaggingもありませんでした。

Q2: 破損ステント後の処置・管理はどう考えているか? 抜去できないのか? 穿孔の可能性はないか?
A2: 抜去するにも全身麻酔が必要となり、そのときまた重篤な呼気時虚脱が生じる可能性があり、呼吸管理が困難となります。ステント設置後は気管チューブ挿管は不能となり、ラリンゲルマスク設置下での作業となります。そのため充分な機械換気ができなくなり、そのうえ一般に金属ステント抜去は非常に困難ですので、やれるとしても非常に時間がかかり、その処置を行うのは得策ではありません。幸い、Ultraflexの素材は非常に軟らかく、よほど頚部の動きが大きくなければ穿孔はしないようです。ですから、ステントはそのままにして、気管支拡張療法を徹底して行う、胸部気道の開存を得るという治療方法を貫くことにいたしました。

Q3: 自分はステント留置後、咳がひどくなり、ステント内に大量の肉芽を形成し気道の閉塞を起こして死亡してしまった症例がある。この症例はどうか? 破損後の経過はどうか?
A3: 全身麻酔を行えないのでステント周辺に生じる肉芽を確かめることはできませんが、ステント設置直後より、肉芽形成防止のためにステロイドを混じたネブライゼーションを行っております。ステント刺激による目立った咳はありませんでした。肉芽形成は予期できる合併症ですからこの処置ははじめから1日2回徹底して行っております。ステント破損を確認したのは第28病日ですが、その後ネブライザーに気管支拡張剤を加え、18日後の第45病日には気管虚脱と気管支軟化症による虚脱は改善傾向になりました。抄録作製からさらに数ヶ月経過しておりますが、現在もこの吸入治療を続け、本症例の一般状態は良好であります。

Q4: 気管気管支軟化症という診断名は獣医学では確立されていないように思う。これに関してコメントをください。
A5: 同様の状態をいうのに「気管支虚脱」と「胸部気管虚脱」などがあると思われますが、気管支虚脱という語も疾患を指すわけではなく、状態を表現する言葉です。胸部気管も気管支も連続しているものですし、ヒトではこの周囲の気道虚脱の状態を気管気管支軟化症と表現しているので、一言で言い表すのが適当と考えました。でも、たしかに確立されていない疾患名ですので、ご助言のとおり、まだ慎重に使用しなければいけなかもしれません。

Q5: ヒトでのステント留置後の破損率はどれくらいなのか?動物の場合はどうか? 演者の経験はどうか?
A5: ヒトでもステント留置後破損事故は報告されております。ただ、発生率として記載された報告を私はみておりません。ただ、最も早く破損が生じた例でもヒトでは7ヶ月という報告がある程度で、これほど早く破損が生じる例はありませんでした。ヒトでは主に悪性疾患に対して使用されるのでその違いもあるかもしれません。動物ではまだ気道ステント療法は始まったばかりなので、破損率を述べられません。ちなみに私は気管虚脱の気道ステント療法はこれで2例目で、1例目は違うWallstentを用いました。後者は、かなり拡張力が高く私は頚部から胸郭前口部の気管虚脱に対して用い良好な経過が得られました。このWallstentは犬の重度気管虚脱の治療に用いられ、海外で24例施行中22例成功したとの報告がひとつあります。その報告のなかでもこのステント自体の破損については記載がありませんでした。


相模が丘動物病院のホームページ|メール
Copyright (C) 2011 Sagamigaoka Animal Clinic All Rights Reserved.