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第9回 小動物呼吸器症例検討会 (平成18年6月30日) 配布資料

血液ガスと肺機能 Part2-低酸素血症と症例検討- 相模が丘動物病院 呼吸器科 城下 幸仁

血液ガスとは?
血液ガスとは、生命の営みの基本である酸素と炭酸ガスの流れをみるものである。血液ガスデータは生命に直結することもあり、数ある臨床検査の中で最優先項目とされ、迅速かつ正確な解釈が要求される。動脈血ガス分析は、低酸素血症、高炭酸ガス血症、および酸塩基平衡障害を評価し、小動物臨床では無麻酔で実施可能な唯一の呼吸機能検査法と認められている1

I. 当院での動脈血ガス分析実施状況(1994-2008.6現在)

i. のべ実施回数:犬715回、猫77回(最近3年間では犬299回、猫38回)。
ii. 初診時での低酸素血症検出率:Pao2<80mmHg 31.7% (106例/334穿刺)。
<45 mmHg 4.8% (16例)、45-60 mmHg 9.6%(32例)、60-80 mmHg 17.4%(58例)

II. AaDo2 肺胞気動脈血酸素分圧較差

酸素化能の指標。シャント、拡散障害、換気血流比不均等で開大する。PIo2の低下や肺胞低換気では開大しない。<20mmHgで正常、20-30mmHgで肺機能異常可能性あり、>30mmHgで異常と評価できる。非循環・呼吸器疾患犬140例のデータの平均値(mean±SD)は、15.2±7.2mmHgと算出された。

III. 酸塩基平衡について

血液のpHは、生体内のホメオスターシスにより7.35-7.45の非常に狭い範囲に維持されている。この酸塩基平衡は、血液の緩衝系、肺からの揮発性酸の排泄、腎からの不揮発性酸(リン酸や硫酸など)の排泄、および腎でのHCO3-再吸収の調節でコントロールされている2。重炭酸塩系は唯一開放された緩衝系であり、もっとも迅速かつ効果的に機能している。重炭酸塩系のみで全緩衝能の50%以上を担っている3。したがって、
CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H+ + HCO3- は酸塩基平衡においてもっとも重要な関係を表現している。
さらに、この化学平衡式から導かれた以下のHenderson-Hasselbalch式

pH = pKc + log [HCO3-]/0.03×Paco2 (1)

は、pH、腎で調節される代謝性因子[HCO3-]、呼吸因子Paco2との相互関係を説明している。
(1)  式を概観すると、

pH 〜 [HCO3-]/Paco2 〜 腎/肺 (2)

すなわち、肺または腎のどちらかにだけ障害があれば、健常側が障害側の機能を補って、pHを正常に戻そうとする。このことを酸塩基平衡の代償という。このように、血液ガス分析の各パラメーターは、一方で呼吸機能を評価しつつ、他方で酸塩基平衡のバランスをとりながらお互いに影響し合って変動している。pHの低下を酸血症(Acidemia)、逆に上昇をアルカリ血症(Alkalemia)と呼ぶ。[HCO3-]の減少を代謝性アシドーシス・上昇を代謝性アルカローシス、Paco2の低下を呼吸性アルカローシス・上昇を呼吸性アシドーシスと分類する。Base Excess(B.E.)は、患者の全血1L中の緩衝能をもつ全ての塩基の合計から、正常者の値を差し引いたものと定義されている。したがって、B.E.は[HCO3-]と異なり呼吸因子によらない代謝性因子である。

IV. 症例検討

i. 肺胞低換気 単位時間に肺胞に流入する新鮮なガスの量(肺胞換気)の減少
症例1 抗けいれん剤過量投与。マルチーズ、メス、12y。BW 4.36kg。痙攣発作重積のためフェノバール頻回投与。
pH7.291 Paco2 49.8mmHg Pao2 81.6mmHg [HCO3-] 23.4mmol/L B.E. -3.5mmol/L AaDo2 19.2mmHg
症例2 クッシング症候群。ポメラニアン、オス、14y2m。体重2.40kg。
pH7.492 Paco2 46.8mmHg Pao2 83.6mmHg [HCO3-] 35.0mmol/L B.E. 10.2mmol/L AaDo2 12.2mmHg
症例3 喉頭小嚢外反。パグ、メス、7y2m。体重8.55kg。Stridorあり。
pH7.407 Paco2 40.0mmHg Pao2 98.2mmHg [HCO3-] 24.6mmol/L B.E. 0.0mmol/L AaDo2 6.0mmHg
症例4 短頭種気道症候群。キャバリア、メス、10y2m。体重6.76kg。いびき、stertorあり。傾眠。頭部X線写真にて軟口蓋過剰、咽頭部軟部組織過剰。
pH7.41 Paco2 42mmHg Pao2 77mmHg [HCO3-] 26.1mmol/L B.E. 1.8mmol/L AaDo2 25mmHg(術前)
pH7.46 Paco2 36mmHg Pao2 84mmHg [HCO3-] 25.3mmol/L B.E. 2.2mmol/L AaDo2 25mmHg(術後)
症例5 喉頭麻痺。Mダックス、オス、1y4m。体重7.30kg。喘鳴、呼吸困難。
pH7.40 Paco2 50mmHg Pao2 58mmHg [HCO3-] 26.4mmol/L B.E. 3.7mmol/L AaDo2 30mmHg(受診時)
pH7.45 Paco2 38mmHg Pao2 72mmHg [HCO3-] 26.0mmol/L B.E. 2.7mmol/L AaDo2 34mmHg(気切後)
症例6 中枢気道内腫瘍。雑種猫、メス、9y5m。体重4.20kg。喘鳴、呼吸困難、肋骨骨折。
pH7.42 Paco2 46mmHg Pao2 70mmHg [HCO3-] 29.3mmol/L B.E. 4.7mmol/L AaDo2 25mmHg

ii.  拡散障害 肺毛細血管血と肺胞ガスとの間でPo2が平衡に達していないこと。
症例7 心原性肺水腫。ポメラニアン、メス、9y。体重2.7kg。咳、呼吸困難。
pH7.368 Paco2 39.1mmHg Pao2 51.7mmHg [HCO3-] 22.0mmol/L B.E. -2.9mmol/L AaDo2 55.5mmHg
症例8 特発性間質性肺炎。雑種犬。オス。15y1m。体重23.40kg。慢性発咳、軽度の努力呼吸、胸部X線写真にびまん性間質陰影。
pH7.45 Paco2 33mmHg Pao2 58mmHg [HCO3-] 22.6mmol/L B.E. -0.3mmol/L AaDo2 54mmHg
症例9 肺浸潤。雑種犬、オス、16y。体重16.40kg。咳、腹囲膨満、ALP 2235U/L
pH7.433 Paco2 29.3mmHg Pao2 70.8mmHg [HCO3-] 19.2mmol/L B.E. -4.1mmol/L AaDo2 44.0mmHg

iii.  シャント 解剖学的シャント
症例10 動脈管開存症末期。シェルティ、オス、10y1m。体重11.24kg。4歳齢時より左心基部連続性雑音、5ヶ月前より心不全治療開始。受診時重度の呼吸困難、チアノーゼ。
pH7.438 Paco2 34.7mmHg Pao2 39.0mmHg [HCO3-] 22.9mmol/L B.E. 0.6mmol/L AaDo2 69.4mmHg

iv. 換気血流比不均等
肺毛細管シャント
症例11 びまん性肺癌。ビーグル、オス、16y6m。体重14.5kg。僧帽弁閉鎖不全の既往あり。呼吸困難、努力呼吸、チアノーゼ。
pH7.404 Paco2 50.6mmHg Pao2 38.4mmHg [HCO3-] 31.0mmol/L B.E. 4.7mmol/L AaDo2 51.2mmHg
症例12 気胸による肺虚脱。雑種犬、オス、14y。体重14.7kg。呼吸困難、咳。
pH7.390 Paco2 39.9mmHg Pao2 65.8mmHg [HCO3-] 23.6mmol/L B.E. -1.1mmol/L AaDo2 44.1mmHg
症例13 ARDS。Mダックス、オス、3m。体重2.25kg。3日前に2階より落下。次第に呼吸困難悪化。チアノーゼ。
pH7.388 Paco2 37.3mmHg Pao2 41.3mmHg [HCO3-] 22.0mmol/L B.E. -2.5mmol/L AaDo2 64.9mmHg
相対的な肺毛細管シャント---気道閉塞が特徴的なので高炭酸ガス血症を伴う。
症例14 COPD。シーズー、オス、10y。体重4.25kg。呼吸困難、歩かない。胸部X線写真にて肺野透過性亢進。急性増悪を繰り返しながら努力呼吸が次第に悪化していった。
pH7.434 Paco2 40.3mmHg Pao2 81.4mmHg [HCO3-] 26.4mmol/L B.E. 2.0mmol/L AaDo2 24.7mmHg(221d)
pH7.452 Paco2 43.9mmHg Pao2 60.3mmHg [HCO3-] 30.0mmol/L B.E. 5.3mmol/L AaDo2 42.8mmHg(361d)
pH7.368 Paco2 48.2mmHg Pao2 46.7mmHg [HCO3-] 27.1mmol/L B.E. 1.1mmol/L AaDo2 48.4mmHg(782d)
相対的な肺胞死腔---ほぼ例外なく過換気を伴う。
症例15 肺血栓塞栓症。シーズー、メス、14y。体重7.0kg。多飲多尿、腰部脱毛あり。呼吸困難で起立不能。ALP2923U/L、TChol>450mg/dl, APTT9.5s(対照12.3-17.6s)。
pH7.378 Paco2 23.1mmHg Pao2 55.3mmHg [HCO3-] 13.3mmol/L B.E. -9.6mmol/L AaDo2 69.2mmHg
症例16 肺血栓塞栓症疑い。ポメラニアン、オス、12y。体重4.85kg。持続性パンティング。ALP>3000U/L、TChol>450mg/dl, APTT10.6s(対照12.3-17.6s)
pH7.456 Paco2 34.2mmHg Pao2 60.6mmHg [HCO3-] 23.5mmol/L B.E. 0.3mmol/L AaDo2 48.9mmHg
症例17 フィラリア症。雑種犬、オス、10y。体重11.4kg。6年前にフィラリア感染。興奮時失神転倒あり。胸部X線写真にて肺動脈の肥大・途絶所見あり。
pH7.454 Paco2 26.1mmHg Pao2 52.1mmHg [HCO3-] 17.9mmol/L B.E. -4.4mmol/L AaDo2 66.1mmHg

特殊な症例
症例18 気道閉塞を伴った肺水腫。柴犬、メス、15.4y。体重10.3kg。1年前左踵軟骨腫切除。6ヶ月前より心不全治療。
pH7.325 Paco2 46.6mmHg Pao2 29.8mmHg [HCO3-] 23.8mmol/L B.E. -2.5mmol/L AaDo2 65.6mmHg
ステロイド治療翌日
pH7.453 Paco2 26.9mmHg Pao2 61.0mmHg [HCO3-] 18.4mmol/L B.E. -3.8mmol/L AaDo2 56.2mmHg

引用文献
1.  McKiernan BC, Johnson LR. Clinical pulmonary function testing in dogs and cats. Vet Clin North Am Small Anim Pract 1992;22:1087-1099.
2.  城下幸仁. 特集 血液ガス 血液ガスとは-その理論の重要性. infoVets 2000:11-16.
3.  Simmons DH. Evaluation of acid-base status. Broadway, NY: American Thoracic Society; 1974.
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