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ポスターセッション

犬猫における気管支鏡検査−装置および基本手技について

城下 幸仁1)、松田 岳人1)、佐藤 陽子1)、柳田 洋介1)

Yukihito SHIROSHITA, Taketo MATSUDA, Yoko SATO, Yosuke YANAGIDA

Bronchoscopy in dogs and cats: instruments and procedure

1)相模が丘動物病院:〒228-0001  神奈川県座間市相模が丘6-11-7


犬猫における気管支鏡検査の装置および基本手技について概説した。
キーワード:犬、猫、気管支鏡検査

はじめに

今回、演者らの基礎研究データと70症例ほどの経験から犬猫の気管支鏡検査を安全かつ確実に実施するための装置および基本手技について述べる。

I. 設備、装置、スタッフ

設備:透視下で行う。気道内の変形が著しい場合、スコープの位置を確認できる。経気管支肺生検や気管支ブラシ擦過では透視が不可欠となる。
気管支鏡:対象動物に無理のないスコープ外径であること、操作しやすいこと、および画像解像度が高いことの3点を満たすことが理想である。演者らは、猫および体重14kg未満の犬には外径3.6mm×有効長550mmの細経気管支ファイバースコープ、体重14kg以上の犬には外径6.0mm×有効長925mmの動物用ビデオスコープを使い分けている。
スタッフ:リスクの高い症例の初回検査においては、気管支鏡医、鉗子助手、麻酔係、ビデオ・写真撮影係、検体処理係、染色係の計6名で臨んでいる。

II. 基本手技

麻酔とモニタ:症例に合わせた前処置を行うが、気道内分泌物抑制のためアトロピン0.05mg/kg皮下投与は常に行う。プロポフォールの持続投与(0.1-0.4mg/kg/min)で麻酔維持し、Spo2、心電図、血圧、およびカプノグラムをモニタする。

保定:著者らは仰臥保定で行っている。多くの場合、up方向にスコープや鉗子を誘導できるので全体的に比較的スムーズに操作が行えるようになる。
検査中の気道確保:導入直後は気管チューブを挿管し仰臥保定でモニタ設置を完了させ、維持麻酔に移行し、自発呼吸安定後、気管チューブを抜去し、酸素投与と換気維持のためラリンゲルマスクにY型アダプターを装着したものを口咽頭に設置している(図1)。Y型アダプターのもう一方は酸素投与で用いる。喉頭から観察可能となる。


図1 ラリンゲルマスクとY型アダプター(a)とID4.5mmの気管チューブ(b)の比較。最も小さいサイズのラリンゲルマスクでもID 5.25mmであり、挿入部径3.6mmの気管支鏡が裕に通過できる。一方、ID 4.5mmの気管チューブにはアダプターを外しても通過できない。ラリンゲルマスクとY型アダプターを用いれば、猫でも酸素投与しながら自発呼吸を阻害せずに気管支鏡検査が可能となる。

スコープ操作:右手で挿入部を持ち前後方向に動かし、左手で操作部を持ち左右にはrotation(図2)、上下にはレバーのup downで操作しながら粘膜を擦らないようにスコープを進める。Spo2が90%未満になれば一度スコープを抜く。全検査は15分程度で終了させる。


図2 スコープのrotation操作。画面左右へは手首のスナップを利かせて誘導する。気管分岐部から右主気管支内(白点線の円内)にスコープを進めている。

検査方法:原則として観察、ブラシ擦過、粘膜生検、経気管支肺生検、BALの順で検査を行う。

i) 観察:図3の番号順に系統的に観察し、方向、位置、気管支および分岐角度をただちに識別できるようにする。粘膜や壁構造の変化、管内および管外要因による変化をみる。


図3 犬の気管気管支樹と気管支鏡的命名法(左)および気管支鏡正常所見(右)。丸番号順に観察する。1-4は各断面での気管支鏡の正常所見を示す。1は気管、2は気管分岐部、3はRB1(肺外気管支)、4はRB4すなわち右後葉の肺内気管支内。3の縦走弾性線維の透見所見と4の右側2本一対の区域気管支に注目。

ii) ブラシ擦過:粘膜主体病変の評価である。上皮層病変に対し直視下に行う。もしくは目的気管支の末梢気道病変や病原体の評価も可能である。出血リスクの高い症例において肺生検の代用としてもある程度有用である。細胞診と微生物検査に供する。

iii) 粘膜生検:粘膜下主体病変の評価である。主に隆起性病変に対して直視下にて行う。病理検査に供する。動脈瘤などの柔軟な拍動性隆起は生検禁忌である。

iv) 経気管支肺生検:肺実質病変の評価である。透視下で行う。胸部X線所見により目的気管支を予定しておく。出血を最小限にするためできるだけ末梢部で生検を行う。

v) 気管支肺胞洗浄(BAL):肺胞および間質領域の評価である。滅菌生食水10ml×3回(外径3.6mmの気管支ファイバースコープ使用時)または25ml×3回(外径6.0mmのビデオスコープ使用時)を注入し回収する。回収液を、総細胞数算定、細胞診、Gram染色、細菌培養に供する。細胞診は、急性好中球性炎症、慢性活動性炎症、慢性炎症、好酸球性炎症、出血、腫瘍に分類1して評価する。検体評価のため挿入気管支、注入量、回収率を必ずデータに付記する。

III. 検査後の管理

検査終了後ただちにラリンゲルマスクを気管チューブに挿入しなおす。覚醒後、すくなくとも24時間は酸素室管理とし、抗生剤を3日間投与しておく。

参考文献

1.  Hawkins E.C, DeNicola DB, Kuehn NF. : Bronchoalveolar lavage in the evaluation of pulmonary disease in the dog and cat. State of the art. J Vet Intern Med, 4, 267-274 (1990).


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