気管支鏡検査一覧

症例527

Veterinary Bronchoscopy#527, Eosinophilic bronchopneumopathy, Italian Greyhound 2Y M, ホソカワjade1603003BS【症例527動画】 Jadeちゃん。イタリアングレーハウンド オス 2歳、体重5.6kg。王子ペットクリニック(東京都)より診療依頼を受けました。1ヶ月より咳が始まり、2週間前に終日の咳となり入院。ステロイドを混じたネブライザー療法や抗菌剤使用でやや症状緩和したが、まだ咳が多いとのことでした。 最終診断は、好酸球性気管支肺症。

 

 

 

経過詳細

患者名:Jade

プロフィール: イタリアングレーハウンド、2歳、去勢オス

主訴:遷延性発咳、胸部異常影

 

初診日:2016年3月3日

気管支鏡検査日:2016年3月3日

診断:好酸球性気管支肺症

疑われる合併疾患:気道感染

除外された疾患:気道異物、気道感染、細菌性気管支肺炎

 

既往歴:特になし

来院経緯:2月11日より咳が始まり、2月18日に終日の咳となり入院。ステロイドを混じたネブライザー療法や抗菌剤使用でやや症状緩和したが、まだ咳が多いので精査希望のため呼吸器科受診。

王子ペットクリニックにての経過

2/11初診 WBC8200/mm3, 末梢血Eos1394/mm3, CRP2.4md/g/dl→ネブライザー療法(3/週)+バイトリル注5mg/kg SC 1日1回

2/18入院 CXRにて強い気管支パターンあり。ネブライザー療法(GM+デキサメサゾン+ビソルボン+メプチン)1日2回、抗ヒスタミン剤および塩化リゾチーム 1日2回内服。1日ネブライザーを行なってから咳は7割減少した。

2/2退院 WBC10300/mm3, 末梢血Eos3600/mm3, CRP2.6md/g/dl、CXR改善、ABG正常(Pao2 104mmHg)→在宅ネブライザー療法(生食のみ)

2/27 経過観察 WBC8800/mm3, 末梢血Eos2024/mm3, CRP1.5md/g/dl

問診:咳は急に発症した。契機は不明だが、5日前に嘔吐があったこと、同居犬に使用する皮膚保湿用スプレーの使用回数が増加したこと、歯磨き粉の種類を変えたことの時期がおおよそ一致するかもしれない。当初、1度の咳イベントに1分位持続し、夜間や朝に咳が多かった。2月18日には終日の咳となった(咳スコア16)。2月22日の退院後咳は連日/1日3-10イベント/1イベントに30-60秒続く(咳スコア9)、現在咳は連日/1日>20イベント/1イベントに1-2分続く(咳スコア12)となっている。いずれもterminal retchが認められ、持続性の大きな強い咳であった。安静時にも咳があるが、動くときに咳が始まることが多い。全身状態は良好で食欲あり。同居犬1頭(イタリアングレーハウンド、若齢、皮膚のアレルギ症状あり)、完全室内飼育、定期予防実施。飼主の運動不耐性の主観評価*はⅠ。

身体検査:体重6.80kg(BCS3/5)、T:38.3℃、P:92/分、R:32/分。努力呼吸なし。聴診にて正常呼吸音増加なく呼吸副雑音も認められず。カフテスト*陽性(1/5)、胸部タッピング*にて咳誘発あり。

CBCおよび血液化学検査: 異常なし、CRP0.95mg/dl

動脈血ガス分析:pH7.42、Pco2 33mmHg, Po2 78mmHg, [HCO3-] 21.0mmol/L, Base Excess -2.1mmol/L, AaDo2 34 mmHg。軽度の低酸素血症。換気血流比不均等あり。

凝固系検査:PT8.0秒、APTT12.2秒。問題なし。

頭部/胸部X線および透視検査:頭部にて構造的および透視で確認できる咽喉頭協調運動に問題なし。胸部にて後肺野に気管支方向に沿った線状影の増加あり(increased airway-oriented interstitial density)。

評価および飼い主へのインフォーメーション:中枢気道性および痰産生性の持続性咳が急性発症し3週間経過しております。末梢血好酸球数増加が一貫した検査所見であり、皮膚症状や消化器症状が認められないことがからこの咳に関連していると考えられます。症状としては比較的軽い好酸球性肺炎か、好酸球性気管支肺症が疑われます。細菌感染を伴っているかどうかが問題となります。遷延性発咳の原因を正確に把握するための気管支鏡検査を行うことが薦められます。幸い、肺機能は十分に維持されており、当院気管支鏡検査実施基準であるPao2>60mmHgを満たしており、検査自体は実施可能です。

 

飼い主の選択

咳の原因究明のため二次検査を希望する。

 

二次検査

Ⅱ 気管支鏡検査(ラインゲルマスクを介した喉頭および気管気管支鏡検査)

1)  肉眼所見: 喉頭から気道粘膜全体は発赤。RB3入口部にわずかに粘液あり。

2)  気管支ブラッシング:RB3にて実施。細胞診にて好酸球数+、上皮細胞+、好中球++。細菌分離されず。

3)  気管支肺胞洗浄液解析(BALF解析):RB3にて実施。10ml×3回。回収率50%(15/30ml)。白濁し白色粘液小塊++。総細胞数増加4590/mm3 (正常 84-243/mm3)、細胞分画;マクロファージ4.8%(正常92.5%)、リンパ球0.4%(正常4.0%)、好中球64.1%(正常2.0%)、好酸球30.8%(正常0.4%)、好塩基球0.0%(正常0%)。腫瘍細胞なし。変性好中球が著増。好酸球性炎症パターン。細菌分離されず。

二次検査評価:末梢気道内での好酸球性炎症が主体と考えられます。変性好中球も著増しておりますが、細菌感染はありませんでした。

 

麻酔管理概要:

前処置 ABPC20mg/kg+アトロピン0.05mg/kg SC

鎮静 ミダゾラム0.2mg/kg+ブトルファノール0.2mg/kg IV

導入 プロポフォール IV to effect (<5mg/kg)

維持 フォーレン0.5-1.0%、プロポフォール持続投与0.2-0.4mg/kg/min

気管支鏡検査中はラリンゲルマスク#2.0にて気道確保にて自発呼吸、それ以外は気管チューブID5.0mm使用。

気管支鏡検査14:55−15:09、人工呼吸管理15:11−15:45、抜管16:04

 

全体評価

好酸球性気管支肺症であり、細菌感染を伴っておりませんでした。

 

予後

亜急性タイプの好酸球性気管支肺症は肺炎をともなっていることが多いですが、予後は良好です。一度治癒すると再発はありません。慢性タイプの好酸球性気管支肺症はステロイドの全身投与にて症状は速やかに消失しますが、投薬中断による再発率は約50%であり、長期治療になることがあります。現時点ではどちらの性格も併せ持ち、経過観察の中で最終診断となります。

 

治療

1)全身経口ステロイド療法 プレドニゾロン1mg/kg PO 1日2回より開始し、症状をみつつ漸減。

2)長期ステロイド投与の場合、血栓溶解剤(ルンワン粒 1日2回1錠など)併用。

3)ネブライザー療法は1)で反応不良のときに併用。抗菌剤は不要。

 

経過

かかりつけ医の王子ペットクリニックにてプレドニゾロン1mg/kg PO 1日2回より開始し、咳は1週間で完全に消失しました。その後、半年かけて投与量を漸減し、再発は認められなかったので最終的に投与を中止しました。その後2か月以上経過しておりますが、再発はみられないとのことです。亜急性タイプの好酸球性気管支肺症と考えられました。