気管支鏡検査一覧

症例470

サイトウダイズ150607喉頭-固定糸除去後【症例470動画】 ダイズちゃん。チワワ 10歳 オス、体重2.54kg。来院経緯と主訴:2014年7月に気管虚脱と診断され、気管外プロテーゼ設置術(PLLP設置術)と喉頭麻痺手術を受けてから、レッチング(グエーという強い空嘔吐の仕草)、飲水障害、摂食障害が続いている。2015年5月31日、精査加療希望のため飼主様ご自身(東京都)の希望で呼吸器科受診。最終診断は慢性咽喉頭炎、喉頭虚脱、咽頭気道閉塞症候群ステージ2。既往歴:なし。 問診:1歳齢頃よりボランティアより保護。保護時の体重は1.7kgだった。その当時から起きているときも眠っているときも舌が出ていた。幼少時からくしゃみが多く、粘漿性鼻汁を出していた。すぐに去勢手術を行ったがそのあとから体重が増加し2-3年で2.5kgになった。6歳頃より散歩途中からストライダーがよく生じるようになり、次第に悪化してきた。咳はなかった。その当時いびきはなかった。2014年(9歳齢)になって、夜間断眠が頻回みられるようになり、水を飲んではストライダーが生じていた。気管虚脱と診断され、2014年7月に気管外ステント術を受けた。同時に喉頭麻痺傾向があったので口腔側から矯正手術も行ったとのことだった。術後、ストライダーは消失したが、レッチングを繰り返した。はじめは食欲ありドライフードを食べていた。症状は次第に進行し、2015年4月に咽頭液喀出を伴うようになり、2015年5月中旬から水を飲まなくなった。アイスクリームやWetフードを与えてもレッチングするようになった。毎日散歩可能だが人に反応せず家ではじっとして動かない。声は正常と思う。レッチング時の症状はかなり苦しそうになってきた。同居犬なし、完全室内飼育、定期予防実施。 診察時徴候:BCS5/5、診察中傾眠あり。猪首。顎下軟部組織過剰。舌が常に口腔外に出ていた。単発性咳がときおりみられた。努力性呼吸なし。聴診にて咽喉頭領域にて最大の吸気時優位の低調気道狭音が聴取された。心雑音なし。カフテスト陰性。胸部タッピングにて咳誘発なし。 臨床検査所見:T:39.0℃、P:104/分、R:16/分。血液ガス分析にて軽度の低酸素血症を伴った慢性呼吸性アシドーシス(pHa 7.45、Paco2 41mmHg, Pao2 72mmHg, [HCO3-]a 28.1mmol/L, BEa 4.2mmol/L, AaDo2 28 mmHg)。AaDo2<30mmHgであり肺内要因は主因ではなく、上気道閉塞に伴う軽度の陰圧性肺水腫によるAaDo2の開大と考えられた。CBC/血液化学検査にて白血球数増加(17800/mm3)、CRP増加(4.6mg/dl)、X線および透視検査にて頭部にて著明な構造的咽頭閉塞(喉頭降下、咽頭周囲軟部組織増加、舌根の咽頭内への後退)あり、小下顎症が部分的には関わっていると考えられたが、咽頭背側壁の軟部組織は喉頭披裂軟骨を被覆するほど増加しており、吸気呼気とも咽頭閉塞が著明であり咽頭周囲軟部組織増加が、主要な構造的咽頭閉塞の要素と考えられた。しかし、透視にて吸気時咽頭閉塞/呼気時咽頭拡張の傾向がみられ、咽頭拡張筋群の代償能が保たれていると思われた。構造的咽頭閉塞は、意識が入眠レベルになるときにもっとも重度であり、睡眠呼吸障害を示唆した。明瞭ではないが、透視観察下では披裂軟骨の外転運動はわずかながら認められた。胸部にてスリガラス状陰影あり。心陰影は不鮮鋭で陰影拡大(VHS11.5)。喉頭直下7-10mm程度から胸郭入口部の気管は十分開存しており、透視にて気管気管支軟化症所見はみられなかった。 暫定診断と暫定処置と経過:咽頭気道閉塞症候群ステージ2と咽喉頭炎と暫定診断し、入院にて冷温酸素管理下のICU管理、ネブライザー療法を7日間実施後、体重はレッチングの減少とCRP2.1mg/dlにまで減少したことを確認し、2015年6月7日、気道安全確保のため気管切開下に咽喉頭の観察のため内視鏡検査を行った。 喉頭および気管気管支鏡検査所見:肉眼所見にて右側喉頭の楔状突起と甲状舌骨間にナイロン糸が一糸ループ状に縫合されており、その周囲で咽喉頭粘膜は発赤していた。気管内は管外ステントが良好に縫着され気管径を保っていた。気管内に少量の喀痰が認められたのでブラッシングにて採取した。培養にてStaphylococcus intermedius 1+が分離され、ABPC, CEX, IPM, CP, FOMに感受性を示した。喉頭虚脱も認められたが、披裂軟骨の外転がわずかに認められた。そこで、永久気管切開は回避し、咽喉頭内のナイロン糸を抜去し咽喉頭炎の緩和を試みることにした。咽頭スワブの微生物検査にてStaphylococcus intermedius 2+、G群Streptococcus 2+、Escherichia coli 2+、Klebsiella pneumoniae 1+が分離され、4菌種ともに感受性を示した抗菌剤はIPM、CP、FOMであった。 気管切開チューブを留置して検査を終了した。 確定診断:慢性咽喉頭炎、喉頭虚脱、咽頭気道閉塞症候群ステージ2。  最終治療:Jetネブライザー(咽喉頭をターゲットとし肺水腫予防のため超音波ネブライザーは不適と判断した。生食5ml+クロロマイセチン局所溶液5% 0.5ml+ビソルボン吸入液0.5ml+ボスミン外用液0.5ml)、抗菌剤(FOM 31.25mg/h PO 1日2回)投与。 転帰:検査後一時的に咽喉頭炎症状の悪化がみられたが支持療法を徹底し、感受性ある抗菌剤判明後次第に症状は改善した。入院15日目、一般状態は回復したので退院となった。自宅にて、在宅Jetネブライザー療法(生食5ml+クロロマイセチン局所溶液5% 0.5ml+ビソルボン吸入液0.5ml+ボスミン外用液0.5ml/回、1日2回以上)、在宅酸素療法(酸素濃度25%、温度22-23℃に維持、24時間)、ホスミシン錠250mg 1日2回1/8錠(12.5mg/kg)ずつ、食事はWet食を少量ずつ、体重減量(目標2.0kg。1日100kcalに制限)を継続。現在、退院後約2ヶ月が経過し、まだ飲水できず、食後にレッチングあるが、受診前に比べよく走るようになったとのこと。診察時の咳も減少した。Spo2 98%を示し自宅でも室内気で呼吸変化なしとのことで在宅酸素療法は中止し、室内気で部屋全体の冷房管理に切り替えた。現在、経過観察中。