猫の鼻咽頭ポリープ1

プロフィールと来院経緯:マンチカン、オス、5歳3ヶ月齢。体重4.4kg。「幼少時より持続性stertor症状あり、様々な治療しても改善しなかった。次第に悪化して今は夜も熟睡できなくなるほど苦しくなっている」とのことで来院。秋田県秋田市より御来院。

図1 図2 図3 図4
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初診時頭部X線。
鼻咽頭腔後方を閉塞する大きな軟部組織濃度のマス陰影あり。
摘出したポリープ病変。塊部の最大径は20mmにも達した。 病理組織所見。過形成性ポリープと診断された。 第61病日の頭部CT所見。左鼓室胞の拡大と背内側部および鼓膜周囲の骨の厚みが増加し、内部は軟部組織陰影で充実していた。
図5 図6 図7
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同日の頭部MRI所見。左鼓室胞内に粘膜肥厚や炎症性産物貯留が疑われた。 第75病日、左側鼓室胞骨切り術を行った。鼓室胞内にも結節状ポリープが認められた。 鼓室胞内ポリープの病理組織所見。
炎症性ポリープと診断された
問診:近医にて約2年前からデポメドロール注射を受けている。最近は1-1.5ヶ月に1回注射しないと呼吸困難になる。ドライフードをたべづらそうにしている。くしゃみやレッチング症状はみられない。鳴くことが少ない。別の近医(むらおか動物クリニック、秋田県横手市)にて頭部X線写真を撮影し鼻咽頭ポリープが疑われた。室内単頭飼育。定期予防実施。同種同年齢の同居猫あるが呼吸症状なし。 身体検査所見:体重2.88kg(BCS 3)、体温38.7℃、心拍数200/分、呼吸数80/分。来院時開口呼吸あったが、すぐにICU管理(温度20℃、酸素濃度30%)をはじめ30分ほどで症状は落ち着いた。診察時も持続性stertorがみられ胸式吸気努力を示し、興奮すると悪化した。鼻汁はみられなかった。運動失調や眼振など末梢性前庭障害はみられなかった。耳鏡では外耳炎所見なかった。音にも敏感で聴覚には問題ないように思われた。カフテスト陰性。聴診にて肺野の呼吸音増強あり、副雑音なし。咽喉頭部で吸気時に0.2秒程度の短い低音調(250Hz)の喘鳴音が継続して聴取された。心雑音なし。
CBCおよび血液生化学検査所見:TP8.8mg/dl, ALB4.1mg/dlと高タンパク血症。
動脈血ガス分析所見:pH 7.37, Pco2 32mmHg, Po2 99mmHg, AaDo2 14mmHgと正常値を示した。
ビデオ透視検査および頭部・胸部X線検査:頭部X線lateral像にて鼻咽頭腔後方を閉塞する大きな軟部組織濃度のマス陰影あり(図1)。吸気時にわずかに軟口蓋との間隙が生じ、呼気時には咽頭腔は閉塞する。ビデオ透視でも同様の所見があり、鼻咽頭内塊病変はほぼ動かず、吸気時マス病変前に鼻咽頭に虚脱はみられなかった。肺野の異常陰影はみられなかった。
暫定診断:鼻咽頭ポリープ、鑑別疾患:鼻咽頭腫瘍
治療と経過:第1病日に確定診断と呼吸困難緩和のため緊急的に全身麻酔下に鼻咽頭ポリープ切除と耳道内の内視鏡観察行い確定診断をおこなった。気管内挿管後、口腔内観察にて可動性の少ない固い淡いピンク色の塊病変が軟口蓋反転によって容易に認められた。左側に茎部があるようであった。耳道を細径気管支鏡で観察したところ、両側耳道内にポリープ様病変はみられなかった。水平外耳道深部が狭窄していた。右鼓膜部位に異常はみられなかった。仰臥保定下に鼻咽頭腔への腹側アプローチによって、左側に腫瘤の茎部を確認し切除した。塊部の直径は20mm、細い茎部は長さ15mm程度であった(図2)。鼻腔内ブラッシング標本に細菌は検出されなかった。摘出した塊病変は病理検査にて過形成性ポリープと診断され(図3)、鼻咽頭内ポリープと確定診断した。術翌日には、呼吸症状は完全に消失し、食欲旺盛であった。第5病日経過良好のため退院となった。自宅でもstertorは完全に消失し一般状態は著明に改善した。第61病日、頭部CTおよびMRI検査を行った。CT検査にて左鼓室胞の拡大と背内側部および鼓膜周囲の骨の厚みが増加し、内部は軟部組織陰影で充実していた(図4)。MRI検査では、左鼓室胞内に粘膜肥厚や炎症性産物貯留が疑われた(図5)。右鼓室胞および外耳道に異常はみられなかった。これら所見に基づき、第75病日、イソフルレン吸入麻酔下、仰臥保定下に左側の腹側鼓室胞骨切り術を行った(図6)。鼓室胞内には黄白色の混濁液が貯留していた。吸引洗浄後、鼓室胞内のポリープ状病変をキュレットで慎重に削りとり細いサクションチューブで吸引除去も行った。鼓室胞の背内側部の深部まで洗浄を行い、8Frネラトンカテーテルを鼓室胞からドレーンチューブとして皮膚に留置した。貯留液には細菌は検出されず、鼓室胞内病変は鼻咽頭内ポリープと同様に非腫瘍性の増殖性病変であったが、粘膜下の間質にはリンパ球や形質細胞などのより顕著な炎症細胞浸潤が認められ炎症性ポリープと診断された(図7)。術後、顔面神経障害やホルネル症候群の症状はみられず良好に経過し、術後4日目でドレーンは抜去し、術後6日目で退院した。術後15日目で近医にて問題なく抜糸を終えた。現在、食事を一気に食べることができるようになり体重も3.22kgまで増え、毎日同居猫と激しく取っ組みあい、いびきもなく夜間は熟睡可能となり、術前とは見違えるように元気になった。
コメント:初診時はとても苦しそうでした。よく猫も飼い主様も2年間耐えられてきたと思いました。しかし、1回目の手術直後より、おそらく自分でも分らないくらい呼吸が楽になってしまったようです。2回目の手術は再発防止のために行っています。この手術を行わないとポリープの再発率は25-50%にもなります。
本症例では特別に、飼い主様の連絡先をぜひ公開してほしいとの希望がありました。同じような苦悩をかかえている人達の相談にのりたいとのことです。連絡先は、佐藤様(yqa04046@nifty.com)です。猫ちゃんの名前は、蓬(よもぎ)です。

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