第2回 小動物呼吸器症例検討会 (平成19年4月23日) 配布資料
短頭種気道症候群 Part2 -外科療法の根拠と外科侵襲;気道抵抗、急性上気道閉塞に起因する非心原性肺水腫と壁ストレス、気管切開、外科矯正を試みた3症例
相模が丘動物病院 城下 幸仁
呼吸停止(Apnea)のリスク
全身麻酔 General anesthesia > 鎮静 Sedation >= 睡眠 Sleep >>> 覚醒 Awake
さらに外科侵襲が加わると、咽頭を拡張させる複雑な協調運動にも影響を与える。
症例1
7y1m、避妊済メス、パグ
症状:ストライダーおよび元気消失
診断:喉頭小嚢外反を伴った短頭種気道症候群
外科矯正:喉頭小嚢切除術→軟口蓋切除術
経過:術後stertorおよび吸気努力が3時間続いたが翌日には症状消失。
X線所見:術後、軟口蓋後端の鼻咽頭腔断面が1.7→3.0mmに広がり、さらに咽頭背側壁の咽頭腔側への引き込みがなくなり、咽頭が広く開存した。
<考察>このX線所見は、軟口蓋の鼻咽頭側軟部組織の外科的減量により、舌骨装置内の気道抵抗が大きく減少し、咽頭背壁軟部組織の引込みが消失し咽頭腔が広く開存し、その結果stertorが減少したと考えられた。これがBASの外科療法の根拠である。
1. 気道抵抗について
Poiseuilleの法則により、管腔内の気流量は気道半径に大きく影響されることが分かる。半径が2倍になると、気流量はその4乗の16倍にもなる。わずかの気道拡張で気道抵抗を著明に下げることができる。
2. 吸気努力について
上気道閉塞により肺内への流入気量が減少すると、肺内レセプターが反応し、反射的に吸息筋の活動亢進が生じ吸気時間が延長する。その結果、胸腔内陰圧が上昇し肺が拡張しようとする。この反射をHering-Breuer反射と呼ぶ。このように上気道閉塞の吸気努力は無意識な反射運動で制御されている。
症例2
6y3m、メス、キャバリア
症状:横臥を嫌がる。運動不耐。持続性stertor
治療歴:2y4m, 2y11mに2度の軟口蓋切除術
X線所見:呼気時に咽頭腔拡張→鼻咽頭閉塞を示唆
診断:短頭種気道症候群
外科矯正:軟口蓋切除術。術部にステロイド+エピネフリンを局注。
経過:術後stertorおよび吸気努力が6時間続き起立不能。次第に呼吸困難が悪化し重度な肺水腫を起こしていた。再挿管による気道確保、陽圧換気、利尿剤投与も無効であり、再挿管して11時間後に肺拡張不全のため死亡した。
<考察>本症例はすでにBASの非代償期にあったと考えられ、上気道拡張筋の代償性活動は限界に達していた。術後、咽頭の協調運動失調のため急性上気道閉塞に起因する非心原性肺水腫が生じたと思われた。
3. 急性上気道閉塞に起因する非心原性肺水腫
原因は明らかではないが、毛細血管壁の機械的破壊による肺毛細血管の透過性増加という説が有力である。これは肺毛細血管の壁ストレス破綻で説明される。
4. 壁ストレス
(管内圧-管外圧)× 半径 / 壁の厚さ で表現される。実験的に管内外圧差が70 mmHgを超えると肺毛細血管壁の破綻が生じ始めるとされている。上気道閉塞による吸気努力時には非常に高い胸腔内陰圧が生じるため、毛細血管壁の機械的破壊が生じている可能性は高い。
症例3
9m、メス、フレンチブル
症状:Stridor。外で1m歩くとチアノーゼを示し座り込む。
X線所見:軟口蓋の著しい肥厚、吸気毎に喉頭蓋が咽頭背側壁に接触。
診断:軽度の喉頭小嚢外反を伴った短頭種気道症候群
外科矯正:喉頭小嚢切除術+軟口蓋切除術。術直後、double lumen気管切開チューブ設置
経過:術後全く喘鳴症状なく状態良好。3日間気切チューブ管理を行い、経過良好のため抜去し、術後6日目でstridorはほぼ消退し活動性改善し退院。
<考察>double rumen気切チューブ設置は、術直後に生じる上気道閉塞症状を回避し、術後経過を安定化させることができると考えられた。
5. 気管切開
軟口蓋切除術前に頚部腹側を毛刈および剃毛して術野準備しておく。輪状軟骨より3リング以上後方の気管軟骨間の輪状靭帯を1/3周程度横切開し、気管切開チューブを挿入する。軟口蓋切除術後には、カフなし、double lumen、外径が気管内径の75%程度のものを設置する。完全覚醒まで、術部腫脹が消失するまで、あるいは咽頭の協調運動が再び適応してくるまでの一時的な気道のバイパス手段と考える。設置後は、水蒸気で加温加湿した空気を吸引できるようなケージに管理し、2時間ごとに内筒交換を行う。チューブを塞いで上気道閉塞症状が生じないことを確認できたら、その気切チューブを抜く。気切孔は開放のまま自然閉鎖を待つ。通常1週間ほどで閉鎖する。
まとめ
-軟口蓋の鼻咽頭側軟部組織の外科的減量により、舌骨装置内の気道抵抗が大きく減少し、咽頭背壁軟部組織の引込みが消失し咽頭腔が広く開存する。
-致命的な外科侵襲の1つに難治性肺水腫がある。これは術部腫脹や咽喉頭の術後運動統合性失調による急性上気道閉塞によると思われる。
-この肺水腫は、double rumen気切チューブを術直後に設置し適切に管理することで回避できる。
参考資料
相模が丘動物病院HP(www.sagamigaoka-ac.com)
- 院長紹介
- Textbook of Respiratory Diseases in Dogs and Cats (Saunders, 2004)---
- 第5章 上気道閉塞、いびき様喘鳴、ストライダー、第40章 短頭種気道症候群
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