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犬の睡眠時無呼吸症と考えられた5例

城下 幸仁1)、山本 洋史1)、松田 岳人2)、岡西 広樹2)、高橋 多樹2)、秋吉 亮人2)、小野 かおり2)

Yukihito SHIROSHITA, Hiroshi YAMAMOTO, Taketo MATSUDA, Hiroki OKANISHI,
Masaki TAKAHASHI, Makoto AKIYOSHI, Kaori ONO

* Sleep apnea in 5 dogs

1) 相模が丘動物病院 呼吸器科、2)同 一般診療科 :〒228-0001  神奈川県座間市相模が丘6-11-7

連絡先:Tel 046-256-4351  Fax 046-256-6974  E-mail shiroshita@sagamigaoka-ac.com


犬の睡眠時無呼吸症についてはイングリッシュブルドッグの実験的記載以外になく、症例報告はない。著者らは、幼少時からのいびき歴があり、眠ることができなくなってしまった犬5例を経験した。この症状は、犬の睡眠時無呼吸症の終末像と考えられた。これら5例の臨床所見について記述した。

キーワード:いびき、犬、呼吸困難

はじめに

いびきをかくのは人と犬だけといわれる。人では、このいびきに関連する閉塞型睡眠時無呼吸症による夜間の呼吸障害・低酸素・高炭酸ガス血症が、生命予後を悪化させるということが知られている1。一方、犬の睡眠時無呼吸症については、イングリッシュブルドッグにおける詳細な研究データはあるが2、症例報告はない。著者らは、幼少時からのいびき歴があり、眠ることができなくなってしまった犬5例を経験した。今回、これら5例の臨床所見について記述した。

材料および方法

2008.12〜2009.5の6ヵ月間に、幼少時からのいびき歴あり、眠ることができなくなったことを主訴に当院呼吸器科に来院した犬5例を対象にした。これら5例は、犬坐姿勢からすぐに傾眠状態になり、頭部を傾けうとうとし始めまどろみ始めるが、数分で呼吸不整となり覚醒し、パンティングしたり、鳴き出したりした。この一連の症状を繰り返し結局眠れなくなっていた。どの犬も覚醒時の一般状態は維持されていた。この5例の犬種、年齢、性別、初診時体重、症状、肥満度(BCS)、動脈血ガス分析値、合併症、ビデオ透視検査にて咽頭閉塞を起こす呼吸相、頭部X線写真における上気道の解剖学特性、鼻鏡および気管支鏡所見、処置、転帰について記述した。

結果

表1−3に示した。1例は比較的若齢(4歳未満)、その他4例は中-高齢であった(4歳以上)。3例で度重なる呼吸停止を経験していた(No.1,2,4)。頭部X線写真では3例で喉頭降下、1例で舌根肥大(図1,2)がみられた。

表1 犬の睡眠時無呼吸症と考えられた5例(プロフィール等)
犬種 初診時年齢 性別 初診時体重 初診時症状 BCS
1 4歳8カ月 2.42kg 不眠、大きないびき、呼吸困難、失神 3
2 ポメラニアン 3歳3カ月 2.32kg 不眠、大きないびき、呼吸困難、喘鳴 2
3 チワワ 14歳6カ月 2.20kg 不眠、いびき 3
4 シーズー 11歳 6.14kg 不眠、大きないびき、Stridor、失神、咳 2
表2 犬の睡眠時無呼吸症と考えられた5例(動脈血ガス分析、ビデオ透視所見、頭部X線所見等)
初診時動脈血ガス分析所見* 合併症 咽頭閉塞 頭部X線写真所見 鼻鏡、気管支鏡所見
pH 7.38, Pco2 44, Po2 75, AaDo2 24   吸気時 喉頭下降 後鼻孔マス病変、喉頭虚脱
pH 7.40, Pco2 38, Po2 76, AaDo2 30   吸気時 舌根肥大 特異所見なし
pH 7.39, Pco2 46, Po2 67, AaDo2 30 慢性心不全 呼気時 喉頭下降 ND
pH 7.45, Pco2 41, Po2 70, AaDo2 29 慢性心不全 呼気時 喉頭下降 ND
pH 7.39, Pco2 39, Po2 85, AaDo2 18   呼気時 軟口蓋過剰 特異所見なし
ND:検査実施せず。
*:Pco2, Po2, AaDo2の単位はmmHg
表3 犬の睡眠時無呼吸症と考えられた5例(処置と転帰)
処置 転帰 処置後、動脈血ガス分析所見*
永久気管ろう設置術 3ヵ月後、ろう孔拡大術。術後8ヵ月、経過良好。 pH 7.43, Pco2 33, Po2 90, AaDo2 21
永久気管ろう設置術 術後6カ月、経過良好。 ND
内科的上気道拡張 2週間後やや改善。3ヵ月後再発。 pH 7.39, Pco2 46, Po2 81, AaDo2 14
内科的上気道拡張 2週間後やや改善。以降追跡不能。 ND
永久気管ろう設置術 術後2ヵ月、経過良好。 ND
ND:検査実施せず。
*:Pco2, Po2, AaDo2の単位はmmHg


図1 症例2の頭部X線写真。呼気時。鼻咽頭が開存している。


図2 同じく症例2の頭部X線写真。吸気時。鼻咽頭が完全閉塞している。喉頭と舌骨関節部がC2-C3間にあり(正常はC1-C2間)、喉頭の降下がみられる。また、舌根肥大もみられ咽頭閉塞を起こしやすくしている。

考察

犬の睡眠時無呼吸の臨床例の報告はいまだない。5例中4例で飼い主が発症まで成長に伴って明らかに大きくなっていくいびきを感じていた。また飼い主は、犬の症状悪化時には睡眠時呼吸停止や呼吸困難症状にたびたび遭遇し、背中をたたいたり、さすったりする覚醒刺激や、mouth to mouthによる人口呼吸などで呼吸が再開し、すぐに正常状態に復帰することを経験的に知っていた。これらは、睡眠時の咽頭閉塞を解除する方法である。今回示した犬5例の「眠ることができない」症状は、犬の睡眠時無呼吸症の終末像と考えられた。5例で共通する所見は、ビデオ透視検査にて吸気また呼気相で完全な咽頭閉塞がみられたことである。この咽頭閉塞は、永久気管ろう設置によって症状を改善できた。今回の5例は、いびきをかく犬は重篤な睡眠時無呼吸症に至る可能性を示した。

引用文献

1.  He J, Kryger MH, Zorick FJ, et al : Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients, Chest, 94, 9-14 (1988)
2.  Hendricks JC : Brachycephalic Airway Syndrome. In:  King LG, ed. Textbook of Respiratory Diseases in Dogs and Cats, 310-318, Elsevier SAUNDERS, Philadelphia (2004)


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