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ポスターセッション

犬猫における気管支鏡検査−気道内治療I

城下 幸仁1)、山本 洋史1)、松田 岳人2)、岡西 広樹2)、高橋 多樹2)、秋吉 亮人2)、小野 かおり2)

Yukihito SHIROSHITA, Hiroshi YAMAMOTO, Taketo MATSUDA, Hiroki OKANISHI,

Masaki TAKAHASHI, Makoto AKIYOSHI, Kaori ONO

Bronchoscopy in dogs and cats: interventional bronchoscopy I

1)相模が丘動物病院 呼吸器科、2)同 一般診療科:〒228-0001  神奈川県座間市相模が丘6-11-7

連絡先:Tel 046-256-4351  Fax 046-256-6974  E-mail shiroshita@sagamigaoka-ac.com


犬猫において気管支鏡を用いた気道内治療の手技と実際について概説した。

キーワード:気管支鏡検査、気道内治療

はじめに

犬猫の気管支鏡検査は呼吸器診療において非常に有用な診断ツールである。150症例ほどの犬猫の気管支鏡検査の実施経験の中で、気道内治療の機会も生じてきた。今回、現時点まで試みてきた気道内治療の手技と実際について概説する。

気道内治療の長所および注意点

近年、挿入部外径4.0mmと細径ながらチャネル径2.0mmを有する軟性気管支鏡(OLYMPUS BF TYPE MP60)が登場し、獣医領域でも様々な気管支鏡下処置を行えるようになってきた。開胸手術に比べはるかに低侵襲に気道内治療を行える、姑息的だが迅速に呼吸状態改善が得られ初期安定化に有用、開胸手術を拒む患者・全身状態不良患者・肋骨骨折など開胸手術非適応患者にも適応可能、外科手術内容の縮小化とリスク軽減にも役立つ、など多くのメリットがある。一方で、的確な判断と手技が要求される。処置具の特性の理解不足や不適切な手技から患者や術者に重大な事故を引き起こす可能性があるので注意が必要である。以下、著者の経験の範囲で様々な気管支鏡下処置について挙げてみた。

1)気道内ステント留置

2002年、Gellaschらにより、犬の気管虚脱にはじめてself-expanding metallic stents (SEMS、図1)による気道内ステント留置1が行われた。以来、犬の気管虚脱治療にこの新しい治療法が導入されるようになってきた2-4。硬性気管支鏡のチャネル内にデリバリーシステムを通して透視下に目的部位で展開する(図2-4)。合併症は、ステント移動、肉芽形成、粘液停滞、細菌感染、および破損である。気道ステント留置後はステント内および端部の肉芽、細菌コロニー観察のため、2-3ヶ月ごとに定期的な気管支鏡検査がすすめられる(図5)。気管気管支軟化症の場合、胸部気管にステントを設置すると、呼気努力や咳による胸膜腔内陽圧上昇にステントの拡張力が耐えられなくなり、破損することがある5。この場合、内科的に末梢気道拡張を徹底して行うと気管分岐部の開存が得られる。そのあとで胸部気管へのステント設置を行うのがよいと考えられる。


図1 Self-expanding metallic stents (SEMS)。7-8Frの細いデリバリーシステム内に円筒型メッシュ状のステント材料が装填されている。右が展開中、左がステント本体。ステント自体はフレキシブルである。


図2 気道ステント留置例。写真は気管虚脱GradeIVを示すヨーキーの症例の初診時X線写真。胸郭前口部の気管が完全に扁平化している。


図3 同症例の透視下でのステント展開時の様子。


図4 同症例のステント展開直後のX線写真。気管が十分開存された。


図5 気道ステント内部の気管支鏡所見。気管内部にフィットしている。気管支鏡ではステント端部の肉芽形成、内部の細菌感染、粘液停滞の程度を観察する。

2) アルゴンプラズマ凝固(APC)

気道内肉芽や気道内腫瘍の失活や縮小に気管支鏡下処置として近年医学領域で使用されるようになってきた6。主な作用は非接触凝固である。凝固深度は浅く制限されている。レーザー治療の強力な蒸散作用に比べ組織縮小効果は小さいが、出血や穿孔事故の可能性は低いので安全性が高い。接線方向の焼灼も可能であり(図6)、犬猫の狭い気道腔内での処置に有利である。発煙も少ない。獣医領域でも、ステント内肉芽処置、気道内腫瘍、気道内止血凝固などに適用される(図7)。レーザーほどではないが、処置中の酸素濃度が高い(100%)と出火の可能性が指摘されている7。少なくとも気道内酸素濃度を40%未満、処置中酸素投与は中止し大気濃度とし、出力は40W、ガス流量0.8L/minという環境で気管支鏡下治療に用いられることがすすめられている7。レーザー治療に準じると、酸素投与から大気下換気にして30-40秒待ってから処置を開始し、1秒以上の連続照射をしないようにすすめられる8


図6 アルゴンプラズマ凝固の機序。アルゴンガスにモノポーラーの高周波電流が伝わり非接触凝固を行う。アルゴンプラズマビームは直線方向だけでなく十分に凝固されていない組織抵抗の低いところへもビームが自然と向かっていくので接線方向の焼灼も可能である。


図7 左主気管支から突出する気道内腫瘍に気管支鏡下APC焼灼を行っているところ。

引用文献

1.  Gellasch KL, Da Costa Gomez T, McAnulty JF, et al: Use of intraluminal nitinol stents in the treatment of tracheal collapse in a dog, J Am Vet Med Assoc, 221, 1719-1723, 1714 (2002)
2.  King JW, Walsh TE: Variable intrathoracic upper airway obstruction due to non-small cell lung cancer. Palliation using physiologic and mechanical stenting, Chest, 89, 896-898 (1986)
3.  Sun F, Uson J, Ezquerra J, et al: Endotracheal stenting therapy in dogs with tracheal collapse, Vet J, 175, 186-193 (2008)
4.  Sura PA, Krahwinkel DJ: Self-expanding nitinol stents for the treatment of tracheal collapse in dogs: 12 cases (2001-2004), J Am Vet Med Assoc, 232, 228-236 (2008)
5.  城下幸仁, 松田岳人, 佐藤陽子他: 気管気管支軟化症を示す犬の胸部気管に自己拡張型金属ステントUltraflex Diamondの留置を試みた1例, 第28回動物臨床医学会年次大会プロシーディングNo.3, 153-155 (2007)
6.  Stedja G, Bolliger CT: Endbronchial Electrocautery and Argon Plasma Coagulation, In:  Bolliger CT, Mathur PN, eds. Interventional Bronchoscopy. Prog. Respir. Res, 120-132, Karger, Basel (2000)
7.  Colt HG, Crawford SW: In vitro study of the safety limits of bronchoscopic argon plasma coagulation in the presence of airway stents, Respirology, 11, 643-647 (2006)
8.  佐藤雅美, 近藤丘: 内視鏡下治療の適応と安全性-高出力レーザー治療を安全に施行するために, In: 日本気管支学会 第13回気管支鏡セミナー 気管支鏡検査-基本、安全性とその進歩. 千葉: 第24回日本気管支学会, 67-79 (2001)


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