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犬の鼻腔内異物3例

城下  しろした  ゆきひと 1) 松田  岳人 (まつだ  たけと 1) 谷川  たにがわ  ひと) 2)

1)相模が丘動物病院(神奈川県)、2)南台どうぶつ病院(東京都)

犬の鼻腔内異物3例を経験した。いずれも鼻腔鏡検査が診断に有用であった。口腔よりスコープを挿入し軟口蓋後縁にて反転し咽頭鼻部をみた。1例はイネ科雑草であり内視鏡下摘出可能、1例は自ら食いちぎった尾端であり外科的に咽頭鼻部への腹側アプローチにて摘出、1例は咽頭鼻部の先天性狭窄に伴った鼻道内骨片であり外科摘出した。

キーワード:犬、鼻腔内異物、鼻腔鏡検査

はじめに

鼻腔内異物の発生はまれである。難治性鼻道閉塞症状を呈する犬42例のうち鼻腔内異物と診断されたのはわずか3例(7%)だけであったという1。腫瘍が最も多く14例、鼻炎がそれに次いで10例であった。今回、鼻腔鏡検査が有用であった犬の鼻腔内異物3例を経験したので報告する。

症例1

2歳10ヶ月齢 去勢雄 パグ。体重15.10kg。主訴は「8日前に草が鼻に詰まった」。受診時、パンティング、激しいくしゃみ、および多量の漿液性鼻汁あり、鼻をズーズーしていた。胸部X線に異常なく動脈血酸素分圧PaO2は89.9 mm Hgで正常。全身麻酔下、鼻腔鏡検査にて咽頭鼻部を観察した2。左右の後鼻孔をまたがる異物を確認した(図1)。把持鉗子にて容易に除去できた。異物は長さ3.6 cmのイネ科の雑草の穂先部分であった(図2)。

症例2

5歳7ヶ月齢 雄 ミニチュア・ダックスフンド。体重7.7 kg。脊髄腫瘍による両後肢対麻痺と尾の麻痺を示し片側椎弓切除術を行った。術後6日目ほぼ歩行可能となった。しかし、違和感のためか尾先端部を食いちぎり、すぐに吐出したが咽頭鼻部に詰まってしまった。以降、鼻をズーズーする苦しそうな症状がみられるようになった。鼻腔鏡検査にて出血にまみれ毛を有する異物が認められたが内視鏡下で摘出不能であった(図3)。外科的に咽頭鼻部への腹側アプローチ3によって摘出した(図4)。異物は長さ5 cmの尾端であった(図5)。翌日より鼻症状は消失した。

症例3

3歳2ヶ月齢 雄 ノーフォーク・テリア。体重6.14 kg。「6ヶ月前の開腹手術直後に吐物の鼻道逆流あり、以来鼻詰まり症状が続いている。」とのことで紹介来院。大学病院にて頭部CT検査を受け慢性鼻炎と診断され抗生剤治療を受けたが改善なかった。受診時、粘漿性鼻汁あり。熟睡できない。PaO2 93.6 mm Hgで正常。鼻腔鏡検査にて咽頭鼻部の狭窄と後鼻孔部位の白色物を認めた(図6)。白色物は鉗子で移動しなかった。両側の外鼻孔より外径3.6mmのフィラリア鉗子を挿入したが後鼻孔部を通過できなかった。異物の強い陥入か何らかの骨変形が疑われ、症例2同様、腹側アプローチ3による外科整復を試みた。後鼻孔のあたりで3~4mm大の薄い骨片を摘除後、両側の鼻道が貫通した。しかしその直後心停止した。一度蘇生したが再度心停止し救命しえなかった。CT所見を再評価し、咽頭鼻部の重度な先天性狭窄があったことが判明した(図7)。

主治医の意見

犬の鼻腔内異物3例を経験した。一般に、鼻腔内異物の診断・治療は異物の形・大きさや場所によるが2、鼻腔鏡を必要とする。今回も鼻腔鏡検査が有用であった。

症例1は内視鏡にて異物を摘出できた。症例2では鼻腔鏡による異物同定が術式選択決定に役立った。この外科的咽頭鼻部腹側アプローチはこの部分に滞留した異物を低侵襲下に除去するのに適していると考えられた。症例3も鼻腔鏡にて器質的な後鼻孔の狭窄を確認できた。

症例3では左右対称性に咽頭鼻部の先天性狭窄が存在していた。鼻甲介の変化は少なく慢性鼻炎によって生じたものではないと判断された。後日、ほぼ同じ体格の犬で同様に外鼻孔より同じフィラリア鉗子を挿入したところ、容易に後鼻孔を通過し咽頭鼻部に達した。内視鏡でみられた白色物は鋤骨の一部と思われた。咽頭鼻部の先天性狭窄についての文献はない。摘出された骨片はヒハク化した鋤骨の先端部と思われた。

さらに症例3ではその骨片除去操作に伴い心停止に陥った。咽頭鼻部の先天性狭窄や長期間にわたる鼻道内の膿性鼻汁蓄積によって脳底周辺の構造に何らかの変化があったかもしれない。しかし頭部X線やCT所見から心停止に至る原因を究明できなかった。

参考文献

1. Tasker S, Knottenbelt CM, Munro EA, et al. Aetiology and diagnosis of persistent nasal disease in the dog: a retrospective study of 42 cases. J Small Anim Pract. 40:473-478, 1999

2. Aronson L. Nasal Foreign Bodies. In King L, (ed): Textbook of Respiratory Diseases in Dogs and Cats. Saunders. Philadelphia . 2004, pp302-304.

3. Nelson A. Upper Respiratory System. In Slatter D, (ed): Textbook of Small Animal Surgery. 2nd ed. WB Saunders. Philadelphia . 1993, pp733-776.


図1 症例1の鼻腔鏡所見。左右の後鼻孔をまたがる異物が認められた。


図2 症例1より摘出した鼻腔内異物。イネ科の雑草であった。


図3 症例2の鼻腔鏡所見。出血にまみれ毛を有する異物が認められた。


図4 症例2の術中所見。咽頭鼻部への腹側アプローチによって摘出した。


図5 症例2より摘出した鼻腔内異物。尾端であった。


図6 症例3の鼻腔鏡所見。咽頭鼻部は狭窄し内部に白色物がみえた。


図7 症例3の頭部CT断層所見。咽頭鼻部(中央)の著しい対称性狭窄がみられた。鼻道内に大量の鼻汁蓄積もみられる。


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