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第10回 小動物呼吸器症例検討会 (平成18年8月11日) 配布資料

血液ガスと肺機能 Part3-低酸素血症と症例検討- 相模が丘動物病院 呼吸器科 城下 幸仁
血液ガスとは?
血液ガスとは、生命の営みの基本である酸素と炭酸ガスの流れをみるものである。血液ガスデータは生命に直結することもあり、数ある臨床検査の中で最優先項目とされ、迅速かつ正確な解釈が要求される。動脈血ガス分析は、低酸素血症、高炭酸ガス血症、および酸塩基平衡障害を評価し、小動物臨床では無麻酔で実施可能な唯一の呼吸機能検査法と認められている1

I. AaDo2 20-30mmHgの解釈について

酸素化能の指標。シャント、拡散障害、換気血流比不均等で開大する。PIO2の低下や肺胞低換気では開大しない。非循環・呼吸器疾患犬群(n=140)、上気道・中枢気道閉塞疾患症例群(初診のみ、n=61)、心原性肺水腫症例群(初診のみ、n=32)の比較を行ってみた。AaDo2の平均値(mean±SD)は、それぞれ非循環・非呼吸器疾患犬 15.2±7.2mmHg、上気道・中枢気道閉塞疾患 24.3±10.3mmHg、心原性肺水腫 54.8±14.4mmHg であった。


図1 3疾患群のAaDo2の比較。非循環・呼吸器疾患群の75%は20mmHg以下を示した。上・中枢気道閉塞疾患では半数が20-30mmHgに分布し、非循環・呼吸器疾患群より有意に高い値を示した。理論的には、上・中枢気道閉塞疾患ではAaDo2の上昇はみられないはずであるが、実際には換気血流比不均等など何らかの肺機能障害が生じていると考えられる。AaDo2 20-30mmHgは肺疾患が潜在している可能性があることを示す。

II. 症例検討(前回からの続き)

ii)     拡散障害 肺毛細血管血と肺胞ガスとの間でPo2が平衡に達していないこと。
症例7 心原性肺水腫。ポメラニアン、メス、9y。体重2.7kg。咳、呼吸困難。
pH7.368 Paco2 39.1mmHg Pao2 51.7mmHg [HCO3-] 22.0mmol/L B.E. -2.9mmol/L AaDo2 55.5mmHg
症例8 特発性間質性肺炎。雑種犬。オス。15y1m。体重23.40kg。慢性発咳、軽度の努力呼吸、胸部X線写真にびまん性間質陰影。
pH7.45 Paco2 33mmHg Pao2 58mmHg [HCO3-] 22.6mmol/L B.E. -0.3mmol/L AaDo2 54mmHg
症例9 肺浸潤。雑種犬、オス、16y。体重16.40kg。咳、腹囲膨満、ALP 2235U/L
pH7.433 Paco2 29.3mmHg Pao2 70.8mmHg [HCO3-] 19.2mmol/L B.E. -4.1mmol/L AaDo2 44.0mmHg
iii)     シャント 解剖学的シャント
症例10 動脈管開存症末期。シェルティ、オス、10y1m。体重11.24kg。4歳齢時より左心基部連続性雑音、5ヶ月前より心不全治療開始。受診時重度の呼吸困難、チアノーゼ。
pH7.438 Paco2 34.7mmHg Pao2 39.0mmHg [HCO3-] 22.9mmol/L B.E. 0.6mmol/L AaDo2 69.4mmHg
iv) 換気血流比不均等
肺毛細管シャント
症例11 びまん性肺癌。ビーグル、オス、16y6m。体重14.5kg。僧帽弁閉鎖不全の既往あり。呼吸困難、努力呼吸、チアノーゼ。
pH7.404 Paco2 50.6mmHg Pao2 38.4mmHg [HCO3-] 31.0mmol/L B.E. 4.7mmol/L AaDo2 51.2mmHg
症例12 気胸による肺虚脱。雑種犬、オス、14y。体重14.7kg。呼吸困難、咳。
pH7.390 Paco2 39.9mmHg Pao2 65.8mmHg [HCO3-] 23.6mmol/L B.E. -1.1mmol/L AaDo2 44.1mmHg
症例13 ARDS。Mダックス、オス、3m。体重2.25kg。3日前に2階より落下。次第に呼吸困難悪化。チアノーゼ。(2007年獣医領域でのARDSの診断基準が検討された2)
pH7.388 Paco2 37.3mmHg Pao2 41.3mmHg [HCO3-] 22.0mmol/L B.E. -2.5mmol/L AaDo2 64.9mmHg
相対的な肺毛細管シャント---気道閉塞が特徴的なので高炭酸ガス血症を伴う。
症例14 COPD。シーズー、オス、10y。体重4.25kg。呼吸困難、歩かない。胸部X線写真にて肺野透過性亢進。急性増悪を繰り返しながら努力呼吸が次第に悪化していった。
pH7.434 Paco2 40.3mmHg Pao2 81.4mmHg [HCO3-] 26.4mmol/L B.E. 2.0mmol/L AaDo2 24.7mmHg(221d)
pH7.452 Paco2 43.9mmHg Pao2 60.3mmHg [HCO3-] 30.0mmol/L B.E. 5.3mmol/L AaDo2 42.8mmHg(361d)
pH7.368 Paco2 48.2mmHg Pao2 46.7mmHg [HCO3-] 27.1mmol/L B.E. 1.1mmol/L AaDo2 48.4mmHg(782d)
相対的な肺胞死腔---ほぼ例外なく過換気を伴う。
症例15 肺血栓塞栓症。シーズー、メス、14y。体重7.0kg。多飲多尿、腰部脱毛あり。呼吸困難で起立不能。ALP2923U/L、TChol>450mg/dl, APTT9.5s(対照12.3-17.6s)。
pH7.378 Paco2 23.1mmHg Pao2 55.3mmHg [HCO3-] 13.3mmol/L B.E. -9.6mmol/L AaDo2 69.2mmHg
症例16 肺血栓塞栓症疑い。ポメラニアン、オス、12y。体重4.85kg。持続性パンティング。ALP>3000U/L、TChol>450mg/dl, APTT10.6s(対照12.3-17.6s)
pH7.456 Paco2 34.2mmHg Pao2 60.6mmHg [HCO3-] 23.5mmol/L B.E. 0.3mmol/L AaDo2 48.9mmHg
症例17 フィラリア症。雑種犬、オス、10y。体重11.4kg。6年前にフィラリア感染。興奮時失神転倒あり。胸部X線写真にて肺動脈の肥大・途絶所見あり。
pH7.454 Paco2 26.1mmHg Pao2 52.1mmHg [HCO3-] 17.9mmol/L B.E. -4.4mmol/L AaDo2 66.1mmHg
特殊な症例
症例18 気道閉塞を伴った肺水腫。柴犬、メス、15.4y。体重10.3kg。1年前左踵軟骨腫切除。6ヶ月前より心不全治療。
pH7.325 Paco2 46.6mmHg Pao2 29.8mmHg [HCO3-] 23.8mmol/L B.E. -2.5mmol/L AaDo2 65.6mmHg
ステロイド治療翌日
pH7.453 Paco2 26.9mmHg Pao2 61.0mmHg [HCO3-] 18.4mmol/L B.E. -3.8mmol/L AaDo2 56.2mmHg

引用文献
1.  McKiernan BC, Johnson LR. Clinical pulmonary function testing in dogs and cats. Vet Clin North Am Small Anim Pract 1992;22:1087-1099.
2.  Wilkins PA, Otto CM, Baumgardner JE, et al. Acute lung injury and acute respiratory distress syndromes in veterinary medicine: consensus difinitions: The Dorothy Russell Havemeyer Working Group on ALI and ARDS in Veterinary Medicine. J Vet Emerg Crit Care 2007;17:333-339.


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