鼻鏡・喉頭鏡検査

症例150713

マキノベル-手術画像-150713 17-切除前

症例150713動画】 ベルちゃん。コーギー 避妊メス 13歳、体重10.7kg。ERインターパーク動物病院(栃木県宇都宮市)より診療依頼を受けました。2015年6月16日より異常呼吸音始まり、7月8日に自動車で移動中に呼吸困難となりチアノーゼ発症。救急病院受診。口腔内に嚢胞状病変あり咽頭を閉塞していた。貯留液を抜去し気道確保したとのことであった。精査加療希望のため呼吸器科受診。最終診断は、咽頭粘液囊胞。

 

 

経過詳細

患者名:ベル

プロフィール:コーギー、13歳、避妊メス

主訴:吸気性ストライダー、チアノーゼ歴あり

 

初診日:2015年7月13日

喉頭鏡検査日:2015年7月13日、2016年6月5日

手術日:2015年7月13日(囊胞切除)

退院日:2015年7月19日

再手術日:2016年6月6日(下顎腺切除、造袋術)

退院日:2016年6月12日

診断:咽頭粘液囊胞

除外された疾患:鼻腔内腫瘍、細菌性鼻炎、リンパ形質細胞性鼻炎

 

既往歴:口吻の急性腫脹(4歳)、左歯根部炎症(10歳)、アレルギー性皮膚炎(11歳)、膵炎(13歳)。

来院経緯:2015年6月16日より異常呼吸音始まり、7月8日に自動車で移動中に呼吸困難となりチアノーゼ発症。救急病院受診。口腔内に嚢胞状病変あり咽頭を閉塞していた。貯留液を抜去し気道確保した。7月13日、精査希望のため呼吸器科受診。

問診:これまで頸部や口腔内外傷歴はない。数年前から腰萎あり。いびきは軽度(レベル1/5)。1ヵ月前から開口呼吸が多くなってきた。睡眠可能であった。3週間前に吸気性ストライダーあり。5日前にチアノーゼとなり救急病院を受診し、咽頭内病変に対し緊急処置を行った。その後、呼吸症状は改善した。完全室内飼育、定期予防実施。運動不耐性評価*はⅠ/Ⅴ。

身体検査:体重10.7kg(BCS4/5)、体温:38.3℃、心拍数:90/分、呼吸数:パンティング。努力呼吸なし。聴診にて、咽喉頭に吸気性低調連続音あり。ICU内(気温23℃、FIO2 21%)にて横臥睡眠可能。

CBCおよび血液化学検査:ALP1378U/L, GPT90U/L, CRP1.7mg/dl

動脈血ガス分析:pH7.36、Pco2 39mmHg, Po2 87mmHg, [HCO3-] 21.5mmol/L, Base Excess -3.1mmol/L, AaDo2 16 mmHg。問題なし。

凝固系検査:PT8.4秒(参照値-犬、6.8-11.6秒)、APTT12.5秒(参照値-犬、9.7-17.6秒)

頭部/胸部X線および透視検査:頭部にて鼻咽頭後部から口咽頭にかけて直径約2cmの柔軟な軟部組織濃度の腫瘤状陰影あり(図症例2−02)。透視検査にて呼吸により位置や形が変化していた。胸部にて右中肺野に淡い浸潤影あり。心陰影拡大なし(VHS9.5)。

飼主へのインフォーメーション:咽頭粘液嚢胞が疑われる。5日前に嚢胞の容積は減少したと思うが、まだ直径2cmほどの嚢胞が軟口蓋の上方に残存している。嚢胞の可動性から考慮すると嚢胞そのものを切除可能と考えられる。肺機能は正常であり、陰圧性肺水腫や誤嚥性肺炎は生じていないと考えられる。CRP増加は、術後の咽頭内炎症か嚢胞と接触している咽頭気道の急性炎症によると思われる。咽頭以外に全身に問題はみられず、早期に嚢胞の精査と切除が必要と考えられる。もし、嚢胞切除不能なら下顎腺切除が必要となる。

飼い主の選択

嚢胞切除を希望する。不可能なら下顎腺切除もやむを得ないができるだけ高齢なので侵襲性の低い処置の嚢胞切除を行ってほしい。

二次検査

Ⅰ 全身麻酔下咽頭検査および喉頭鏡検査

仰臥位、経口気管チューブ挿管、開口保定とし、口咽頭右側壁の口蓋扁桃尾側から喉頭蓋右辺縁にかけ、内部が透見できるほどの薄い膜で覆われている直径2−3cm、柔軟な、赤色の嚢胞状病変が観察された。嚢胞を一部切除すると、暗赤色の粘稠粘液が少しずつ漏出した。嚢胞内粘液を採取し、微生物検査に供したが細菌は分離されなかった。

二次検査評価:咽頭粘液嚢胞と考えられる。貯留粘液は暗赤色粘稠であったが細菌感染なし。

Ⅱ 外科処置

咽頭内の粘液嚢胞を一部切開し、内部の粘稠粘液をできるだけ排出させ、嚢胞基部を2-0ナイロン糸で強く結紮し、結紮部分の5mm上を電気メスで切除し、切除断端は出血と感染波及防止のために電気メスの凝固処置を施した。切除した粘液嚢包は病理組織検査に供し、腫瘍性病変はみとめられず、嚢胞周囲は肉芽組織で境され、PAS陽性の分泌物を内部に満たし、粘液嚢胞の典型所見を示した。

麻酔管理概要:

前処置 ABPC20mg/kg+アトロピン0.05mg/kg SC

鎮静 ミダゾラム0.2mg/kg+ブトルファノール0.2mg/kg IV

導入 プロポフォール IV to effect (<5mg/kg)

維持 フォーレン0.5-2.0%

らせん入り気管チューブID7.5mm使用

口腔内検査17:00−17:15、咽頭粘液嚢胞切除17:32−18:15、陽圧換気17:10−18:30、抜管19:08

 

全体評価

最終診断は咽頭粘液嚢胞

予後

予後良好だが、数ヶ月から数年で再発が起こりえます。そのときは姑息的治療ではなく、下顎腺切除も含めて行うことを推奨します。

 

経過

術後1日間、横臥のまま少量の持続性鼻出血が認められたが、術後2日目に消失し、飲水、摂食に問題なかった。7月19日(術後6日)に無事退院となった。退院後1ヵ月、6ヵ月、9ヵ月で症状再発なく、頭部X線および透視検査でも異常を認めなかった。しかし、2016年6月5日(術後11ヵ月)、いびきの増大が認められるようになり、頭部X線および透視検査にて咽頭内に再び柔軟な腫瘤状陰影が出現した。口腔内観察によって同側同部位に粘液囊胞の再発を確認した。そこで、右下顎腺切除術および咽頭粘液のう胞に造袋術を施した。術後3日間、口粘膜術部の痛みによる呼吸数増加と摂食中断が認められたが、術部冷却と圧迫包帯、抗菌剤(アンピシリン20mg/kg IV 1日2回)、鎮痛剤(ブブレノルフィン0.02mg/kg IV 1日2回)にて、術後4日目に一般状態、食欲改善し、6月12日(術後6日)に退院した。1年後の2017年6月11日に症状およびX線検査にて再発なく、この時点で飼主の初期症状改善度評価は5/5(完全に改善)であった。