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第5回 小動物呼吸器症例検討会 (平成19年10月15日) 配布資料

犬の気管虚脱 Part2-緊急処置、気道ステント療法-

相模が丘動物病院 城下 幸仁

迅速診断のための問診・身体検査のポイント

重症度は? 虚脱→緊急気管内挿管、呼吸促迫→外部冷却+酸素室
喘鳴か、浅速呼吸か、呼気努力か?→上気道閉塞、肺実質性、末梢気道閉塞
咳の性質は湿性でないか?→心疾患または肺炎などとの鑑別
上気道閉塞疾患(いびき、吸気努力)はあるか?→鑑別および合併の確認
Gaggingはあるか?→喉頭の不全麻痺との関係
聴診にて喉頭から頚部、気管分岐部、左右主気管支で喘鳴音最強部とsnap音の部位→気道狭窄部位の推定
肺音にてcrackleあるか? →肺水腫(course), 末梢気道疾患(fine)の有無

よくみられる緊急例

1. 夏季に熱射病のように高体温を伴い喘鳴を示す。→まず外部冷却
2. 興奮後のpantingから咳が止まらなくなったり喘鳴が悪化したりする。
3. 飲水後や食事後にむせて咳や喘鳴が悪化する。
4.  panting後失神して倒れる。
5.  執拗な嘔吐やretching(空嘔吐)を伴って咳がとまらない。→喘鳴を伴っていないか? 気管虚脱を含む上気道閉塞疾患の緊急症例では、白色液をしきりに吐くなどの、retchingを主訴として来院することがある。これは吸気努力によって胸腔内陰圧の著しい上昇によって胃食道逆流が生じるためと説明されている。

緊急症例の多くは軟口蓋過剰、短頭種気道症候群および喉頭麻痺などの上気道閉塞を伴っているように思われる。いびき歴や犬種などから短頭種気道症候群の非代償期と早期に鑑別診断する必要があり、そうでなければ初期症状が安定化するまで、まずステロイドを抗炎症量投与(プレドニゾロン1mg/kg IM)し、酸素室(流量3-5L/分or 濃度40%程度)にて安静管理とする。ほとんどの例で30-60分以内に安定する。その間呼吸様式と聴診を行いできるだけ他の上気道疾患や心肺疾患と鑑別する。

それでも呼吸症状が安定しないなら?

酸素室で30-60分経過しても継続して開口呼吸や犬座姿勢が継続してみられれば、
1. 慎重に胸部X線DV像(一番安全)を撮影し、肺水腫と鑑別する。
2. 肺水腫と鑑別不能なら、胸部X線ラテラル像を撮影し、さらに肺水腫との鑑別。
3. 肺水腫なら心原性でも非心原性でもlasix 1mg/kg IMを投与する。
4. 心原性肺水腫と診断できないなら、酸素濃度を最大限上げ、ステロイド(デキサメタゾン1ml)+エピネフリン(ボスミン1ml)+生理食塩水(20ml)でネブライゼーションを行う。呼吸一般状態を十分観察しながら行う。
5. それでも呼吸症状が安定化しないなら、予後不良である。ただ、演者はこの場合、シリコンチューブを挿入し救命し得た症例を経験した。

症例1

13歳6ヶ月、オス、ヨーキー
主訴:猛暑時散歩後喘鳴が一晩中続く。
身体検査所見:体重2.90(kg)、体温40.3(℃)、パンティング、喘鳴
胸部X線写真・透視所見:胸郭前口部から胸部気管にかけ虚脱あり
気管支鏡検査:完全虚脱
診断:気管虚脱GradeIV
緊急処置:保存的に経過観察したが喘鳴続き、自作シリコンチューブを虚脱部に挿入
経過:翌日体を動かしたときに喘鳴がみられたが食欲が回復した。6日後症状安定し退院。
〈考察〉保存療法に反応しなければ何らかの気道開存処置が必要と考えられた。

症例2

7歳6ヶ月齢 去勢雄 チワワ
主訴:昨夜砂肝ジャーキーを食べてから苦しそうな咳が続く。白い泡を吐く。
身体検査所見:体重6.95(kg)、体温38.3(℃)、心拍数104(/min)、呼吸数60(/min)。持続性ストライダーを伴った急性呼吸困難。吐出。Retching。
CBCおよび血液生化学検査:WBC 41800(/μl)
胸部X線および透視所見:頚部気管尾側部から胸部気管の扁平化。食道内ガス。食道造影にて食道拡張および食道運動性低下
暫定診断:気管虚脱および食道内異物
上部消化器内視鏡検査:食道および胃内異物なし
気管支鏡検査:第5頚椎前端から第7頚椎尾端レベルの気管で完全虚脱。
診断:気管虚脱Grade?
治療と経過
緊急処置:気管支鏡検査に引き続き、完全虚脱部位にシリコンステント(外径9mm×長さ55mm)を可及的に留置し覚醒させ、酸素室管理とした。しかし2時間後にステントは喀出され喘鳴が再開した。ステロイドと抗生剤を吸入療法と注射にて7日間続け初期症状を安定化させた。
シリコンステント留置と術後経過:第8病日、外径11mm×長さ90mmのシリコンステントを留置した。4日後より咳は減少し活動性が増加した。第15病日に血液ガスで換気能と酸素化は正常を示し(それぞれPaco2 37 mmHg、Pao2 80 mm Hg)退院とした。以来、体動時に咳をするが一般状態は良好であった。しかし留置後4ヶ月頃より咳の程度と頻度が増加してきた。第112病日にはPao2 72 mmHgおよびA-aDo2 39 mmHgと肺機能低下を示し、気管支肺胞洗浄液(BALF)の解析では総細胞数3665/mm3と著増し好中球が71%と多数を占めた。有意な起炎菌は検出されず、排痰障害が示唆された。第147病日には体重が退院時に比し約20%減少し食欲消失した。
Easy Wallstent留置と術後経過:排痰障害改善のため第147病日シリコンステントを抜去し、Moritzの方法に従い外径12mm×長さ10mm[full open]のEasy WallstentTM(Boston Scientific)を留置した。翌日より咳は著明に減少し、4日後に全身状態が回復した。6日後には肺機能正常化し(Pao2 82 mmHgおよびA-aDo2 21 mmHg)退院となった。その後体重も順調に増加した。再留置後28日目に激しく吠えたためステントが尾方へ3mm移動し、一時的に咳がみられたがプレドニゾロン0.5mg/kg q24h を2週間投与して症状は回復した。再留置後112日目にはPao2 81 mmHg、A-aDo2 26 mmHgおよびBALF総細胞数255/m3を示し、再留置前の排痰障害による肺機能低下は改善されていた。気管支鏡検査ではステント内面のほぼ全域にわたる上皮化が確認された。一方、ステント内面に膜状の粘液停滞がみられたので在宅吸入療法を継続することにした。
在宅管理:全経過を通じて自宅で、排痰補助、気道内炎症抑制および肉芽形成防止のため、生食3 ml、ゲンタマイシンあるいはアミカシン 0.1 ml、およびデキサメタゾン0.1 mlを混じた薬液の吸入療法を1日2回行った。197病日より発咳予防ためブトルファノール0.05mg/kg q12h POを始めた。激しい運動は避け、なるべく吠えないように管理した。
〈考察〉シリコンステントは短期的には有用であるが、4ヶ月後に排痰障害による肺機能低下を起こした。Easy Wallstentに交換して排痰障害は消失した。今後、長期経過を気管支鏡にて観察していく予定である。

まとめ

完全気管虚脱と悪化要因により呼吸状態は急激に悪化し緊急状態となる。短頭種気道症候群の非代償期や喉頭麻痺などの他の上気道閉塞疾患との迅速な鑑別が重要である。保存療法に反応を示さない場合、何らかの気道開存処置が必要となる。

気道ステント療法は緊急非侵襲的療法として短期的には有用である。シリコンステント留置で4ヶ月後に排痰障害が生じた例があった。Easy Wallstentは現時点でもっとも有用なステント材料といえるが、長期的には、咳や、ステント端の肉芽形成および粘液停滞による中枢気道閉塞が起きる可能性があり気管支鏡検査によるfollow-upが必要である。

参考資料

相模が丘動物病院HP(www.sagamigaoka-ac.com
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院長紹介
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Textbook of Respiratory Diseases in Dogs and Cats (Saunders, 2004)---
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第46章 犬の気管虚脱


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