第1回 小動物呼吸器症例検討会 (平成19年3月15日) 配布資料
短頭種気道症候群 Part1-病態;外科矯正を行ったパグの1例、睡眠時無呼吸と上気道拡張筋群による代償性活動-
相模が丘動物病院 城下 幸仁
短頭種気道症候群 Brachycephalic Airway Syndrome(BAS)とは?
ブルドック、ペキニーズ、パグ、ボクサーを代表犬種とし、外鼻孔狭窄、軟口蓋過長症、気管低形成、喉頭小嚢外反、および鼻道の解剖学的構造による慢性進行性上気道閉塞を示す症候群
-基本用語
喘鳴:気道の完全または部分閉塞によって現れる呼吸困難症状。ゼーゼーなどの狭窄音を発する。吸気努力として現れる。
喘鳴>上気道閉塞(いびき様喘鳴 stertor /ストライダー stridor)+中枢気道の閉塞+末梢気道の閉塞(喘息など)
-上気道の解剖
鼻腔、後鼻孔、鼻咽頭、口咽頭、喉頭、気管
短頭種では舌骨装置内でもっとも気道が狭窄している。
外科矯正を行ったパグの1例
7y1m、避妊済メス パグ
身体検査所見:BW8.55kg, T38.3℃ P128/分 R24/分, ストライダーおよび元気消失
血液ガス分析:pHa 7.407, Paco2 40.0 mm Hg, Pao2 98.2 mm Hg, A-aDo2 6.0 mm Hg
頚部X線所見:喉頭内腹側壁に扁平隆起陰影、軟口蓋肥厚、鼻咽頭後部狭窄
透視下観察所見:隆起陰影の呼吸性遊動、吸気時における軟口蓋の扁平化、吸呼気間における喉頭の変位大
気管支鏡所見:喉頭粘膜の浮腫、声門直下正中腹側壁に柔軟な隆起病変
診断:喉頭小嚢外反を伴った短頭種気道症候群
外科矯正:喉頭小嚢切除術→軟口蓋切除術
経過:ストライダー消失・いびき様喘鳴(stertor)残 →いびき様喘鳴消失
睡眠時無呼吸 Sleep Apnea
-BASの代表犬種であるイングリッシュブルドックでふつうにみられ、BASの病態との関与が指摘されてきた。イングリッシュブルドックはヒトの睡眠時無呼吸症の自然発生モデルとなった。→Hendricks JCらの詳細な研究
-症状:異常な傾眠、いびき、閉塞性無呼吸、中枢性無呼吸。覚醒時には呼吸機能はほぼ全く正常である。
-浅い睡眠(徐波睡眠SWS)では軽度だが、深い睡眠(REM睡眠)で呼吸休止のイベントが毎時5〜100回程度多発する。
-呼吸休止はなぜ生じるのか?
-上気道拡張筋の活動低下>横隔膜の活動低下
-REM睡眠期
-姿勢筋を中心とする全身の筋活動が低下する。
-呼吸は血液ガスの値によるホメオスターシスで調節されておらず筋活動に依存し、呼吸再開は不規則な筋活動に依存している。
上気道拡張筋群の代償性活動
-上気道拡張筋群:胸骨舌骨筋(SH)、オトガイ舌骨筋など、主に舌骨に終止し、上気道を拡張させている。通常は、嚥下、頭部の運動、吠えなどに関与する。
-ブルドッグの終末呼気には咽頭はほぼ閉塞するが、吸気が始まると拡張し始める。この様式は正常犬と全く逆である。
-ブルドッグ
覚醒時:SH活動が常にある(ほぼ100%)。
REM睡眠時:SH活動が低下する。
-非短頭種コントロール犬
覚醒時:SH活動は不規則に間欠的(32%)
REM睡眠時:SH活動は不規則にやや活動増加。
ブルドッグでは、代償性に咽頭を拡張させる筋の活動亢進が、気道開存性と正常呼吸を維持するのに必要である。
-上気道拡張筋群の経年負荷
-イングリッシュブルドッグの上気道拡張筋には浮腫・線維化がみられ、この傷害の程度と、睡眠時無呼吸の程度は相関する。
-進行例では、代償期よりも舌骨装置部分を拡張させているが、軟部組織がそれ以上に入り込み、正味の気道拡張は減少し、筋負担が増加する。
-また、進行例では、次第に覚醒時でも、血液ガスにて低酸素・高炭酸ガス血症が進行し、換気障害が進行していく。
BASの自然経過
0-2w 睡眠時無呼吸症状なし
6w-3m 覚醒時にも睡眠時にも無呼吸症状あり
4m-4y REM睡眠時にのみ無呼吸症状あり
4y- 運動不耐や意識消失などの代償不全徴候始まる
6-7y 非REM睡眠時も低酸素血症。呼吸不全・心不全あり
8y- 代償不全による呼吸停止のため、突然死の自然発症が多く認められる
まとめ
-BASは慢性進行性上気道閉塞疾患である。
-BASは舌骨装置内の軟部組織の過剰侵入による解剖学的気道狭窄に起因し、覚醒時には代償性に上気道拡張筋を活動亢進させて気道開存し、呼吸を維持している。
-睡眠時には、とくにREM睡眠期には不規則な上気道拡張筋の休止を反映し、睡眠時無呼吸が生じる。
-BASでは、上気道拡張筋活動の経年負荷により、4歳齢以上で睡眠時無呼吸症状の進行とともに代償不全症状が始まり、8歳齢以上になると代償不全による呼吸停止、すなわち突然死に陥る。
参考資料
相模が丘動物病院HP(www.sagamigaoka-ac.com)
- 院長紹介
- Textbook of Respiratory Diseases in Dogs and Cats (Saunders, 2004)---
- 第5章 上気道閉塞、いびき様喘鳴、ストライダー、第40章 短頭種気道症候群